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コメント
1件
あははははは尊☆(((((くそ
とうこうしたくなっちゃう
おわらせたくない…ばんがいへんすたーと!
ドアが閉まって、
その音が、思ったより大きく響いた。
……静かだ。
さっきまで、
あの部屋には、呼吸の音があった。
少し苦しそうで、
でも、安心しきった寝息。
(……寝たな)
ポケットの中で、
鍵を握り直す。
歩きながら、考える。
看病なんて、
正直、慣れてない。
どう声をかければいいかも、
どの距離が正解かも、分からなかった。
でも。
(……離れたいとは、思わなかった)
それだけは、はっきりしてる。
コンビニの前を通る。
昼間、
アイスを選んでたときの顔を思い出す。
「どっちが当たりだと思う?」
あのとき、
どうでもいいことで笑ってた。
(……普通だ)
それが、
やけに嬉しかった。
歩道橋の上。
立ち止まって、空を見る。
夕焼けが、
ゆっくり色を変えている。
(……前は)
守らなきゃ、
支えなきゃ、
そう思ってた。
でも今日。
布団の中で、
手が触れたとき。
(……守るとかじゃない)
(……一緒に、いたかっただけだ)
胸の奥が、
少しだけ、ぎゅっとする。
「……ああ」
小さく、声が出る。
(……これか)
言葉にすると、
急に現実になる気がして、
今まで避けてた。
でも。
(……好きだ)
重くない。
苦しくもない。
ただ、
当たり前みたいに、そこにある。
スマホを見る。
連絡は、まだ来てない。
(……起こすなよ)
そう思いながら、
また画面を閉じる。
矛盾してるのに、
不思議と落ち着いてる。
家の前。
鍵を開ける前に、
もう一度、思う。
(……明日も、行く)
(……元気でも、元気じゃなくても)
それが、
特別な決意じゃないことに、
少し驚く。
部屋に入って、
ベッドに座る。
今日一日を、
ゆっくり巻き戻す。
怖くなかった。
逃げたくもなかった。
(……好きって)
(……こういうことか)
メッセージを、ひとつだけ送る。
おんりー:
「無理すんな。ちゃんと寝ろ」
送信。
返事がなくても、
それでいい。
電気を消す。
明日も、
同じ道を歩く。
同じ時間を、
少しずつ重ねる。
それでいい。
それがいい。
好きだ。
やっと、
自分にだけ、そう言えた夜だった。
朝。
熱は、ほとんど下がっていた。
体はまだだるいけど、頭ははっきりしてる。
スマホを見る。
おんりー:
「起きたら連絡しろ」
短い。
でも、昨日より少しだけ多い。
(……あれ)
前は、こんな言い方じゃなかった気がする。
昼前。
インターホンが鳴る。
「……おはよ」
昨日と同じマスク。
同じ袋。
でも――
(……目、ちゃんと見てくる)
それだけで、
胸が、少しだけざわっとした。
部屋。
「……まだ、だるいか」
「……うん、少し」
おんりーは、うなずいて、
いつもより近い位置に座る。
近いのに、
触れない。
(……距離、計ってる?)
そんな考えが浮かんで、
自分で驚く。
水を飲むとき。
「……ゆっくりでいい」
声が、やけにやさしい。
前から優しかった。
でも、
“守る”感じじゃない。
(……なんだろ)
(……気にしてる?)
少し沈黙。
その間に、
おらふは思い出す。
昨日、眠る前。
手を伸ばして、
離されなかったこと。
(……あれ)
(……偶然、じゃないよな)
「……なあ」
おらふが言う。
「……昨日さ」
「……帰ったあと、どうしてた?」
おんりーは、一瞬だけ、言葉に詰まる。
「……普通」
「……帰って、寝た」
でも、
視線が、少しだけ泳いだ。
(……嘘、下手)
胸の奥で、
何かが、静かに繋がる。
「……おんりー」
名前を呼ぶ。
それだけで、
相手の肩が、わずかに動いた。
(……あ)
(……これ)
(……俺、知ってる)
「……俺さ」
おらふは、ゆっくり言う。
「……看病されて、思った」
「……ひとりじゃないって」
「……すごく、安心した」
おんりーは、黙って聞いている。
逃げない。
「……それで」
「……今日」
少し、息を吸う。
「……おんりーのほうが」
「……緊張してるの、分かった」
一瞬。
空気が、止まる。
「……気づいた?」
小さな声。
「……うん」
即答だった。
「……でも」
「……名前、まだ分かんない」
正直な答え。
でも、
目は、そらさなかった。
おんりーは、少し困った顔をして、
それから、笑う。
「……じゃあ」
「……分かるまででいい」
その言葉が、
すごく大事に思えた。
夕方。
熱は、完全に下がる。
「……もう大丈夫そうだな」
「……うん」
玄関で、靴を履きながら。
「……なあ」
おらふが言う。
「……明日」
「……一緒に、行ける?」
おんりーは、少しだけ間を置いて、うなずく。
「……もちろん」
ドアが閉まる。
でも、
昨日とは違う静けさ。
(……多分)
(……俺も)
(……同じところに、近づいてる)
そう思って、
胸が、あたたかくなる。
変わったのは、
態度じゃない。
気持ちを、隠さなくなったこと。
それに、
ちゃんと気づけた自分が、
少しだけ誇らしかった。
次の日の朝。
校門の前で、
おんりーが待っていた。
「……もう平気?」
「……うん。たぶん」
たぶん、って言葉に、
おんりーが少しだけ眉を下げる。
でも、何も言わない。
並んで歩く。
前より、歩幅が自然だ。
無理に合わせてない。
(……気を使ってる)
でもそれが、
嫌じゃない。
教室。
席に着くと、
前の方が少しだけざわつく。
噂は、まだ完全には消えていない。
でも、
今日は、刺さらなかった。
おんりーが、
何も言わずに、机を少し寄せる。
それだけで、
十分だった。
授業中。
消しゴムが転がる。
おらふが拾おうとした瞬間、
指先が、少し触れる。
びくっとする。
でも、離さない。
一秒。
それ以上は、何もしない。
(……言わない)
(……でも、逃げない)
昼休み。
屋上じゃなく、教室。
二人で、同じ机を使う。
「……今日のパン」
「……それ、昨日も言ってた」
「……好きなんだよ」
笑う。
周りの視線もあるけど、
もう、背中を丸めなくていい。
放課後。
委員会の手伝い。
帰りが、少し遅くなる。
廊下に残る足音は、
二人分。
「……なあ」
おんりーが言う。
「……今」
「……言わなくていいよな」
おらふは、少し考えて、うなずく。
「……うん」
「……今は」
「……このままで」
昇降口。
靴を履き替える。
「……また明日」
「……うん、また」
一瞬、
言いそうになる。
でも、
言わない。
帰り道。
影が並ぶ。
距離は、近い。
でも、
手はつながない。
(……今、言ったら)
(……壊れる気がする)
でも同時に、
(……言わなくても)
(……もう、始まってる)
そんな気がした。
夜。
布団の中で、
今日を思い返す。
特別なことは、何もない。
でも――
胸が、静かに満ちている。
(……まだ、言わない)
(……でも)
(……大事にしてる)
それは、
もう否定できなかった。
言葉は、まだ。
でも、
気持ちは、同じ場所にある。
それでいい夜だった。