💜『好き、なんて、簡単な言葉だろ?』
悪友とファンに称されるふっかが俺に言った。
ふっかは自分の好きな人を奪われて、死ぬほど苦しいはずなのに、どうして今、そんなことを俺に言うんだろう。
ふっかが自殺して、俺は、ふっかの亡霊を見るようになった。
💛「翔太」
照が心配そうに俺を見ている。
俺に触れようとして、手を伸ばす。
💙「やめろ!!!!!」
俺は愛する照を遠ざけた。
9人いたSnow Manは、死という誰も望まない形での深澤の強制脱退で8人になり、追悼コンサートが行われることになった。
喪章を付けた残りのメンバーでステージに立つ。衣装はラウールがデザインして、この仕事が終わったらすぐにフランスへ発つという。
ラウールはそのまま一人で欧州で活動すると決めた。
目黒の脱退も決まっている。康二も悩んでいると聞く。
Snow Manは、そう遠くない未来にオリジナルメンバーから深澤を除いた5人になるだろう。
ふっかの死は、俺たちの絆をバラバラにし、俺の大切な居場所を壊した。
金木犀の香り。
ふっかの霊が現れる時には、必ずその香りに包まれる。俺は悪寒が止まらず、全身がぶるぶると震えてしまうのだ。
💙「ふっか。もう、許して…」
💜『何言ってるんだよ。俺の苦しみはこんなもんじゃないよ』
💙「本当にごめん……まさかふっかが死ぬなんて、思わなかったんだ」
俺は涙を流した。
とめどなく流れる涙を見ても、あんなに優しかったふっかは顔色ひとつ変えない。
💜『俺を殺してまで照が欲しかったんだろう?』
正面から現れたかと思ったら、
💜『どうして、照と一緒にいないんだ?』
次は後ろから。
目を閉じても、耳を塞いでも、意味がない。
ふっかは怒ってるんだ。
俺が、照を好きだなんて言ったから。
優しい照は断りきれなかったんだ。
本当にそれだけなんだよ。
💙「照は、俺なんか好きじゃないよ……」
真っ暗な部屋で、俺は一人だ。
わかってる。
これは、罰なんだ。
自分の身勝手で、招いてしまった結末。
でも、もうなかったことにはもうできない。
一生。
一生、罪を背負って独りで生きていくんだ。
💜『翔太。俺はお前を絶対に許さない…』
ふっかの声が耳の奥で木霊する。
🖤「岩本くん、しょっぴーは…」
目黒の問いに、岩本は首を振った。
💛「先生の見立てでは、様子を見るしかないらしい。薬の後遺症で、ひどい妄想に取りつかれてしまっている」
💚「翔太、どうしてこんなことになっちゃったんだよ…」
阿部の悲痛な声が響いた。
ガラス越しに見える渡辺。
焦点の合わない目をして、ぶつぶつ何かを呟いている。放っておくとすぐに自傷行為に走るので、全身に拘束具を付けられている。
その目にはもう何も映らない。
その耳にはもう何も聞こえない。
時折、聴こえるのは、歌。
何度も、ステージで歌った歌。
囁くような小ささだが、その美しい歌声は、深い悲しみを纏い、聴く人の心を打った。
看護師さんはみな、ここへ来ると泣いてしまうのだという。自然、人の出入りは減ってしまった。
❤️「帰ろう。ここにいても、仕方ない」
宮舘は冷静に言った。
明日はコンサート。
渡辺を欠いた8人で半年ぶりにファンの前でステージに立つ。Snow Manは8人でこれからも何も変わらず続いていく。
空席のメインボーカルは、今後目黒が務めることになった。
もういくつかCDも録り直している。
🩷「翔太、帰って来れるかな」
🤍「良くなるよね。きっと」
誰もその問いの答えは持たない。
🧡「当たり前やろ…。このままなんてことにはさせへんよ。俺たちが」
向井はもう泣いている。
みんなで病院の暗い廊下を外へと歩いて行った。
そして、岩本と深澤だけがその場に残った。
💜「照」
岩本はまだ、渡辺から離れることができない。
最後に見た泣き顔を忘れられないから。
渡辺は確かに、言った。
💙『お前が好きだ』
と。
次の日から渡辺は数日間、行方不明になり、帰って来たと思ったら、ひどい薬物中毒になっていた。
💛「翔太…」
💜「照、行こう?」
💛「うん…」
岩本の背に腕を回して、二人は病室を後にする。去り際に、深澤は渡辺を振り返った。
どうしても欲しかったもの。
お前なんかには、渡さない。
渡辺は、何もない空間へ、失われた愛を歌い続ける。
岩本だけが、何も知らない。
おわり。