テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの夢の続きだ。
君に手を引かれている。
前回と同じ、何も無い世界。
君は前を向いているので表情は分からない。背中の羽だけが歩く度ふわふわと揺れて、不思議と撫でられているような、触れていないのにそんな感覚になる。
ねえ、と声を放ってみる。
ぴたりと歩みを止めた。でも頑なにこちらを見ない。もう一度放ったが俯くだけ。顔が見たいのに、何だか苛々としてきてこっち見てよ、と繋がった手を引っ張る。
意外にも抵抗なく、ぐらりとこちらを向いた。
君は泣いていた。
白い睫毛が揺れる度、宝石のような光る涙をぽろぽろと流している。
視界の端で黒く焦げが侵食してきていた。
終わりが、近い。
◻︎◻︎◻︎
肩をゆらされ、はっとした時には到着していた。いつの間にか眠っていたらしい。しかもあんな夢を見るなんて。緊張とショックのせいだ、ってまた既視感のある言い訳をしている。タクシーを降りると吐く息が全て白くて無性に切なさを覚えた。
滲む視界で若井に支えられながら何とか歩く。
病室までが物凄く遠い。冬の夕方の訪れは息付く間もなく早くて置いていかれてしまいそう。道中、全く彼とは話す事無く前だけを歩いていた。不思議と心地よかった。
受付を終え、藤澤涼架と書かれたプレートを睨む。
若井が病室の扉の斜め横にあるいくつかの椅子に座った。ふぅ、ため息をひとつ付き壁にもたれる。そして頭ごとずりり、とこちらを向く。
2つの黒い瞳が俺を捕らえる。
口だけが動き、言葉は発さずとも何が伝えたいか分かった。
『行ってこい。どうなっても俺は元貴の味方だから』
深く頷く。
「…ありがと。」
若井は、歴戦の戦士のように疲れた顔でくしゃっと笑った。ああ、本当にお前は。彼の優しさがあまりにも眩しくて目を逸らす。
ドアノブに手をかける。
天使の寝床に、1歩足を踏み入れた。
◻︎◻︎◻︎
最初の入院と大差ない、こじんまりとした部屋。
カーテンに包まれたベットは人の気配を感じた。
歩く度、呼吸する度うるさく響く。
窓を見ると茜色に染まった田舎の景色が遠くまで広がっていて、夏頃に撮ったMVを彷彿とさせる。所々少し雪も見えるため時間の経過を強調していた。暑いくらいの暖房が付いているから上着を脱いで椅子に掛け、カーテンをすぐに引ける位置に立つ。
「だーれだ」
緊張を解すため、呑気に呼びかける。正直まだしっかり心の準備が出来ておらず、起きておいて欲しくないから鼓動が早くなる。だが、もそりという音の後に弱々しく返事が聞こえた。
「元貴…?」
たった1枚の布越し、ずっと聞きたかった君の声。それだけで嬉しくなる自分がいる。と同時に寂しくもなる。
あと何回、そうやって俺を呼んでくれる?
あと何回、君をイジることが出来る?
あと何回、君と曲を作れる?
…そして、あと何回、君の笑顔が見れる?
黙ってしまった俺に違和感を抱いたのか、いるの?と尋ねられる。深呼吸をして、顔を上げた。
「…うん、入るよ。」
カーテンを開く。
そこには、暫く見ない間に睫毛に白が増え、髪も白髪とは違う銀色のものがちらほらと見える君がいた。天使の羽もかなり大きくなっている。
ゆっくりと君はこちらを見る。
「元貴……。」
その、ごめん、と言っていたが気にせず抱きしめる。
暖かい。ちゃんと会うのは久しぶりだ。あれ、身体細くなった?フェーズ1の時程じゃないけどまたヒョロくなったね。最近体調よく崩してたもんね。でもそれはそれ、これはこれだ。
「なんで言わなかったんだよ、ばか」
思ったより涙声になった。
「…ごめんね。休めって言われちゃうかなって」
「当たり前だろ。だからこうなったんじゃん」
ベッドが邪魔をしていて角度的にしんどいので、1度離れて不貞腐れた顔で涼ちゃんを見る。困ったように眉尻を下げて俺の頭を撫でた。反対の手には点滴後がいくつも見えて怒りと寂しさでまた視界がぼやけてきた。
「もう、涼ちゃんの癖に。ほんと、涼ちゃんは、なんて言うんだろうな…」
はあ、と笑って君を見つめる。
「遅くなっちゃったけど…俺の想い、聴いてくれる?」
「…うん、聞かせて。」
いつの間にか緊張はどこかへ行っていた。頭に置かれていた手を握る。
「…俺ね、涼ちゃんが好きなの」
「…うん」
「厳しいこと言っちゃうし、我儘もいっぱいしちゃうけど、どうしようも無く好きなの」
「うん」
「そりゃ大事な涼ちゃんなんだから、少しでも長く生きて欲しいから、休ませたいに決まってるよ」
「うん」
「どんな姿形になっても、会いに行くから。見つけたいから。だから……藤澤涼架さん」
膝立ちになり、プロポーズのように片手を背中に、もう片方の手は君に重ねて言う。驚いたように君は目を見開いた。
「こんな俺で良ければ、来世、俺と結婚してくれる?」
人生で1番長く感じた数秒の後、ふふっと君は吹き出した。
「…来世の予約なんて、やっぱり元貴は計画的だなあ」
「あ、う…。そうだよね、ごめ…」
やっぱり重かったか、と謝ろうとした。すると言い切る前にぐいっと腕を引かれ、目の前に顔があり訳も分からぬ間に唇をふさがれる。
どきん、どきん。
鼓動が物凄く五月蝿い。
呼吸が苦しくなった頃、やっと口を離して貰えた。
「…ぷはっ」
「ふふ、元貴顔真っ赤。」
「ばっ、りょ、涼ちゃんのせいでしょ…!そ、それに返事ちゃんと聞かせて…!」
まだ整わない息で叫ぶように言う。こんな事して分かりきってるのに、わざわざ答えを貰う俺は大分我儘だ。
でもその我儘も笑って許してくれる君が大好きだ。
「勿論。僕も元貴の事が大好きだよ。僕でよければ、来世も元貴に会いたい。…次こそは、もっと早く結ばれて最後まで添い遂げよう」
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
ここまで長かったですが、ようやくもりょきが結ばれました。有無を言わさずキス、みたいなの定番だけど大好きで…ってこれまた好物を入れてしまってますね。ともかくこの後の2人、そして3人をどうか見守って頂ければと思います。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。