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その後も、奏は週に一度、東新宿の家に来て六月のコンクールに向けての練習を積み、合間に奏が自身のコンペティションの練習をしていた。
なかなか一曲に絞れず、瑠衣と奏は『トランペットが吹きたい』と『トランペットラブレター』を並行して練習している状態だ。
コンクールの申し込み締め切りは四月三十日。
それまで二曲練習して、締め切りのギリギリまで吟味しながら選曲しよう、という事になった。
侑のレッスンも彼が休みの日に併せて受け、楽器を吹く勘を大分取り戻しつつあった。
***
そんな中、三月も終わりに近付いた土曜日、奏がエントリーしているコンペティションが、近所の大きなホールで行われるとの事で、瑠衣は侑と一緒に聴きに行く事に。
彼女の出番は一番最後と予め聞いていたため、侑と瑠衣は十六時過ぎ、徒歩でホールへ向かった。
侑が受付から出場者のセットリストを受け取ると、二人はロビーのソファーに腰掛けて奏の演奏曲を探してみる。
「…………ほぉ。ラフマニノフとスクリャービンか。ロシアの作曲家も、なかなかいい曲を世に残しているからな。ところで、四曲目『WHEN I THINK OF YOU』の作曲者、本田雅人って九條は知っているか?」
「えっと、フュージョンバンド『T–SQUARE』のサックス奏者の方ですね。今は違うサックス奏者の方がメンバーですが。吹奏楽でもT–SQUAREの曲は数曲ありますし」
「俺はクラッシック以外の音楽は、どちらかというと疎いからな……」
侑と瑠衣がセットリストを見ながら話していると、ちょうど出場者の演奏が終わったのか、ドアマンが会場のドアを開け始めた。
二人はホールの中へ入っていき、一階席一番後ろの端の二席に座った。
瑠衣が会場をサッと見回すと、見知った人が中央の列一番端の席に座っているのが見える。
「あ……葉山さん」
瑠衣の視線を侑が追いかけると、怜はダークネイビーのスーツを着て、こちらには一切気付かず、舞台とセットリストを交互に見やっているようだ。
「…………やはり、恋人の演奏を、怜も聴きたくて仕方がないのだろうな」
「奏ちゃんと葉山さん、本当に仲がいいですよね」
「…………ああ、そうだな」
二人が雑談をしていると、会場内が暗転し、司会のアナウンスが流れた。
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