しばらくの間、彼の話を聞いていると幾つか共通点が見受けられた。
自分は同じだと思っていても、相手は違う主観を持つかもしれないという考えに沿い、彼に一通り聞いた話の内容について問いかけてみれば何故か悩む頭を置いて眠ってしまった。
目の下に深く付けた隈が彼の今までの苦労を滲み出しているのだろう。
僕を必要とする彼を背中に乗せ、また、僕を必要としない彼らの元に足を運ぶのだった。
自室へと足を入れた途端、成人男性一人をここまでおぶって来た疲労感が一気に押し寄せる。
鉛のように重くなった全身を後に、彼を自身の寝具へと横たわらせる。と同時に、押し寄せてくる疲労感に耐え切れず、そのまま冷たく冷えた床へと顔面からダイブする。
鼻に残る痛みや血の匂いを忘れ、寝具の上で眠る、部屋に鼓動する彼の寝息を聞きながら、ゆっくりと意識を閉ざす。
「青井君。あ〜お〜い〜く〜ん」
よく通る高いのか低いのか曖昧な声が自身を起こす。
床で寝てしまっていたからか、はたまた人を運ぶなんて慣れない真似をしてしまったからかは分からないが、背中や足が猛烈に悲鳴を上げている。
四肢の痛みなど大抵は我慢出来るものなので、目の前の心配そうな彼の顔を尚更歪めるつもりはないが。
「大丈夫?僕ベッド借りちゃってたんだねごめんね?背中痛くない?床で寝ちゃったの?ていうかここ君の家?運んでくれたの?君意外と優しいんだね」
唐突に質問の嵐を振りかざし僕をいい人だと判断したかと思えば、「意外と」という単語を付け加えることによって彼の中が僕がどのような印象を撒き散らしているのかが分かる。
しかしそれを口に出すとは、流石に非常識なのではないかとも思うが、同時に親近感を感じさせる。
「距離の詰め方がうまい」と言った方が正確なのかもしれないが、これは小さな仕返しみたいなものだ。
「大丈夫。そっちこそ体調は平気?昨日急に寝ちゃったから驚いたよ」
心配したような素振りを見せると、彼は付属されている紫色の瞳をゆっくりと細めた。
「僕は平気さ!っていうかあの公園からここまでどれくらいかは、僕も生憎と知らないんだけど。成人男性を、ましてや全くの赤の他人を家に招き入れるような真似しちゃって大丈夫なの?」
何されるかわからないしさ、や、助けて貰ったけどこれは心配しても大丈夫だよね、と彼の心の声がその小さな口から隠すこと無く、次々と発せられていく。
赤の他人ならそんなことを愚痴愚痴考えず言った通り金目の物をさっさと盗んでいけば良いものを、彼は僕を起こすことで握っていたチャンスを棒に振ったわけだ。
人でありながら犯罪に手を染めたくないというのは人間の性だろうが、果たして彼にも通用するものなのだろうか。
「両親は居ないし、基本は俺一人だから大丈夫。…ねぇコンちゃん」
「ん?」
先程思ったことを言えば、彼はなんと返すのだろう。
「…朝ご飯食べよっか」
純粋に光る彼の綺麗な瞳を真っ直ぐ見られないのは、僕の心に疚しいことがあるからなのだろうか。
コメント
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語り方を見た感じ、そもそもこれはらっだぁなのか?🤔一話目の学生がらっだぁなのだと仮説すれば論理的思考な感じに違和感を覚えるけど…
引きこもりだから体力ないんだよ()