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「俺も、時間の問題だ。」
スーツの男が言葉を絞り出すように告げた。銃を構えたまま、彼の肩で荒い呼吸が繰り返される。背後には、何匹もの狼男が血の匂いを漂わせながら倒れていた。
拓真と亮太はその場に立ち尽くし、彼の言葉を理解しようとする。
「どういうことだよ?」拓真が恐る恐る尋ねる。
男は腕時計を見せた。それは普通の時計ではなかった。液晶画面には、23:58:27とカウントダウンが刻まれている。
「これは、俺が人間でいられる残り時間だ。」
亮太が目を見開く。「つまり……」
「そうだ。」男は一瞬だけ視線を落とした。「俺も実験体だ。この時間がゼロになれば、俺も狼男になる。」
静寂が森を支配した。
男の言葉は現実感を失わせるほど衝撃的だった。
「じゃあ、どうして助けてくれたんだよ!」拓真は怒り混じりの声を上げた。「俺たちをここに送り込んだのは、あんたなんだろ!」
男は冷静に答えた。
「お前たちにはまだ希望がある。俺にはない。」
「希望ってなんだよ!」亮太が叫ぶ。
男はポケットから小さなUSBメモリを取り出し、拓真に投げ渡した。
「これを持って逃げろ。この中には、実験を止める方法のヒントがある。だが、俺にはそれを実行する時間がない。」
拓真はUSBを握りしめながら、言葉を失った。亮太も同じだった。
「俺の残りの時間は、奴らを食い止めるために使う。」
男がそう言った次の瞬間、また森の奥から複数の唸り声が響いた。新たな狼男たちが迫ってきているのだ。
「行け!」
男が叫ぶと同時に、銃を再び構えて影に向かって発砲し始める。
拓真と亮太はその場を後にするしかなかった。背後で響く銃声と男の叫び声が遠ざかる。
「……彼も狼男になるなんて……」亮太が息を切らしながら言う。
「まだだ。」拓真は握りしめたUSBを見つめる。「これが彼の希望なんだろ。絶対に無駄にしない。」
森を抜ける二人の視界には、すでに男の姿は見えなくなっていた。だが、月明かりの下で、彼の戦いが続いていることだけは確信できた。拓真と亮太は、森の中を走り続けていた。背後から聞こえる銃声が徐々に途切れ始め、二人は立ち止まらざるを得なかった。
「……もう聞こえない。」亮太が息を切らしながら呟く。
「彼、どうなったんだろう?」
拓真はUSBを握りしめながら答えた。「わからない。でも、これが彼の最後の頼みだ。無駄にはできない。」
その時、突如として周囲の空気が変わった。風が止み、木々が不気味な音を立てる。
「なんだ、これ……?」亮太が振り返ると、森の奥から巨大な影が現れた。
「ガアアアアア……」
それは狼男となったスーツの男だった。
男だった頃の面影は残っていたものの、大きく、筋肉が盛り上がっている。瞳は赤く輝き、月明かりを反射して鋭く光っていた。
「逃げろ!」拓真が亮太を引っ張る。しかし、狼男となった男は驚異的な速度で二人を追い詰める。
「お前たちに……近づくな……!」
突然、狼男が言葉を発した。歪んだ声ではあったが、確かに男の意識が残っているようだった。
「まだ……自分を保てるのか……?」亮太が呆然と呟く。
「早く行け!」
狼男は地面を爪で引き裂きながら叫んだ。その目には、どこか人間らしい悲しみが宿っている。
拓真は一瞬立ち止まり、狼男に向かって叫んだ。「あんたを助ける方法はないのか!?」
「俺のことはいい……データを……研究施設を……破壊しろ……」
その言葉が終わるや否や、彼は完全に本能に飲み込まれた。
「行こう!」拓真が亮太を引っ張り、再び森の奥へと走り出す。