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「……禁忌魔法は三つ。その内、一つをエトワール・ヴィアラッテアが……」
はあ……と大きな溜息が出た。
グランツに教えてもらった禁忌魔法。まあ、内容だけだから、どうやって発動させるかは分からない。でも、それをなそうとしているのが、エトワール・ヴィアラッテアだと思う。トワイライトは隠しているけれど、その可能性が出てきた。
エトワール・ヴィアラッテアは、時を戻してどうするつもりなのだろうか。
「もっと、グランツに聞いてればよかった……」
まあ、まき戻った、と気づかないうちに、既にもう巻き戻されているという可能性もあるのだ。気づくのか、気づかないのかもあるし、まだまだ魔法について何も知らないんだなあ……と思った。笑い事でも、人ごとでもないんだけど。
発動の仕方を聞いていれば、防げるかも知れないと思ったが、エトワール・ヴィアラッテア自体の魔力が底知れないし。私が防げるかも分からない。
身体は一緒かも知れないけれど、魔法の使い方は、きっとエトワール・ヴィアラッテの方が上手いんじゃ無いかと思った。私は、まだまだ知らないことだらけだし。そもそも、聖女ってどの程度の記憶を有して召喚されるのか分からないから、私が無知なのか、これでいいのか分からなかった。
まあ、グランツの態度を見る限り、可笑しいのかな? とは思うけど。
考えても仕方がないことかも知れないけれど、モヤモヤは残るわけで。
「聞けば良かったけど、教えてくれるかなあ……何となく、口がかたいしなあ……」
グランツは、ああみえても、というか、元々口が堅い方だった。うっかり、何てことは絶対無くて、意図持って口を滑らせることはあったが、それ以外はなかった気がする。だからこそ、教えて貰える部分と、そうでない部分がある、と私は思っている。
彼にばかり頼っているようじゃあれだと思って、書斎に行ったが、いい文献は見つからなかった。勉強は苦ではないタイプだったが、やはり、政治とか絡んでくると、余計な情報は排除されているのかなあ、とも思った。焚書というヤツだ。
トワイライトはあれからブライトの所に泊まり込みで、魔法を教えて貰っているし、何だか、私のまわりで、私を避けるような態度が多々見られる。避けるというか、私を、何かから遠ざけるって言った方が正しいかも知れない。
「グランツいる?」
私は、ボソッと彼の名前を呟いた。まあ、暗殺者でも何でもないし、そんな名前を呼んだ所で来ないだろうと思っていた。が、しかし、トントンと私が彼の名前を口にした後、扉がノックされる。まさか……と思って扉を開ければ案の定グランツがいた。何処から嗅ぎつけたのか。
私が、フンな目で彼を見ていると、心外だといわんばかりに首を横に振られた。確かに、疑ってしまったこっちが悪いとは思っているけれど。
「お呼びでしたか? エトワール様」
「ねえ、もしかして、聞いてた?」
「何をですか?」
「はあ……まあいいや。グランツ、取り敢えず入って」
「……いいんですか?」
と、グランツは私に訪ねた。何に対しての良いのか、が私にはさっぱり分からなくて、首を傾げていれば、グランツはごほんと、咳払いをする。
「その、俺がエトワール様の部屋に入って」
「うん? うん、まあ……どうせ、アンタは私に手を出さないでしょ?」
「……」
「ごめん、意地悪しすぎたね。じゃなくても、アンタのこと信用しているから、入って良いっていってるの。それに、私の部屋っていっても、面白いもの何もないし」
そういえば、グランツは納得したように、頭を下げ私の部屋に入ってきた。
少し足取りが重いような感じがして、緊張しているのかなあ、何ても思った。始めて女の子の部屋に入る男の子の反応をしているから、笑えてきてしまった。笑ったら失礼だと思いつつも、つい笑いが漏れてしまって、グランツに「どうしたんですか?」なんて不審がられる。私は、上手く誤魔化しつつ、何でもないと言って、椅子に座った。彼も座らせてあげられたら良いんだけど……と思ったが、彼は意地でも座らない、と腕を後ろで組んで、早く本題に入れと言わんばかりに私を見てきた。せっかちだなあ……
「呼びつけたわけは?」
「ねえ、矢っ張り、外から聞いてた?」
「いえ、通りかかったら、俺の名前が呼ばれた気がして、立ち寄ってみただけです」
「……」
「本当です。そんな、俺に盗聴魔法なんて高度な魔法使えないの、知っているじゃないですか」
と、グランツは必死にいっていた。確かに、グランツが魔法を使っている所なんて見たこと無い。使えないわけじゃないだろうが、限られているのだろう。それは、知っている。それに、盗聴魔法とかは、光魔法じゃないし、闇魔法……アルベドとかはよく使っていたけれど。
アルベドの事を思い出して、また気が重くなってしまった。何度同じことを繰り返せば良いのだろうか、と。
「エトワール様」
「え、あ、何?」
「いえ、やはり、体調が優れませんか?」
と、グランツに心配されてしまう。優れないのは、体調じゃなくて、心かなあなんて思いつつ、私はまた大丈夫だと口にする。グランツの眉間に皺が寄っているのが見えて、私はため息をついた。
「分かった。教えるから、そんな顔しないで」
「また、信用されていないんじゃ無いかと思って、心配になりました」
「心配って……信用とか、信頼ってされるものじゃなくて、して貰うものじゃないの?信頼を勝ち取るとかいうじゃん。だから、こっちから与えるものじゃなくて、認められるみたいな……ああ、自分でも何言ってるか分からないけど」
「分かります」
グランツは、短く返して、そうですよね、と苦々しそうに、唇を噛んでいた。
過去がかわるわけじゃないから、彼が後悔したものは永遠に彼に付きまとうだろう。でも、それは自分がしでかしたことだから、自分で背負っていかないといけないわけで。
(まあ、もう、それをぐだぐだ言っても仕方ないから、進めよう)
私は、グランツを呼んだ理由を話そうと、彼の名前を呼ぶ。少しオーバーに肩を上下させた彼は、顔を上げる。翡翠の瞳は、やはり不安げだ。
「私も不安なの」
「不安ですか。エトワール様が」
「うん。トワイライトは、魔法に励んでいるし、まわりも何だか私から何かを避けるような態度を取っているというか。私って、頼りないかなとか思っちゃって。そんなことないって自分を禿げましてはいるんだけど、自信無いなあ……って。こんなこと、グランツにいっても迷惑なだけかも知れないけど」
「迷惑じゃありません。それに、皆さんも、エトワール様に守られてばかりではいけないと思ったんじゃないでしょうか」
「私に守られてばかり?」
はい、とグランツは頷く。
「エトワール様は、災厄をはねのけ、犠牲を出さずに混沌を封印しました。聖女殿も守ったじゃないですか。だから、今度は自分たちが守る番だと思っているのだと……俺は思います」
と、グランツは自分の意見を述べると、再び目を伏せた。
私は、助けたとか、救ったとか、守ったとか、そんな意識無かった。勝手にことが上手く運んだだけで、私が何かしたっていう実感がない。だからこそ、これで良かったのかな、なんてことは一杯思うわけで。
混沌だって、本当は一緒に生きたかっただろうし、ブライトだって後悔している。
沢山の後悔の上に立っていると考えたら、妥当なのかも知れないけれど、それでも、思うところは一杯ある。だから、私が全て守ったわけじゃないと。守れなかったものは沢山ある。
「だから、そんなに心配しなくていいと思います」
「でも、私にしか出来ないことだって――!」
そう言いかけた瞬間、ベランダの方から凄まじい音が聞えた。何かが落ちてきたようなそんな音。
「な、なに!?」
「俺が見てきますので、エトワール様はそのままで……」
「いたた……ミスった。慣れないことはするものじゃないねえ」
「ラヴァイン!?」
「……っ」
ベランダに落ちてきたのは、ラヴァインだった。彼は、私に気づくと、嬉しそうに、顔をパッと明るくさせて、手を振った。いや、手を触れるような状況なのかな? なんて思いながら、グランツに、ベランダの鍵を開けるようにいった。
「いいんですか?」
「何が?」
「…………いえ。命令には、従わないといけませんから」
と、グランツは訳の分からないことをブツブツと言いながら、ベランダの鍵を開けに行く。ラヴァインはありがと、とグランツにお礼を言いつつ、私の方へと歩いてきた。
「な、何?」
「ん?目覚めたみたいで何よりって、そういいたかっただけ」
「あ、ありがとう……てか、アンタは大丈夫なの?」
そう聞くと、ラヴァインはキョトンと目を丸くした後、ふはっと笑った。年相応の笑みというか、ラヴァインっぽくないというか。いや、まだ、私が此奴のことを知らないだけかもだけど。
「うん、うん。大丈夫。ありがと、エトワール。俺の事心配してくれて」
「え、ああ……うん」
調子狂うなあ、何て思いながら、私は嬉しそうに笑うラヴァインを見つめていた。