テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
一花は次々と流れてくる投稿を、言葉もなく見つめていた。
「……どうして」
ようやくひとつ否定できたと思ったのに。
安堵する間さえ与えないように、新しい悪意が差し込まれてくる。
榊は返事をせず、画面に並ぶ投稿を追っていた。いくつかのアカウントを順番に開き、投稿履歴を遡っていくうち、その表情が少しずつ険しくなる。
「やっぱり、変だな」
「何がですか?」
一花が尋ねると、榊は複数の画面を並べて表示した。
「これ、全部別のアカウントなんだけどさ。動き方が妙に揃ってる」
「動き方?」
「同じ人間が複数アカウントを使ってるって感じじゃない。むしろ、書き方も投稿内容も少しずつ違う」
榊は一つの投稿を指した。
「こいつは露骨に煽ってる。こっちは『知り合いから聞いた』って体で書いてる。別のやつは、いかにも第三者みたいな顔して疑問を投げてる」
言われて見れば、たしかに文体も雰囲気も違っていた。
それぞれがまったく別の人間として、一花について好き勝手に語っているように見える。
「でも、風俗の話が崩れた途端に、ほぼ同じタイミングで別の話題へ移ってる」
「借金、水野との関係、男関係。使ってるネタは違っても、向いてる方向が全部同じなんだよ」
神崎が画面へ視線を向けたまま、静かに口を開く。
「何人かが、それぞれ同じ目的で動いているように見えるということですか」
「うん。その可能性はある」
榊は椅子の背にもたれ、腕を組んだ。
「普通の炎上なら、一つのネタが否定されたら多少は勢いが落ちてもおかしくない。もちろん、別の噂に食いつく人間はいるだろうけど……」
「これはちょっと、切り替わり方が早すぎる」
一花の胸の奥に、嫌なざわめきが広がる。
「誰かが……わざとやってるってことですか?」
「まだ断定はできない」
榊はすぐに答えた。
「ただ、自然に起きた炎上に、何人かが意図的に火を足してるようには見える」
「何人か……」
「誰かに頼まれて動いてるのか、それとも別の理由があるのか。そこまではまだ分からない」
「でも、一花さんを叩くこと自体が目的になってる人間が混じってる可能性はあると思う」
一花の脳裏に、三枝の顔が浮かんだ。
「……三枝志保」
733
きなこもち
183
#サレ妻
都築七美
1,141
榊が一花を見る。
「あの人が、これも……?」
「あり得ないとは言わない。でも、今は証拠がない」
「でも、奈緒にも……」
「うん。人を表に立たせて、自分は後ろにいるってやり方は似てる」
榊は一度言葉を切ると、画面へ視線を戻した。
「だから、そこも調べる」
一花は、目の前に並ぶ投稿を見つめた。
これまでは、事件が大きく報じられたことで、面白半分の人間たちが勝手に噂へ群がっているのだと思っていた。
けれど、その中に誰かの意図が混じっているのだとしたら。
奈緒のことも、水野のことも。
自分がこれまで見ていたものより、もっと深いところに何かがあるのかもしれない。
その瞬間、俊介の顔が浮かんだ。
昨夜は結局、何ひとつ伝えられなかった。
水野に会いに行ったことも、奈緒が自分の情報を流していたことも、その背後に三枝がいたことも。
それどころか、一花が何かを話すより先に、俊介は水野との関係まで疑い始めていた。
「……俊介にも、話さないと」
零れた声に、神崎が一花へ視線を向ける。
「昨日は、ちゃんと話せなかったから」
「今度こそ、全部話したいです」
水野との間に、俊介が疑うような関係など何もなかったこと。
そして、自分がなぜ真相を追い続けているのか。
今度こそ、ちゃんと聞いてほしかった。
コメント
1件
ああ、わかる……この話、すごく苦しくてでも目が離せなかった🥀 榊くんの分析、冷静で怖いよね。「切り替わり方が早すぎる」って、まさにそう。悪意って自然に湧くんじゃなくて、誰かが仕組んでるんだって感じるところがぞっとする。一花が「俊介にも話さないと」って決意したラスト、すごく心にきた。信じてもらえるか不安なのに、それでも向き合おうとするの、彼女の強さだと思う🤍