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「人間にしてはなかなかに鍛えてある。が、それだけだ。実戦ではただの肉塊でしかない。打たれ弱いからサンドバッグにもならんしな」
先ほどの総評がこれだと。
人間と獣人を比較した時、身体能力で獣人が勝るのはみんな知っている。でもそれはナチュラルであればだ。
だからこそ鍛えた。そんな獣人たちをも圧倒する肉体を手に入れたはずなのに。
「その鍛え方が、違うのだ。我とお主では、な」
この悔しさも見透かされている。
「お主が望むなら、真に最強となれるように尽力してやることも構わないが、どうする? 今のままでは一生掛けても我には届かんぞ?」
どうするか? 考えるまでもない。そこに最強への道があるなら迷わず行ってやる。
「あんたを越えたい。たのむ」
うむ、と大仰に頷き獣人はダリルに視線を投げる。
「これは……一体?」
目の前に置かれているのは、ダリルがカウンターの下から取り出したものだ。だが意図が読めない。
「ダリル、本当にこれで間違いなかろうな?」
獅子の獣人さえ戸惑いを隠せない。
「ああ、今回はこれで間違いない。レオ、あとは頼む」
ダリルも少し戸惑っているように見える。
「まあ、確かに鎧を与えるつもりではあったからこれでいいのだろうな」
そう、そこにあるのは鎧には違いないのだが、この店にも置いていない、鎧というには随分と面積の小さい……これではまるで伝記小説に出てくるアレではないか。
「ビキニアーマー……」
翌日から俺はビキニアーマーを着用している。当然その上からいつもの私服を着て隠している。
レオの指示でいつも着けているようにとのことだが、さすがにこれだけで外は歩けない。
俺はそんな恰好で朝から走り込みをしている。レオが言うところ、仕事前の軽い運動とのことだ。鎧はともかくとして、肩に鉄で作られた大きめの首輪が乗せられているが、軽い運動らしい。
昼間はさすがに首輪はないが、代わりに腰に小さな板切れをサラシで固定されている。時折ビリビリと何かが流れるような痺れを感じる。
そして夕方には店でレオと合流して街の外にきた。
この先には森があるはずだ。狩人の仕事場になっているはずの豊かな森だ。
「走れ」
レオとともに森までを走り続けて着く頃には日は暮れていた。
「2時間で猪を1頭、狩ってこい」
無理だ。そもそもこんな日暮れに見つけられるかすら分からないし、槍も弓もナイフすらないのに!
「自慢の肉体があるだろ?」
首を傾げて本気で分からないアピールをしてくる。実に憎らしい仕草だが、これがこの獣人が言う強くなるためのことであるなら──。
その後、猪を見つけることも叶わず手ぶらで出てきた俺にレオは何を言うわけでもなく、ただ首輪を付けられて街まで走らされた。
そんな事を来る日も来る日も続けて、すでに季節は初夏に差し掛かっている。この時まだ猪は1頭も狩れてない。
ある時、冒険者ギルドに入っていく金髪の少女を見かけた。なにやら荷物があるようだか、考えてみればあの鍛冶屋によくいるのは冒険者だからなのかも知れない。
レオとの鍛錬が始まってからは、店に着いてもすぐに外に出るから話をすることもない。
なんとなく冒険者ギルドの様子や少女の用事も気になってギルドに入ってみる。仕事が早く終わったから約束の時間までにはまだ少しある。
施設の中は広く、受付があり、飯屋も併設されていて、真ん中に大きな掲示板がある。そこには大小さまざまな紙札が留められており、依頼の内容が書かれてある。
受付にいる少女を見つけ会話を聞いていると、どうやら噂のすんごいエルフというのは彼女の事らしい。
出会うたびに見るあのアホそうな振る舞いからは結びつかなかったが、そうか……。
つかつかと近寄って、俺は少女の肩に手を掛けて
「猪の狩り方を俺に教えてくれないか⁉︎」
つい、力んだ俺の上半身は、服を破き身につけたビキニアーマーを晒してしまった。むきむき。
「「あわわわ、変態さんだーっ!」」
受付の女性との見事なハモリだった。