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なんですかっ!
と、上野が叫んだ。
その勢いに、秋時《あきとき》に、何故か、タマまで、縮み上がった。
「まったく、タマから手なずけ、当家に、取り入ろうとする、秋時らしい浅ましさ。タマに至っては、その浅知恵に乗っかってしまうという、なんとも、お粗末さ」
「あのね、紗奈《さな》ちゃま、タマは、あんまり関係ないと思うんだけど。なんだか、小さくなっちゃって、って、あれ?!」
「まあ!タマ!虎から、犬に戻ったのですね!」
クゥンと、鳴きながら、犬のタマは、守恵子《もりえこ》に寄り添った。
「晴康《はるやす》?何故、タマは?」
守満《もりみつ》が、不思議そうに晴康を見る。
「ああ、術が、解けたようですねー。何せ、私、使えない人ですから」
すぐさま、ひゃあっと、声高に秋時は、叫び、
「長良兄《ながらにい》さん、助けてぇ!」
と、常春《つねはる》に、助けを求める。
「はて?秋時殿、私は、常春。人違いされているようですが?」
キッパリと拒否され、わーん、と、泣きべそをかきながら、秋時は突っ伏した。
「あ!それそれ!そこ、そこが、知りたいんです!いつも出てくるでしょう?」
少しばかり、高揚した口振りで、晴康は皆を見る。
「ふふふ、子供の頃の思い出、でしょうか?ねっ、兄上?」
「うん、守恵子、あれは、楽しかったなぁ」
「……それは、おふた方だけで、私は、思い出すと恥ずかしいのですが。いや、一番、恥ずかしい思いをしているのは……」
「ああ!やめてくださいっ!」
真っ赤になった顔を、上野が、袖で隠している。
「……そこまで、の、事が、あったのでしょうか?」
上野の慌てぶりに、晴康は、興味津々といった顔つきで、守満に迫った。
「つまりね、呼び合っているのは、幼名のようなもので、つい、出てきてしまうほど、私達には、思い出深いものなんだよ」
「へぇ~、よそ様の姫君の腹が腫れた事よりも、私は、そっちの方が、気になりますなぁ」
晴康の言葉に、守満は、大笑いしながら、では、と、前置いて、
「子供の頃の事でも、話しましょうか、紗奈姉《さなねぇ》?」
「あー!もう!勝手になさいまし!」
守満を止められないと悟ったのか、上野は、そっぽを向いた。
「では、紗奈姉の許可も出たことだし、話しますか……」
──それは、今より、少し前。皆が、まだ、よちよち歩きしていた頃の事──。
「良いですか!皆、紗奈姉さまの言う事を、良く聞くのですよ!」
「あい!!」
と、幼子達の返事が続く。
「何しろ、都は、危のうございます。髭モジャのような、検非違使《けびいし》達に、任せてはおられません!さあ!今日も、我らが、童子検非違使《どうじけびいし》の出番ですよっ!」
「あいっ!!」
勢いづく紗奈の言葉に、これまた、威勢よく幼児達は答えた。
紗奈の前にいるのは、童子と女童子《めどうじ》。
「あと、身元がばれては、お屋敷から抜け出した事が、バレてしまって、面倒な事になります。良いですね?いつもの通りに、呼び合うのですよ!」
「あい!!」
「では、近《ちか》ちゃんと、守《もり》ちゃん、都の巡邏《けいび》へ出発ですっ!」