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CASE 晶
いつの間に握られていたんだ?
まさか…。
「おい、ちょっと退け」
男の顔をネネから引き剥がし、ネネの瞼を指でこじ開ける。
本来ならある筈の瞳が無くなっていた。
これ、ネネのJewelry Pupilの瞳が結晶化したのか?
「何してんだよ」
「ネネのスマホを貸せ、俺が預かる」
「は?な、なんで」
「ネネが俺にこれを残したからだ」
そう言って、男に2粒のオブシディアンを見せる。
「槙島が…?」
「理屈は知らねーがな、俺様の手にあるのが事実だろ」
「アンタ、依頼したら動いてくれんだよな」
「あ?テメェ、なに言ってんだ?」
男は突然、ネネを抱きながら立ち上がった。
おいおい、今度は何をする気だ?
「依頼料はいくらだ」
「は?」
「君、いくらで仕事をしてんの」
この男が何を言いたいのか分かった。
「お前、俺に依頼する気だろ。椿恭弥を殺せって、ネネの仇のつもりか。俺は安値の取引はしねぇ、5000万からのスタートだ」
俺に依頼してくる奴等は予め、雪哉さんを通して相場を聞いてくるものだ。
殺し屋の世界にもS〜Dランクがあり、上に行けば行く程に値段が跳ね上がる。
Dランクの奴等は1万から殺しの依頼が出来る。
Dランクが下な奴等に依頼出来る内容は決まっており、一般人を殺す事ぐらい。
S、A、B、C、Dと5つのランクがあり、俺や四郎、三郎がSランクに当たる。
一郎や二郎はAランク、五郎と六郎はBランクと振り分けられている。
ランクを上げる為には場数を踏むしかない。
俺達のような殺し屋にとって、長期戦は不利になっていってしまう。
時間が掛かれば掛かる程、ターゲットも怪しむ。
警察に逃げ込まれてしまえば、依頼金をごっそり引かれてしまうのだ。
ランクが上がれば上がる程、依頼金も跳ね上がって行く。
Sだと依頼料5000万と手数料の100万が掛かる。
その分、要求は大きくなるのだ。
ただ、Bランクからは特典がある。
証拠隠滅、現場処理、死体処理と言った業務を行う業者が介入する。
CランクやDランクは、これらを全て1人で行わないといけない。
正直、この3つの業務を1人でやるのはキツイ。
業者が入るか入らないかによって、仕事の仕上がりが違う。
「5000万!?」
「こっちは人を殺すのが仕事なんでね、それぐらい貰わないと割に合わないんだよ。手数料で100万、合計5100万だ」
「…、8000万の貯金がある。5100万払えば、君は依頼主である俺の意見を飲まないといけなくなるんだよな」
そう言って、男は強い意志の籠った瞳を向けた。
金を貰えば俺達、殺し屋と依頼主の立場は逆転する。
依頼主の要望には出来るだけ答え、依頼主の望む結果を残さなければならない。
「何を要求すんだ、お前は」
「俺の名前は八代和樹だ。晶、俺と一緒にヨウを止めるぞ」
「あ?ヨウを止めるって事は、椿恭弥を殺させないようにすんのかよ」
「今のヨウは歯止めが効いてない。椿恭弥を殺した後、アイツは化け物になるぞ」
八代和樹の言葉が深く心臓に刺さった。
「ヨウの事を救えるのは君だけだ。槙島もヨウの異変に気付いて、計画にない行動をしたんだと思う」
「計画にない行動ねぇ…、要するについて行けなくなったんだろ?ヨウのやり方によ」
俺の言葉を聞いた八代和樹は驚いた表情を見せる。
「君は本当に槙島に対して冷たいんだな。今はそんな事を言ってる場合じゃないよな。晶、金はすぐに払う。俺と一緒に行動してくれるだろ」
「依頼主はテメェだからな、金を貰った以上は働くさ。ネネの遺体は俺に渡せ」
「遺体をどうする気なんだ」
「ネネの祖父母はもう死んでんだ」
そう、ネネの祖父母は数年前に死んでいる。
雪哉さんに頼んで、埋葬ぐらいはしてもらおう。
俺にはそれぐらいしか出来ないからな。
「テメェの考えてるような事じゃねーよ、埋葬してやんだよ」
「俺も一緒に行くよ。槙島とは短い間だったけど、バディだったから」
「警察だろ、オメーは。決まってから連絡してやる、連絡先教えろ」
「あ、う、うん」
八代和樹は慌ててスマホを出し、電話番号を見せてくる。
素早くスマホを出し、八代和樹の番号を登録する。
「じゃあ、ネネの体を背中に乗せろ」
着ていた上着を脱ぎ、八代和樹の前で背中を向けてしゃがむ。
「分かった」
死んだネネの体を背負ったら、重たくなっていた。
キュッとネネと俺の体に巻き付けた後、ゆっくり立ち上がる。
「それと、ネネのスマホも貸せ」
「え?なんで?」
「脇甘そうなんだよ、お前。警察内部に椿恭弥側の人間がいんだろ?俺の予想だが近々、椿恭弥が何が仕掛けてくるだろうな」
「殺しにくるとか…、そう言う事じゃなさそうだな。確かに今日の事もあるし、ありえるな。分かった、槙島のスマホは君に預ける」
そう言って、八代和樹はネネのスマホを渡してきた。
こう言ってはなんだが、俺の予想はかなり当たる。
椿恭弥みたいな野郎は使えるものは使い、邪魔者を徹底的に排除する。
奴にとって、ネネの次に邪魔になるのは八代和樹だ。
「椿恭弥は今日、ここに現れる筈じゃなかったんだ」
「どう言う意味だ」
「ここに来る少し前、ヨウと一緒にいたんだ。椿恭弥は〇〇組との会食に行っていた筈だったんだけどね。どうやら、予定をすっぽかしたみたいなんだ。まさか、槙島を殺しにきたなんて…」
八代和樹の話を聞いて、嫌な予感がした。
椿恭弥はネネを殺した後、スマホを回収したかった筈。
その為に路地裏に連れ込み、殺そうとしたんだろう。
まだ、ネネと八代和樹にだけ注目を置いてるのは良い。
最悪なケースはヨウの事を怪しんで、なんらかの情報を得てネネを”殺しに来た”と言う事。
憶測だが、大体は合ってるだろう。
椿恭弥の動きを改めて、調べる必要があるな。
「そうか、俺はそろそろ行く。俺から連絡があるまで.勝手に動くな。それと、この口座に金振り込んどけよ」
そう言って、俺は口座番号の書かれた紙のカードを渡す。
「金を入れたらカードを燃やせるように紙にしてある。銀行の機械の前でカードは出すな。監視カメラに映らないようにしろ」
「随分と用心深いな。これも兵頭雪哉の教えか?」
「じゃーな」
乗っていたW800まで戻り、ネネを背負ったまま跨る。
青白い顔をしたネネは、数分前まで生きていたとは思えなかった。
何百回と見て来た死人の顔なのにな。
「ネネ、お前の死人顔は見慣れねぇわ」
呟いた言葉を掻き消すように、W800のエンジンを強く蒸した。
CASE 四郎
10月20日 AM7:00
胃から込み上げて来たものを手のひらに吐き出すように、咳き込む。
「ゴホッ、ゴホッ!!」
ビチャッ!!
手のひらにべっとりと血の塊が吐き出された。
視界がボヤける。
体の異様な怠さ、血の吐く量が格段と増えた。
近くに置いてあったティッシュを数枚取り、手のひらを拭く。
ベットから起き上がれねぇ…。
何度も起きようとしているが、体が言う事をきかねぇ。
再び込み上げくるものを吐き出すが、血の塊しか出てこない。
自分の体がおかしいのは自覚している。
だが、まさかここまでとは思っていなかった。
そろそろ起きないとモモが怪しむ。
グッと体に力を入れ、上半身だけ起こす。
ぐわんっと視界がぐるぐると回り、脳が揺れる。
布団に顔を埋めるように、頭から布団に落ちてしまう。
ガチャッと廊下から扉の開く音がした。
パタパタパタパタッと、足音を立てて歩くのはモモだけだ。
しまった、起きて来た。
早く起きねぇと…。
頭を上げベットから降りようとした瞬間、バランスを崩して床に倒れ込む。
ドサッ!!
落ちた衝撃で、持っていた血だらけのティッシュが散乱する。
やべぇ、今の音でモモが気付いちまった。
ガチャッ。
「四郎?どうしたの…、四郎!?」
案の定、部屋に入って来たモモは俺の姿を見て驚いていた。
「四郎、四郎!!大丈夫?何、この血…。四郎が吐いたの?」
床に転がっていたティッシュを拾い上げ、モモが泣き
そうな顔をしながら尋ねてきた。
あぁ、俺はこの顔が苦手だ。
モモに泣かれると俺は弱い。
「何でもねぇ…よ、大した事じゃねーって」
「大した事あるよ!?だって四郎、立てないぐらい体調な悪いんでしょ?待っててっ」
「おいっ」
モモは俺の話を聞かずに部屋を出て行った。
パタパタパタパタ!!!
「余計な事を言うじゃないだろうな、アイツ…」
ゆっくりと体を起こし、立ち上がろうと松葉杖に手を伸ばす。
ふと、視界にきていた白のロンTが目が入った。
べっとりと大量の血が付着しており、思わず自分の口
元を拭う。
手にべっとりと付く血と乾いた血の小さな塊が付いた。
「これ全部、俺の血…か?」
寝てる間でも口から血が垂れ流し状態だったのか?
「嘘だろ?今まで、こんな事なかっただろ…」
バタバタバタバタバタバタ!!!
廊下から数人の足音が聞こえ、俺の部屋に一郎と三郎、モモが入って来た。
「四郎!?どうした…っ、え?四郎、どうしたの?この血」
三郎が慌てて俺に近寄ると、服に付着していた血を見て驚く。
「多分、俺の血だ。知らねぇけど、寝てる間に口から
血が垂れ流し状態だったんだと思う」
「そんな…、顔だって真っ青じゃん…っ。四郎っ…」
「四郎、立てるか。闇医者の爺さんに診てもらおう」
慌ててる三郎を他所に、一郎が腰を下ろしながら俺に問う。
「怪我もしてねーのに爺さんの所に行かねーって…」
「意地を張ってる場合じゃねーだろ、四郎。最近のお前は明らかにおかしいだろ。飯を食わないのはまだ良い。だがな、血を吐く量が多くなっただろ」
一郎は強めの口調で話し出す。
「今も現に立てないぐらい体調が良くないだろ。車を回して来る。三郎、四郎を背負って来い」
「わ、分かった」
「おい、一郎」
三郎が戸惑いながら返事をし、一郎は俺の言葉に返事もせず部屋を出て行った。
「モモちゃん、パジャマから適当に着替えておいで。一緒に行くよ」
「すぐ着替えて来る!!」
モモも慌てて部屋を飛び出し、自分の部屋に戻って行く。
「四郎、背中に乗って」
「自分で歩けるっての」
「お願いだから、乗って」
「はぁ…、分かったよ」
三郎に言われるがまま三郎の背中に乗る事にした。
軽々と俺の体を背負い、松葉杖を片手で持つ。
「四郎、大丈夫?今は体辛くない?」
「おー…、今の所は平気だ」
「寝てても大丈夫だからね?」
「三郎、枕の下にあるトカレフ持って行く」
「…、分かった」
俺の事を背負いながら、三郎はベットに近付き枕の下にあるトカレフTT-33を取り出す。
心地よいリズムで三郎が歩くので、段々と眠たくなって来た。
いつの間にか俺は三郎の背中で寝ちまっていた。
CASE 三郎
一郎とリビングにいたら、泣きそうな顔したモモちゃんが入って来た。
「モモちゃん?どうしたんだ?そんなに慌てて…、リンはまだ寝てるぞ?」
「違うよっ。四郎っ、四郎がっ、血を吐いて倒れてるの!!」
「四郎が?」
一郎とモモちゃんが話をしてる間に、俺はすぐにリビングを出て四郎の部屋に向かう。
部屋に入ると四郎は起き上がっていたが、口の周りは血の塊が付いていた。
血だらけのティッシュに血の付いたロンT、喉にも血の乾いた跡がついている。
顔も青白く、明らかに体調が悪そうだ。
一郎が冷静に闇医者の爺さんの所に行くと言って、車を取りに行った。
モモちゃんを着替えに行かせて、俺は四郎の事をおぶった。
軽過ぎて驚いてしまった。
四郎は見るからに痩せていたし、ここまで痩せているとは思わなかった。
こんな時なのに、四郎は銃を手放さない。
四郎がトカレフって言った瞬間、何故か悲しくなった。
弱々しくボスに貰った銃の名前を言う四郎。
どこまでもボスに対しての忠誠の強さを感じた。
いつの間にか四郎は俺の背中で静かに眠っていた。
四郎の体温を感じながら、ゆっくりと玄関に向かう。
後ろからパタパタと小さな足音が聞こえ、モモちゃん
が着替えを終えて来たのが分かる。
「四郎、寝ちゃった?」
「うん、起こさないようにね」
「分かってる」
「なら良いけど」
モモちゃんは黙ったまま、自分用の小さな靴に履き替える。
玄関を出ると、帰宅して来た六郎と鉢合わせになった。
「あれ?三郎、どこか出掛けるのって…。四郎?どうかしたの?」
「体調がかなり悪いんだ。これから爺さんの所に行く所」
「大丈夫なの?」
「分からない」
そんな事を聞かれても俺には分からない。
「そう…、何か分かったら連絡して?あたし、リンちゃんの側にいるから」
「うん」
六郎は心配そうに寝ている四郎の髪を撫でる。
普段ならすぐ起きる四郎も、今日は起きてこない。
六郎も四郎の体調がかなり悪い事を悟ったらしい。
「三郎、行こう?」
「分かってる」
モモちゃんに促され俺達は玄関を出て、一郎の元に向かう。
止められていた車に乗り込み、急いで爺さんの元に向かった。
数十分後、到着した俺達は爺さんのいる事務所の扉を数回叩く。
「何じゃぁ…って、お前さん達か。何の用じゃ」
気怠そうに出て来た爺さんだったが、俺の背中にいる
四郎を見て顔付きが変わった。
医者の顔付きってヤツだ。
「どうしたんじゃ」
「四郎の様子がおかしい。今は寝てると思うが多分、意識がない」
「早く中に入れ」
一郎の話を聞いた爺さんは俺達を中に入れた。
部屋の中は相変わらず清潔にされていたが、テーブルの上だけは汚かった。
テーブルの上は書類と数本の瓶などが散らばっていた。
四郎をベットに寝かせると、爺さんは聴診器を掛けて音を聞いている。
心臓部分から肺の部分に移動すると、爺さんの動きが止まった。
眉間に皺を寄せた後、スマホを取り出す。
どこかに電話を掛け始め、短い会話を済ませて通話を終わらせた。
「どこに電話したんだよ、爺さん」
「闇医者仲間じゃよ。ここには詳しく調べる為の機材がない。四郎を連れて詳しく調べる」
「調べるって…、他の奴に調べさせんの?四郎の体を」
「三郎、キレとる場合じゃないぞ。一刻も荒そう事態じゃぞ。一郎、雪哉に電話せぇ。アイツにも同行させる」
爺さんは慌ただしく出掛ける準備をしながら、俺の問い答え、一郎に指示をした。
一郎はすぐにボスに連絡を入れている中、モモちゃんが寝ている四郎の手を握る。
爺さんのこの慌てよう、ただ事じゃない事は分かる。
そんなに…、悪いのか四郎。
「ボス、すぐに来るそうだ。爺さん、俺の車にのっていくだろ。道を教えてくれ」
「おうおう、場所は新宿じゃ。三郎、四郎を背負え。さっさと行くぞ」
一郎と爺さんはそそくさに事務所を出て行った。
こんな事、今までなかった。
嫌だな、この感じ。
空気が違う意味で張り付く感じだ。
「三郎…、四郎大丈夫だよね…」
「大丈夫であってほしいよ」
四郎を背負いながらモモちゃんの手を引き、事務所を出た。
階段を降りていると、ボスと伊織がもう到着していた。
「四郎は大丈夫なのか!?」
「…」
ボスの顔付きは父親そのものだった。
その態度に苛々して来る。
「四郎を俺の車に乗せてくれ」
「…はい」
俺は言われた通りに、ボスが乗って来た車の後部座席に四郎を乗せた。
ボスは四郎の隣に座り、自身の肩に四郎の頭を乗せる。
は?
今更、父親気取りかよ。
散々、四郎の事を使って来たのに。
沸々と湧き上がる怒りを抑えながら、俺とモモちゃんは一郎の車に乗り込む。
俺達は急いで新宿に向かい、爺さんの知り合いが経営しているビルに案内された。
表向きは美容外科がズラッと並んでいるが、闇医者達の事務所らしい。
車を駐車場に止め、俺達はビルの4階に向かう為にエレベーターに乗り込む。
エレベーターの中は重苦しい空気に包まれた。
4階に着くとポーンッと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
「あぁ、兵頭会の組長もお越しですか」
俺達を出迎えたのは、60代の女の医者とナース数人。
「すまんが、コイツの肺を調べてくれんか。なるべく早く、結果が欲しいんだが…」
「検査結果は早くても明日にならなきゃ出ないのよ?」
「そこをなんとか頼めんか?」
「…、分かったわ。何とかしてみるわ。待合室で待っとく?」
そう言って、女は俺達に目配せする。
「あぁ、待たせて貰う」
ボスは女の問いに即答した。
勿論、俺も待つつもりだったし良いけど。
「そうですか、コーヒーを淹れさせて頂きますね。貴方、この方達を案内して」
「分かりました」
俺達はナースに待合室に案内され、各々がソファーに腰を下ろす。
重苦しい空気は途絶える事はなく、何時間も誰も口を開かなかった。
出されたコーヒーを飲み、煙草を吸いに外に出たりした。
朝にここに着いてから、8時間は余裕で過ぎている。
モモちゃんは疲れたのか、俺の膝を枕にして眠ってしまった。
「ボス、すいません。仕事が入ってしまって…」
「あぁ、そうか。行っていいぞ、お前を指名の仕事だろ」
「はい、すいません。三郎、分かったら教えてくれ」
「うん」
ボスに断りを入れてから、一郎は急ぎ気味で待合室を出て行った。
「おい、三郎。頭を睨み付けるのはやめろ。さっきから視線が鬱陶しい」
「別に睨んでないけど」
「嘘付け、テーブルの下でナイフで遊んでるだろ。それもやめろや」
「殺し屋なんだからナイフぐらい持ってるでしょ。安心してよ、何にもしないし」
俺はテーブルの下で、癖付いたナイフを指でクルクル回していた。
「伊織、やめろ。黙って座ってろ」
「はい…、分かりました」
ボスに促され、ずっと立っていた伊織がソファーに腰を下ろす。
どこまでも忠犬だよな、伊織は。
「三郎、俺が四郎と話すのが気に入らないか」
「ボスはなんで、急に四郎と仲良くしようとするの?前までの態度と違うし」
「四郎と俺が血の繋がった親子だからだ。今までの罪滅ぼしのつもりだ」
「罪滅ぼし…ねぇ。ボスはさ、四郎が辛い時に助けに来なかったじゃん。俺はずっと隣で見て来たんだよ」
ドスッ!!
そう言って、俺はナイフをテーブルに突き刺さす。
「なぁ、アンタ俺達に散々言って来たよな。偽善者は悪だ、綺麗事を並べる奴は罰すべきだ。そう言って来たアンタが、今してる事は?偽善と一緒じゃないのか」
「三郎、お前…。良い加減にしろよ、頭がどんな思いで…」
「知るかよ、実の息子を殺し屋にした男としかな」
「テメェ…!!」
「お前さんら、喧嘩なら外でしろ」
俺と伊織の言い合いに爺さんが割って入って来た。
カツカツカツ。
廊下からヒールのなる音が聞こえ、俺達は一斉に口を閉じる。
「お待たせしました、検査結果が出ました。病名は…」
女の言葉を聞いた瞬間、俺達は絶句した。
CASE 四郎
目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入る。
ここは…、兵頭会の本家か?
当たりは真っ暗で、見ただけで今が夜なのが分かった。
結構寝ちまったみたいだな。
ボーッとしていると静かに襖が開き、入って来たのは闇医者の爺さんだった。
「おう、四郎の坊主。目を覚ましたか」
「爺さん、何で俺は兵頭会の本家に居んだ」
「雪哉がすっ飛んで来たんじゃよ。そんで、診察を終えたお前さんを連れて帰って来たんじゃ」
「一郎が喋ったのか」
爺さんは珍しく神妙な顔をしながら、畳に腰を下ろす。
「えらく真面目な顔してんじゃねーかよ、爺さん」
「こんな時ぐらいは真面目な顔しないかんじゃろ」
「あ?それが今ってか」
「お前さん、丸2日も眠っておったんじゃぞ」
俺は爺さんの言葉を聞いて、思わず「は?」と短い言葉を漏らした。
「嘘だろ?俺が?」
「あぁ、それからお前さんの体を調べさせたんじゃが…」
「なんだよ、さっさと言えよ」
「お前さんの肺に悪性の腫瘍が見つかった。つまり…、癌じゃよ。ステージ4まで行っていた」
爺さんは一呼吸置いてから、再び口を開いた。
「余命半年じゃそうだ」
爺さんの言葉が強く耳の中に残った。