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(´∀`*)ウフフ🤭
――胡蝶、来訪。氷は退かない――朝。
障子の向こうから、軽い足音。
しのぶ:
「失礼しますね〜。雪紅さん、具合はいかが——」
――ピタ。
しのぶ:
「……あら?」
布団の脇。
当然のように座っている男。
童磨:
「おはよぉ、しのぶちゃん」
しのぶ:
「……どうして、あなたがここに?」
童磨:
「看病」
しのぶ:
「柱屋敷で?」
童磨:
「一晩中」
しのぶ:
「……」
笑顔が、ほんの少しだけ固まった。
しのぶ:
「雪紅さん、起きてます?」
雪紅:
「…………」
雪紅は布団の中で眉をひそめる。
頭が重い。
そして――近くにいる“気配”がうるさい。
雪紅:
「……童磨……」
童磨:
「はーい」
雪紅:
「……何で……いる……」
童磨:
「看病」
雪紅:
「……帰れ……」
童磨:
「やだ」
即答。
しのぶ:
「……ふふ」
童磨:
「今、笑うとこ?」
しのぶ:
「いえ。
“帰れ”と言われて本当に帰らない人、久しぶりに見ました」
童磨:
「俺、学習しないからねぇ」
しのぶ:
「誇ることではありませんよ」
しのぶは布団のそばに来て、雪紅の額にそっと手を当てる。
しのぶ:
「熱、まだ高いですね。無理しました?」
雪紅:
「……任務……」
しのぶ:
「でしょうね」
童磨:
「俺が冷やしてたんだけどさぁ」
しのぶ:
「氷で冷やすのと、看病は違います」
童磨:
「え〜?」
しのぶ:
「それに」
しのぶは、にこやかに童磨を見る。
しのぶ:
「あなた、距離が近すぎます」
童磨:
「そう?」
雪紅:
「……近い……」
童磨:
「ほら、本人も言ってる」
雪紅:
「……あんたが……」
しのぶ:
「雪紅さん、安心してください。
ここからは私が——」
童磨:
「断る」
しのぶ:
「……はい?」
童磨:
「俺がいる」
しのぶ:
「医療は専門外でしょう?」
童磨:
「でも君、忙しいでしょ」
しのぶ:
「……」
一瞬、空気が冷えた。
しのぶ:
「では、聞きますね」
童磨:
「なに?」
しのぶ:
「あなたは“柱”としてここにいるんですか?」
童磨:
「違うよ」
即答。
童磨:
「好きだから」
しのぶ:
「……」
雪紅:
「……っ」
布団の中で、雪紅が微かに身じろぎする。
しのぶ:
「……雪紅さん」
雪紅:
「……聞いてない……」
童磨:
「でも本当だよ?」
雪紅:
「……黙れ……」
しのぶ:
「……ふふ」
しのぶは深くため息をついたあと、静かに言った。
しのぶ:
「わかりました。
では私は薬と指示だけ置いていきます」
童磨:
「逃げるんだ?」
しのぶ:
「譲る、です」
童磨:
「優しいねぇ」
しのぶ:
「……いいえ」
しのぶは、雪紅の耳元で小さく囁く。
しのぶ:
「目が覚めたら、ちゃんと“帰れ”って言ってあげてくださいね」
雪紅:
「……努力……する……」
しのぶ:
「では」
障子が閉まる。
静寂。
童磨:
「いや〜、緊張した」
雪紅:
「……最悪……」
童磨:
「でもさ」
雪紅:
「……何……」
童磨:
「俺、譲る気ないから」
雪紅:
「……知らない……」
童磨:
「でも、君が治るまでは黙ってるよ」
雪紅:
「……今も……十分……うるさい……」
童磨:
「えぇ〜?」
それでも、声は確かに小さかった。
氷は退かない。
紅はまだ、目を閉じている。