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颯真の浮気に気付いてから、激動の毎日だった。
でも復讐が終わった。
これで颯真は天国に行ける。
「やっと落ち着ける」
心が軽くなった香帆は、表情が柔らかくなった。
お客様にも、心から明るい応対ができるようになった。
「佐山さん、元気が出てきたね」
男性上司も安心したようだ。
するとベテランの女性ドライバーが、笑いながら言った。
「そりゃそうよ。『女やもめに花が咲く』っていうでしょ」
香帆は初めて聞く言葉だ。
「何ですか? それ?」
「旦那が死んだ女は、花が咲いたように綺麗になる、ってことよ」
52歳の女性ドライバーは、8年前に夫を亡くしている。
「私なんてね、旦那が死んだ途端にモテて、モテて」
「モテキ到来ですね」
「そうなの、そうなの。佐山さんもモテるよ」
ドン! と机を叩く音がした。
美緒だ。
「お客様にお電話します、静かにして」
「あ、ごめんね。アタシ声が大きくて」
女性ドライバーは事務所を出た。
香帆は不思議だった。
美緒が机を叩いた?
いつも冷静な美緒が? 優しい美緒が?
「美緒、あんな言い方しなくても」
「なに言ってるの? 香帆に言ったのよ」
「え?」
「浮かれてないで、仕事したら」
「え……」
確かに、気持ちが「浮ついた」のかもしれない。
でも美緒が? あの美緒が?
今日は機嫌が悪いだけ?
いや? そういえば……、
仕事に復帰した日だ。
美緒の『笑い方』が気になった。
[バカにしたような][見下したような][見透かしたような]笑い方。
あの違和感。いつもと違う感じ。
なんだろう?
一番の理解者で、一番の協力者で、一番大切な同僚なのに。
美緒と会話が無いまま時間が過ぎた。
(なんか居づらい、早く帰りたい)と思っていた香帆だが、
退社時間の15分前に上司に呼ばれた。
「正社員に復帰しませんか?」
「え?」
香帆は、同じ会社に勤務する夫が、突然の病気で急死した。
その境遇を知る会社が『特別に正社員復帰を認める』というのだ。
新人を雇うより、慣れた香帆が復帰した方が「効率的」という理由もある。
香帆にとっては、願ってもないことだ。
結婚を機にパートになったが、パートは給料や福利厚生が不安定だ。
今後の人生を考えたら正社員の方がいい。
「嬉しいです。頑張ります」
その瞬間。
パソコンでデータを見ていた美緒が、頭を掻きむしった。
美しい顔を歪めて、奥歯をギリギリと噛み締める。
強いストレスを感じると、音が出るほど〈歯軋り〉する人がいる。
精神的疲労が蓄積している人に多い、という説がある。
(なぜ香帆ばかり。どうして香帆ばかり、いい目をみるの!)