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そあふぃー
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最悪だ。よりにもよって、あんなものを赤の他人に見られてしまうなんて。
(――終わった。もう終わった。あの人の前でバイブを壁に投げつけたんだぞ、僕は……)
あの後、どんな会話をして、どうやって彼が帰っていったのか。まるで記憶がない。
気がつけば、珍しい来客に上機嫌になってテンションの上がってしまった母を宥めすかし、トイレに連れて行き、明け方になってようやく寝付いた母を見届けて、自分も布団へと潜り込んでいた。
恥ずかしすぎて、布団の中で何度もゴロゴロと頭を抱えて悶絶した。結局一睡もできないまま、朝を迎えてしまう。
(……でも、まあ。もう二度と会うこともないだろう)
そう自分に言い聞かせながら、昨夜もらった名刺をポケットから取り出し、ぽつりと眺めた。
シンプルで洗練された名刺の表面には、小さなあたたかいロゴマークとともに、こう印字されていた。
小規模多機能グループホーム『おひさま』
介護主任 黒瀬 瑞樹
(……あの人、介護士だったのか。……ちょっと怖そうな感じだったのに、意外だな)
名前は黒瀬瑞樹というらしい。介護のプロだったからこそ、徘徊していた母にうまく対応してくれたのかと、遅まきながら納得がいった。……と同時に、昨夜の惨劇が鮮明にフラッシュバックする。
(……あの人、介護士だったのか。てっきり、闇金かヤクザの類だと思ってたのに……)
勝手な先入観とのギャップに驚きつつも、遅まきながら納得がいった。だから徘徊していた母に、あんなにも手慣れた様子で対応してくれたのだ。
……だが、感心している場合ではなかった。相手の職業が判明したところで、自分が犯した世紀の失態が消えてなくなるわけではない。
(……いや待て。介護士だろうがなんだろうが、あの底知れない男に見られた事実は変わらないんだぞ……ッ!?)
やっぱり無理だ! 思い返すたび、逃げ場のない羞恥に身がよじれる。
名刺を叩きつけるように枕元に伏せ、柊吾は再び頭から布団をかぶった。
――それから、昼過ぎのことだった。
うとうとと微睡みかけた柊吾の耳に、薄い壁の向こうからかすかな人の話し声が届いた。
(……え? 隣……?)
長らく空き部屋だったはずの隣室から、足音と話し声が聞こえる。内覧だろうか。
体を起こした柊吾の胸に、すぐに別の不安がもたもたっと持ち上がってきた。
(どんな人だろう……。怖い人じゃなきゃいいけど……)
ただでさえ壁の薄いアパートだ。母が夜中に徘徊しようとしたり、大声を出したりしたときに、隣人とトラブルになったらどうしよう。介護の手を止めて謝り倒す自分の姿が容易に想像できてしまい、柊吾の胃がキュッと痛む。
一人でぐるぐると嫌な想像を巡らせながら、柊吾は隣から響くかすかな音に耳をすませていた。
コメント
1件
あおいです🌷 第8話、読ませていただきました。 あの衝撃的な出来事のあと、布団で悶絶しながらも「もう二度と会わない」と思い込もうとする柊吾さんの心情、すごく伝わってきました。でも、もらった名刺をじっと見ちゃうんですよね…。黒瀬さんの介護主任という職業が判明したときの「意外だな」というギャップ、そこからまた羞恥がフラッシュバックする流れが、もう本当に柊吾さんらしくて微笑ましくもありました。 そして最後の隣人の気配…。これはまた新たな波乱の予感ですね。薄い壁のアパートで、母の介護と隣人問題。胃が痛くなる柊吾さんの気持ち、わかります。続きが気になります!