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「まぁこれだけしつこく誘ったら、そう思われても仕方ないよね。でもちょっとくらい、希望が残っていたりしないのかな?」
「……ないです」
「はっきり言うなぁ」
「それに、あまり話したこともないのに、そういう感情を抱く理由がわからないというか」
「可愛いから」
「はっ?」
「君が可愛いから付き合いたいって思った。それだけ。アイドルにキャーキャー言ってる部類と同じ」
「岩田さんもはっきり言いますね。でも私はアイドルでもなんでもないですし、ちゃんと中身を知ってから好きになります」
七香がきっぱりとそう伝えると、突然岩田の表情が変わった。笑顔から真顔になり、目を細めた。
「へぇ……それなら昨日の男はどうなのかな」
彼が昴のことを言っているのはすぐにわかった。
「彼は……友だちです」
「知り合ってどれくらい?」
「……八年くらいです。でもそれは岩田さんには関係ないことですしーー」
「ねぇ、島波さんは彼とは寝たの?」
絶句した。言葉を失い、口をギュッと閉ざした。だがこの反応が間違いだったことに気付いた時には、後の祭りだった。岩田は眉根を寄せて苦笑する。
「あぁ、君みたいな純情そうな子でも、やっぱり彼の手に堕ちちゃうのか。残念だなぁ」
「な、なんのことでしょうか……」
心臓が大きく弾み、耳にまでその音が大きく響く。
「俺ね、あの男のことを知ってるんだ。ちなみに島波さんはどこまで彼のことを知ってるの?」
「……」
「言いたくないんだね。まぁいいよ。俺の知り合いがさ、彼と一晩遊んだらポイって感じで、名前すら覚えてもらえなかったって言っててさ。まぁその子もあの男の名前を知らずにセックスしただけっていうし、お互い様だけど」
昴の口から聞いたことはあったが、他の人から聞くのは初めてだった。ただそのことは承知の上で友だちになったわけだから、そこまでのダメージはなかった。
「島波さん、あの男のことが好きなんでしょ?」
「……友だちとして好きです。彼には好きな人がいますから」
「へぇ、彼、まだ早紀さんを好きでいるの? もう完全に依存症じゃない」
七香は目を大きく見開いた。何故彼が早紀のことを知っているのわからず、思わず岩田に詰め寄る。
「どうしてあなたが早紀さんのこと……!」
「おっと、こんな近くに来てくれるなんて初めてじゃない?」
不敵な笑みを浮かべた岩田から離れるように、勢いよく椅子ごと退いた。そこへオムライスが届き、二人の会話は一度中断された。
「まずは温かいうちに食べてしまおう」
「嫌です。食べながら話してください」
「お行儀が悪くないかい?」
「そんなの今はどうでもいい。あなたが早紀さんを知っていることの方が重要だから」
岩田は七香を一瞥してから、スプーンを手に取りオムライスを頬張り始める。
「うん、確かに美味しいね」
「岩田さんは早紀さんと知り合いなんですか?」
「まぁね」
「それでどうして昴くんを知ってるんですか?」
「一度会ったことあるし。早紀さんの誕生日パーティーで。社長の誕生日は盛大にお祝いするんだ」
その時、ふと昨夜の出来事が頭を|過《よ》ぎる。昴と岩田が顔を合わせた時、互いを睨み合っているように見えたのは間違いではなかったのだ。
「二人は顔見知りだったんですか?」
「話したことはないけどね」
二人が知り合いだったなんて、考えにも及ばなかった。自分のことばかり考え込んで、周囲への配慮が足りていなかったと今更ながら気付かされる。
「ねぇ島波さん、君はあの男が好きで、でも彼からは何も与えてもらえない。なら君は彼に何を求めているの? 何も求めないなんて、そんな聖人君子みたいな人間がいるわけないよね」
その通りだと思った。でも七香はそのことを踏まえた上で、今の決断を下したのだ。
「私は……早紀さんと昴くんが結ばれることはないと思ってます……。だからと言って私に振り向かないことだってちゃんと理解しています。私は……ただ彼のそばにいたいだけ。友だちとしてで十分だから、早紀さんの次に近い存在でいたいんです」
「そんなので満足出来るの?」
「十分満足です」
「でもこのままじゃ、君は不幸になる。彼が別の幸せを見つけたらどうするの? 君からきっと離れていく。その時君は一人ぼっちだよ」
「それならそれで仕方ありません。私が何に幸せを感じて、何を不幸に思うかは私が決めることですから。それに……たとえ今あなたと付き合って、それが私の幸せだとは到底思えないので」
「でも付き合ってみなきゃわからないじゃないか。もしかしたら気付いていないだけで、俺が運命の人かもしれないよ」
「そうですね。でもきっと運命とは関係なく、死ぬまで昴くんのことを忘れることはないと思うんです。岩田さんこそ、こんな私でいいんですか?」
「どうしてそこまで……」
本当に自分でも呆れてしまう。だけど彼を越える人に出会えないのだから仕方ない。
「もう病気かもしれません。昴くんから私に向かう恋愛感情がなくても、私は彼が大好きなんです」
すると岩田はクスクスと笑いながら、コーヒーを口いっぱいに含んだ。
「あーあ、もう完敗だよ。そこまで言われてしまうと、もうどうしようもないね。君のことは諦めよう」
「岩田さん……」
「ただ島波さんが決めた道だからね。くれぐれも道を踏み外さないように。責任持って、あいつを見守ってあげてよ」
「はい、精一杯頑張ります」
それから食べたオムライスは、少し冷めていたが、いつもよりも美味しく感じた。
白山小梅
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