テラーノベル
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舞台の上であんなことが起きても、時間は止まらない。
アーティストたるものは、年末に掛けて物凄く忙しくなっていく。ただでさえ音楽番組の出演が山ほどあるのに生放送という緊張感もプラスされ、更にライブ終わりという怒涛すぎる毎日で元貴たちも疲労困憊のようだった。
今年は僕の病気が発覚したから番組数を減らしてもらい、去年よりマシなはずなのだが、症状が悪化するのもあり対して差はなかった。羽の重みが心も同時に沈めていく。
2色に分かれる年末のお馴染み特番では特別枠として3曲小分けに披露して、終わったら年越しをバス内で済まして別の番組へ。3年連続のいつものスケジュールになってきている。
そのままあっという間に、気付けば1月末。
予定より早く僕の入院が決まった。
◻︎◻︎◻︎
「ちなみに、もう…宜しいのですか?」
先生が遠慮がちに聞く。あのスケジュールが体にやはり来たのか、かなり頻繁に体調を崩すようになった。まだ起きあがれる日でもぼーっとすることが多い。鍵盤を押す手も重たいくらいだ。最近は頭にもやがかかったように物忘れも酷くなって、あれ、でもそれは元からだっけ。遂に入院を電話で言い渡され、おそらく最後の診察中。話は冒頭に戻る。
もう他に何がある?ライブも出れたし、ディズニーも連れていって貰ったし、雑誌は既に発売されたし、ご飯だって合間を縫って沢山行った。その時3人でお揃いも買えた。思い返してみれば、十分すぎるくらいだ。贅沢な時間を過ごさせてもらった。そばに居るマネージャーに頷き、先生にもお礼を言う。
「そうですか…。良かったです。『悔い』は無いようですね」
先生は少し寂しそうに微笑んだ。そのまま手続きの準備を始める。一通りの説明が終わるとマネージャーも看護師さんに連れられ何処かへ行ってしまい、1人で待たされる。違和感を、覚えた。
「悔い」…?あれ、僕は何か忘れている。もやの中でどうにか記憶を手繰り寄せる。
約束した筈だ。いつ?いつだったか、4ヶ月ほど前…。
誰と?誰…。そうだ、もとき。元貴と、約束した。
元貴に想いを聴くって約束したんだ。
◻︎◻︎◻︎
涼ちゃんの入院が決まったと電話で知らされた。君抜きの打ち合わせの最中だった。
何で。まだ3ヶ月は予定よりある筈なのに。
そう問い詰めると、新島さんは困ったようにあれぇ?と声を漏らす。
『涼ちゃんに聞いてなかった?最初に倒れた時に寿命が早まるかもしれないって。ほら、スケジュールがここんとこ特にハードだったから…』
なんだよ、そんなの全く聞いてない。
がたっ。立ち上がって駆け出す。まるで電話で呼び出されたあの時のように。
スタジオの外に出た途端腕を後ろに引っ張られる感覚があり、見ると息を切らした若井だった。嫌だ、止めるな。
「はっ、待って、俺も着いていく。はあっ…大丈夫、病室の外で待ってるだけだから。な?」
それにお金も忘れてるぞ、と何枚かの札を握らされる。分かった、と頷くと自分がスマホしか持っていない事に気が付いた。帽子をぶっきらぼうに被らされ、肩を強めに叩かれる。彼の癖だが、不思議と凝り固まった心が溶かされるようで、切なくなった。なんでそんなに優しいんだよ。
お前も涼ちゃんを好きなはずなのに。
この前まであんだけ火花散らしてただろ。
顔を見ると、彼は少し寂しそうに微笑んでいた。
素早くタクシーを手配して、2人で無言で揺られる。
やっとライブを終えて、いつ呼び出して壮大に告白とやらをやろうかと考えていたのに。3ヶ月も早まるなんて。つまり涼ちゃんといる時間も短くなるんだよな。ライブも曲もでき、計画は全部実行出来た。写真も沢山撮って思い出をこれでもかと作った。それでも。
寂しくない訳、無いじゃないか。
ムカつく。
涼ちゃんの癖に。
わざとやりたい事無理してでも達成するために言わなかったんでしょ。俺たちが止めると踏んで。普段は何考えてんのか分かんないのにほんと変なところで強情なんだから。いやでも、単純に涼ちゃんなら伝え忘れた可能性もあるな。
それはそれでムカつくけど。
苛立った気分を落ち着かせようと外を見る。心做しかぼんやり、ハッキリしない。
ひくっ、と喉が鳴った。
あれ、俺、また泣いてる。
隣から優しく肩を抱かれた。声にならない不満が涙と溢れてくる。嗚咽も涙も止まらないのに、なんだか最近よく泣くなぁとかそんな呑気なことばかり浮かぶ。ふと若井をみると彼も涙目だった。耐えられず気持ちを吐露する。
「ねぇ若井。嫌だよ、俺。涼ちゃんのいない世界とか嫌だ。もうどうしたらいいの?生きてく意味がわかんない、俺も一緒に死んじゃいたいよ…」
「…俺も同感だよ。でも、俺以上に涼ちゃんがそんなの許さないよ、きっと。涼ちゃん地縛霊になって元貴呪われるかもね」
「涼ちゃんに会えるんなら、それならそうでもいいよ…」
そう零すと一瞬口ごもり、困った様に幼なじみは笑った。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
毎度更新が遅くて申し訳ないです…。
若井さんはもりょきだと、涼ちゃんが好きでもいい人ポジになる解釈大好きです。今回は全面に出されていましたね。1度揺らいでやっぱりもりょきっていうのもどっちも大好きです、ぜひ同士の方は語りましょう。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
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