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私のお母さんは私が眠ってる時に仕事に行って、
私が眠っている間に家に帰ってくる。
だから私はお母さんをほぼ見ていない。
休日は一緒に過ごせるからいいけど、
最近は休日でもどこかに行ってるの。
私のお父さんは、私が小さい頃に亡くなった。
事故だった。
私のお父さんはバスの運転手で、
いつもかっこいいって思ってた。
けど、大雨の日にスリップ事故で亡くなった。
その日は久しぶりにお父さんに会えるから
楽しみにしてたのに。
いつも私は家で一人ぼっちで、
実を言うととても寂しい。
特に夜は真っ暗で何も見えなくて、
とても怖いの。
そういえば、
もうそろそろハロウィンの日が来る。
ハロウィンの夜に本物のオバケが出て、
私と友達になってくれたらいいのに。
そんなバカなことを考えながら
私は眠ろうとした。が、中々眠れなかった。
今日はハロウィンの2日前。
近所の人たちはハロウィンの飾りをしてる。
橙色と紫色の光がチカチカ光ってる。
顔の形がくり抜かれたカボチャの中に
ランプが灯ってる。
黒猫の像が置いてある。
子供たちは猫耳のカチューシャをつけたり、
おもちゃの魔法のステッキを持ったりして、
はしゃいでる。
私には友達がいない。
だってあんまり外に出ないんだもの。
それに出たところで、
色んな人からジロジロ見られるだけだもん。
キラキラ光る外の景色に私はカーテンを閉めて
蓋をした。
瞬間、家の中は本当に真っ暗になる。
自分自身の手も、
周りにあるだろう家具も、
何もかも見えない。
恐怖より先に、
寂しさが口から溢れそうになる。
いつものように隅っこに移動して体育座りをする。
その時
「ねぇ、」
と声が聞こえた。
聞こえた方向は先程カーテンを閉めた
窓の方からだった。
見ると、シーツを被った男の子が
窓辺に座っていた。
よく見ると、
ほのかに光を持っているようだった。
「誰..?」
そう私が呟くように聞くと
「僕は無片 丹生。にーくんって呼んで」
そう答えた。
なんだか珍しい名前だな..。
そんなことを思っていると
「君は?」
と聞かれる。
「私は、円端 花奈」
「えんばし..?」
「不思議な名前だね。まぁ僕もそうなんだけど」
そう言いながらケラケラと笑うにーくん。
「花奈、お願いがあるんだけど..」
「明日の子供祭りに一緒に行かない?」
「友達として」
友達?
会ったばかりなのに友達って名乗っていいのかな。
それに子供祭り..
一度は行ってみたいって思ってた。
子供祭りはハロウィンの前日、
つまり明日の夜のはじめ頃に始まる
お祭りのこと。
大人たちは仮装をして子供達にお菓子を配る。
逆に子供達は仮装をして
「トリックオアトリート」
と言いながら家を回ってお菓子を受け取る。
「やっぱりダメかな..?」
子犬のような顔を見せながらそう言うにーくん。
私は慌てて
「ダメじゃないよ!!一緒に行こ!」
と答えた。
「本当に?!」
「じゃあこれ、友達の証。あげるよ」
そう言ってにーくんは私にロリポップを渡した。
「それは魔法のロリポップなんだよ」
魔法のロリポップ…
どういうことなんだろう..
なにか仕掛けがあるとか?
ジロジロとロリポップを眺めていると、
いつの間にか窓辺に居たはずのにーくんは
居なくなっていた。
試しにロリポップを舐めてみた。
ロリポップはとても甘くて、
飽きないような味だった。
それに舐めても舐めても、ベタベタにならず、
それどころか減らなかった。
「これが魔法..?」
そう呟きながらロリポップを味わう。
こんなの持ってるにーくんって
何者だったんだろう..。
今日は子供祭りの日。
案の定、外は賑やかだった。
まだ昼間なのにも関わらず。
なんだか楽しみだな。
夜になるまでの時間はあっという間だった。
「花奈、行こっか」
そう声が聞こえ窓の方を見ると、
昨日みたいににーくんは窓辺に座っていた。
いつ来たんだろう..。
物音なんて1つも聞こえなかったのに。
「花奈、仮装はある?」
「仮装?」
「うん。子供祭りは仮装しなきゃでしょ?」
確かに..
にーくんはシーツを被ってオバケみたいだけど
私はどこからどう見ても、ただの人間だ。
「しょうがないなぁ..」
「僕の予備貸してあげるよ」
そう言いながらにーくんは私にシーツを渡した。
予備って何..。
まぁいっか。
「ありがとう」
そう言って私は貰ったシーツを被る。
「じゃ、行こ」
そう言ってにーくんは私の手を引っ張った。
しかし、
にーくんは玄関から出るのではなく、
窓から飛び降りた。
「へ?!」
「大丈夫だよ」
そう言ってにーくんはシーツを広げふわりと
地面に着地する。
「ほら、花奈もおいでよ」
おいで..
って…
下を見ると案外高い。
もし、飛べなかったら..。
そう考えると背筋がゾッとする。
「大丈夫だってー!!」
そう下から声が聞こえ、
意を決して飛び降りた。
瞬間、ふわりとシーツが広がり、
にーくんの隣に着地した。
「出来たじゃん!」
「案外楽しいかも..」
「じゃあ今度こそ行こ!!」
またもや、にーくんは私の腕を引っ張って
キラキラと光る子供祭りの会場に向かった。
あちこちから『トリック・オア・トリート』
という声が響き渡っている。
「僕ね、前もこの祭りに来たんだ」
急に話し始めるにーくん。
「誰と?」
「1人できたんだ。僕、友達いないから」
友達がいない..
にーくんも私と同じだったんだ…
「でもお菓子が欲しくて、『トリック・オア・トリート』って言いながら」
「色んな家を回ったんだ」
「でもね、みんなが僕を無視したんだ」
「え?」
「無視..?」
「そう」
「僕はただお菓子が欲しかっただけなのに..」
そう言って目に涙をためるにーくん。
「じゃあ今日は、そんなことも忘れるくらい楽しい子供祭りの日を過ごそうよ!!」
「あとお菓子も受け取ってさ!!」
私が励ますようにそう言うと、
「ありがとう花奈..」
そう嬉しそうな顔で言われた。
1つ目の家ではチョコレートが貰えた。
金紙の袋に包まれたキャンディー型のチョコレート。
「宝石みたい..」
「それに美味しい..」
そう言いながらチョコレートを頬張る
にーくん。
なんだか可愛いなぁ。
2つ目の家ではクッキーが貰えた。
小さくて可愛いチョコチップのクッキー。
にーくんはそれを3つほど口に入れて
頬張っていた。
「欲張りすぎじゃない?」
と私が笑いながら言うと
「だって美味しいんだもん!」
と言う。
3つ目の家では飴が貰えた。
色とりどりで、各種味が違う飴ちゃん。
「どれにしようかな、オバケの言う通り」
そう言いながらにーくんは飴を選んで、
口に入れる。
「あまーい!!」
とはしゃぐ、にーくん。
にーくんも、ちゃんと子供なんだなぁって
思った。
「あっという間だったね..」
そう言いながら家に帰る。
手にはカゴいっぱいのお菓子が入っていた。
案の定、にーくんはにこにこしていた。
家の前の着くと、にーくんは
「そういえばロリポップ、ちゃんと舐めてる?」
「舐めてるよ?」
『そのロリポップなんだけどさ..』
そう話始めようとしたが、
「明日も行こうね」
という声とほぼ同時に、
にーくんの姿は消えて無くなった。
にーくんって魔法使いなのかな..。
というか『明日も』ってどういうこと?
子供祭りは今日しかやってないのに..。
もしかして知らないとか?
今日が前夜祭的なことだと思ってるのかな…
だとしたら明日、悲しんじゃうかも..。
どうしよう。
そんなことを考えながらも私は一旦家の中に
入った。
ついにハロウィン当日の日になってしまった。
今日は子供祭りは開催してないけど、
キラキラ光る飾りは残ったままだった。
今日、にーくん来るのかな。
私はそんなことよりも、
にーくんのことが気になっていた。
気づくと、いつもにーくんが訪れるくらいの
時間帯になっていた。
『どうしようどうしよう』と考えてるうちに、
時間はどんどん進む。
だけど、にーくんは来なかった。
現れなかった。
今日は開催されないって気づいたのかな..?
そんなことを思いながら、外を見ていた。
すると空は真っ赤に染まり、
いつも見ている景色と全く違う風景に一変した。
「ぇ..?」
そんな声を漏らしながら、
ふと時計が目に映る。
今の時間は0時。
真夜中だった。
「花奈、お祭り、行こ?」
窓辺からにーくんの声が聞こえ、振り返る。
が、目に映ったのは、にーくん。
だけど、なんだか違った。
シーツは所々に真っ赤な血がベッタリと
着いていて、片目が取れかかっている。
「花奈?どうしたの?」
なんだか声も違う。
トーンがいつもより低い感じがする。
私は怖くてカタカタと体が震え始めていた。
そんなことを思ってると、
にーくんが段々私に近づいてきた。
『あ、死んだかもしれない』
そう本能的に思い、ぎゅっと目を瞑る。
が、口に何かを押し込まれた。
これは..、魔法のロリポップ?
「花奈、大丈夫?」
目を開けると、
いつも通りのにーくんが私の顔を覗き込んでいた。
さっきのはなんだったんだろう。
「じゃお祭り行こっか!!」
そうにーくんが言ったと同時に視界が暗転する。
目を開けると、神社のような所に居た。
「え..?ここどこ..?」
そう呟きながらキョロキョロと辺りを
見回していると
「花奈!!こっちこっち!!」
と私を呼ぶ声、姿のにーくんを見つけた。
「ねぇ、ここどこなの?」
「ここは僕の家の近くの神社祭りだよ」
再び辺りを見回すと、
屋台や出店が沢山あった。
売ってるものはマシュマロや
大っきいチョコチップクッキー。
キラキラ光るサイダー、
チョコクロワッサンなどがいっぱい売っていた。
「美味しそう..」
「あ、でも私お金もってないよ..?」
「大丈夫だよ!!」
「ここは『売ってる』んじゃなくて『配ってる』んだ!!」
「だからお金とかはいらないんだよ!」
配ってる…
じゃあ、
それなら…
「食べたい..」
「だよね!!」
「行こ!!」
マシュマロは、ふわふわモチモチ。
大っきいクッキーは、頬張り選手権。
サイダーは、ぱちぱちシュワシュワ。
チョコクロワッサンは、あまあま、パリパリ。
どれも美味しいものばかりだった。
「美味しい?」
「うん美味しい!!」
「子供祭りのお菓子とどっち美味しい?」
子供祭りのお菓子と..?
正直に言うなら、
断然
「こっちの方が美味しい!!」
今日は子供祭りの日。
子供達が仮装をして家を招いて
お菓子を欲しがりに行く日。
「トリック・オア・トリート」
あ、ほらまた来たよ。
可愛い可愛い女の子の声が家中に響く。
「ちょっと待ってね〜」
そう言いながらドアを開けた先には、
シーツには赤い血が付いており、
首や手足が変な方向に曲がっている
少女が突っ立っていた。