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朝は平等に来るくせにその先はどうしてこんなにも
不平等なんだろう。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
まだ暗い部屋の中で、天井を見上げる。
――今日もやるのか。
やるしかない、とは思う。
でも「やりたい」とは思えなかった。
布団から出て、冷たい床に足をつける。
体が重い。
それでも準備をして、家を出る。
同じ時間、同じ道、同じ景色。
ただ、自分だけがずっと同じ場所にいる気がした。
教室に入ると、もう何人か来ていた。
その中に、あいつもいる。
ノートを広げて、軽くペンを走らせているだけなのに、 それがやけに様になって見える。
――どうせ、また一番なんだろうな。
思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛くなる。
別に嫌いじゃない。
性格も悪くないし、むしろいいやつだと思う。
でも、同じ場所に立っている気がしない。
授業が始まる。
先生の言葉を一つも逃さないように
必死で追いかける。
ノートも丁寧に取る。
わからないところは、その場で理解しようとする。
――ちゃんとやってる。
自分に言い聞かせるみたいに、何度も思う。
それでも
「ここ、誰か解けるか?」
先生が黒板を指した。
一瞬の間のあと、手が上がる。
あいつだ。
迷いもなく立ち上がって、すらすらと答えを書いていく。
途中で詰まることもなく、振り返ることもなく、 ただ当然のように正解にたどり着く。
「正解」
その一言で、全部が決まる。
放課後も残った。
誰もいなくなった教室で、問題集を開く。
一問、一問、ゆっくり解いていく。
わからない。 でも考える。
時間をかけて、なんとか答えにたどり着く。
丸がつく。 ほんの少しだけ、安心する。
でも
その安心は、すぐに消える。
――あいつなら、こんなの一瞬だ。
そう思ってしまうから。
帰ろうとしたとき、後ろから声がした。
「まだやってたの?」
振り返ると、あいつが立っていた。
カバンを肩にかけて、いつもの軽い顔で。
「……まあ」
短く答える。
それ以上、何を言えばいいかわからなかった。
「あんまり無理すんなよ」
そう言って、あいつは笑った。
悪気なんて、ひとつもない笑い方だった。
でも、その言葉が妙に引っかかった。
「……無理してないと、追いつけないから」
気づいたら、そう言っていた。
あいつは少しだけ目を丸くした。
「追いつくって、何に?」
その一言で、言葉が詰まる。
何に、なんだろう。
あいつに?
周りに?
それとも、“普通”に?
「……わかんない」
正直に答えた。
本当にわからなかった。
なんでこんなに頑張ってるのか。
何を目指してるのか。
ただ
やめたら、全部終わる気がしただけだった。
少しの沈黙のあと、あいつが言う。
「そっか」
それだけだった。
励ますわけでもなく、否定するわけでもなく。
ただ、それだけ。
教室を出る。
廊下の窓から見える空は、もう暗くなっていた。
外に出ると、街灯がぽつぽつと灯っている。
影が長く伸びる。
自分の影は、やけに細くて頼りなかった。
努力しているつもりだった。
でも、それが正しいのかもわからない。
頑張っても、同じ場所には立てない。
越えられない壁があることも、知ってしまった。
それでも
明日も、きっと同じ時間に起きる。
理由なんてない。
意味もないかもしれない。
でも、やめる理由もなかった。
だから、たぶん
まだ、ここにいる。
#短編集