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「良かった。思った以上に早く着いた」
「魔法で、自身を加速させるって、なかなかでしょ?魔力は多少使うけど、移動には楽なんだよねえ」
「転移魔法使えば良いだけの話では?」
帝都に思った以上に早く戻ってこれた。これも、ラヴァイン発案の、風魔法を自分に付与し、体力ではなく魔力消費で、移動する、高速移動みたいなものだ。グランツは、魔法が使えないから、私とラヴィが、少しずつ魔力を注いで、使えるようにしたけれど、そこまで体力を使ったわけでもなかったから、一人分くらいの魔法は補助できる。
まあ、グランツのいったとおり、転移魔法を使えばいい話なんだけど、あれはコスパが悪い。光魔法と、闇魔法では、転移魔法の仕方も魔力の消費も違うし。基本的に、転移魔法は、いざという時使うのであって、普通は使わないのだ。魔法石があれば、転移魔法は簡単なのだが、あれもあれで高価なものだ。もっと、沢山取れるようになって量産できれば、話は変わってくるが、今回は、自分たちで言いだしたことなので、誰もそういうものの援助をしてくれなかった。
帝都は、相変わらず賑わっていて、災厄の前と後では、その活気が違うと思った。少しずつ、日常を取り戻しつつあるし、壊れてしまった建物の修復も結構終わってきた。元々、帝都は底まで被害がなかったが、隣人同士の疑心暗鬼からは解放されただろう。
災厄の元となった混沌は悲しき存在で、皆にも混沌って悪じゃないよって言うことは教えてあげたかった。でも、きっと私の言葉なんかに誰も耳を貸さない。
リースがいってくれたとしても、偽物聖女に騙されているだけだって言われるがオチだから。
(てか、本当にそこが理解できないのよね……)
前世界に、トワイライトが混沌の手に堕ちていたとはいえ、宣言しているわけだし、普通なら、トワイライトに……それも嫌な話なんだけど、ブーイングがいくはずなのに、災厄も、全部私のせいだって言う感じに見られているし。結局、私が救ったとか、そういう話はあまり聞かないわけで。もしかしたら、思ってくれている人もいるのかもだけど、皇帝が、それは違うみたいな感じで、弾圧しているのかも知れないと。
本当に、人が人を支配するって良いことはない。抑圧とか、均衡的な面で考えれば、良いのかも知れないけれど。
「エトワール、寄り道してく?」
「何でよ。まずは、真実を伝えるのが先でしょ。私は、今、疑いをかけられてて。それを一刻も早く、ときたいというか、理解して欲しいっていうか。それに、リュシオルがこのまま、殺されちゃうのはいや」
私のせいで、巻き込んでいるような感じだし。申し訳ないっていう一言ではすまないものを彼女にかしているような気がして、いてもたってもいられない。
「優しいね、エトワールは」
「優しいとかそう言うんじゃないわよ。ただ、このままじゃいけない気がするって思ってるだけ。でも、今回のこと、皇帝のこととか聞いたら、一気に気が滅入っちゃったって言うか、ダメかも知れないって思った。でも、リュシオルだけは絶対に助ける」
「背後に、もう一人のエトワール・ヴィアラッテアがいるかもだから?」
「……っ、そう、そういうこと」
だから、本当は、ラヴァインもグランツも巻き込みたくないし、狙いが私って決まっているんだから、私だけを狙ってこれば良いのに。
(ベルは、少なくとも敵じゃない。ラアル・ギフトっていう、ヘウンデウン教の幹部を落とせただけでも、今回かなりの収穫って思えば……)
ラアル・ギフトは、もうこの世にはいない。何で、エトワール・ヴィアラッテアに心酔していたのと言うか、信仰というか、崇拝というか、そういう感情を向けていたかは定かじゃない。でも、もしかしたら、それが洗脳だったって言う可能性もあるわけで、真相は闇の中だけど。
そんな、ラアル・ギフトは最後は悲しき最期を遂げた。悪魔召喚なんていう、禁忌の魔法を使って。私達を殺してくれると思っていたのかも知れないけれど、悪魔召喚って言うのは、復讐の代行なんてしてくれなくて、悪魔が此の世界に存在する為の器として使われる行為で。全く、願いを叶えてくれない。それも、今回召喚されたのが、ベルみたいなタイプだったから尚更。じゃなかったら、もしかしたら、悪魔に私達は攻撃されていたのかもだけど。
それは、運が良かったって思うしかないのかな。
歩きながら、今日あった出来事を咀嚼し直し、これからどうしていこうか、と悩みながら歩く。
エトワール・ヴィアラッテアのことは、きっと始まったばかりだと思うし、これ以上被害を増やしたくない。聖女殿が必ずしも安全じゃないって分かった以上、いつ如何なる時も、気を張っていなきゃいけなくなって。だからといって、皇宮に身を置かせてもらえるかっていったら、あそこはあそこで、簡単に出入りできる場所じゃないし、皇帝がいるなら尚更、そうだろう。
(矢っ張り、旅に出るしかないのかなあ……)
皆には反対されそうだし、リースを置いていくのも、心苦しいし。かといって、誰かについてきて貰うのも、その人を、巻き込むことになる訳だから。
「ラヴィ」
「何?エトワール。寄り道する気にでもなった?」
「寄り道はしない……突然なんだけどさ、旅に出ようって思ったこととかある」
「旅?本当に突然だけど、どうして?」
と、首を傾げる、ラヴァインを見て、私は、グッと下唇を噛んだ。私が黙っていれば、理由を察してくれたのか、彼はそれ以上問い詰めたりはしなかった。そして、真剣に悩むように、顎に手を当てて、うーんと唸っている。
グランツも、「旅が、何ですか?」と聞いてきたので、彼にも、一応同じ質問を投げることにした。そしたら彼も、ラヴァインと同じように真剣に考え始めたのだ。グランツは、さっきの私の態度をどう受け取ったか、あるいは、見ていないからそのままその言葉を受け取って考えているだけかも知れないけど、本当に唐突な質問だったから、何かしら、不信感は抱いたかも知れない。でも、グランツもラヴァインと同じように聞いてこなかった。それが、私の為になるって分かったからだろうか。どっちでもいいけど、その気遣いは嬉しい。
「旅、旅ねえ。今ですら、旅しているようなものだし」
「聖女殿に入り浸ってるくせに何いってるの?」
「入り浸ってるって……酷いなあ。でも、家出した時から、ずっと旅しているって言うか、自分探しはしていたかも」
そう言って、ラヴァインは自笑気味に笑う。
「ほら、エトワールもしっていると思うけどさ、俺と兄さんって仲悪いみたいに周りに思われてるじゃん」
「いや、愛が重い兄弟だって思ってるけど」
「それは、エトワールだけ。まあ、実際そうだって、思ってるし、思いたいけどさ。そうじゃなくて、まあ……ほら、うん。災厄の時とか、俺はヘウンデウン教に属していた訳じゃん。レイ公爵家の別荘を自分の城みたいに思ってたし、兄さんを見返す、認めて貰う、俺が必要だって、俺を見てくれって言う思いで、あの時は動いてたんだよ。だから、半場家出って感じ。兄さんも、俺の居場所知ってなかったでしょ?」
「いや、うん、まあ……そんなこと言ってたかも」
と、いうか、何でそんなべらべらと話すんだろうと思った。別に、モラルが、とかじゃなくて、自分のこと客観視しすぎているというか、愛が重いのはそうなんだけど、何処か、違う視点からものをいっているようにも感じた。
ラヴァインが、本当にそういうのかっていう疑問というか、引っかかりは感じていた。
(まあ、災厄でおかしくなっていてってことよね……)
どの時期から、家出していたかは知らないけど、アルベドとあったときには既に、仲の悪い対立している兄弟って感じだったし。ラヴァインからアルベドへの愛も、何というか歪だなって感じていた。それは、災厄によって誇張されていたからかも知れないけれど。でも、その感情が心の何処か似なければ、それが増幅するはずもないので。
私が、姉妹がいるって知ったというか、思い出したのはつい最近のことで、きょうだいのあり方とかは、まだ分からないし、多種多様なんだろうけど。ちょっと、歪だなって言うのは、ずっと感じていた。
「まっ、人間なんて、ずっと自分探しの旅しているんだし、結局自分ってものが何だったかなんて、死ぬ直前も、死んだ後も分かんないんじゃない」
「ま、まあ、そうだけど。そういう旅じゃなくて」
「俺は、旅したいと思ってるよ」
「……そっちが、聞きたかったんだけど」
人生の旅の話は良いから、そっちを聞かせてよ、と滅茶苦茶思った。何でそれを後回しにしたのか、確かに前置きは為になる話だったけど。
ラヴァインは、どことなく、つかれたように笑っていた。何でそんな顔しているのか、人生に疲れたのかとか、さっきの話を引きずって思っちゃうけど。ラヴァインは、頭の後ろで腕を組むと、歌を口ずさむように話を続けた。
「世界って広いからさ。ラジエルダ王国ですら、知らないことだらけだし、もっと周りの国に行ってみたい、世界一周してみたいなあっては思ったよ。でも、国境を越えるのとかさ、ただでさえ、ラスター帝国を一周するのにも時間かかっちゃうから、旅に出ようって思えなかった。でも、何もない、ラヴァイン・レイじゃなくて、ただのラヴァインだったら。貴族じゃなくて、平民で、それでもって、仕事に縛られない職のないっていったら、あれかもだけど、そういうただの人間だったら、旅に出てみてもいいかなって思った。今は、色々あって、でられないって言う現状だけどさ」
「うん」
「エトワールがついてきてほしいっていうなら、俺はついていくよ。何ものでも無い、ラヴァインにだって、なれるし、なる覚悟はある」
と、締めくくるように、ラヴァインはいってくれた。
確かに、貴族だし、いなくなったら大問題だろう。そういう意味で、縛られているって言うのはあながち間違いじゃないと思った。ラヴァインの言うとおりだと。
でも、ラヴァインは私が旅に出るって言うなら、その地位も何もかも捨てて、来てくれるって言ってくれた。まあ、それを一番に言い出すのは、グランツというか、捨てるものが底までないって言ったら、失礼だけど、グランツになるというか。
じゃあ、グランツはどうなんだと思って、見てみれば、彼も同じようなかおをしていた。
「グランツもそう?」
「はい、元から捨てるものなんて少ないですから。あってないようなものですよ。俺の地位は。全て、エトワール様に貰ったものです」
と、思った通りの回答が来て、少しだけほっとしてしまった。
旅をしてみたい。
でも、それは、楽しい旅じゃなくて辛い旅、それでもついてきてくれますかって、私は、怖くて聞けずにいた。