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🧳 シーン1:遠い国から来た碧族
夕刻、陽が傾く時間帯に現れたのは、長身の男の碧族。
肌は浅黒く、長い外套の裾には異国の刺繍が揺れている。髪は片側に編み込まれ、碧素のアクセサリが静かに光っていた。
「……すみません。コロッケ、とは……何ですか?」
カウンターに立つタエコは、一瞬目を丸くしてから笑った。
「おお……懐かしいもん聞いてくれたな。うちがまだ“人間”やった頃、よく作っとったんや」
🍽️ シーン2:記憶を再構築する揚げ物
タエコは端末にそっと触れる。
《FRACTAL_COOK_MODE=HUMAN_RECIPE》《COATING=CRISPY》《HEARTTRACE=ON》
刻まれたじゃがいも、碧素で育てられた肉片、衣となる光繊粉。
油と重力を制御するフラクタルが、青く光りながら「じゅっ」と音を立てて揚げていく。
出来上がったのは、ほんのり青く光る、サクサクのコロッケ。
隣には、記憶刺激ソースと、ほのかな酸味の碧素漬け野菜。
「ほら、揚げたてやで」
🥹 シーン3:涙の理由
男は箸を取ると、コロッケにかぶりついた。
そして目を細め、深く息をつく。
「……懐かしい匂いが、する」
彼は碧族になったとき、すべてを捨てたつもりだった。
だが――あの日、母親が握ってくれた肉入りの団子。その味の記憶が、湯気の奥からそっと戻ってくる。
「こんな遠い場所で、また会えるとは……」
タエコは何も言わず、厨房に戻った。
背中で聞こえたのは、コロッケの音と、静かにすする音だけ。
味は、国を越え、過去を越えて、心に帰ってくる。