船着き場に到着したジョセフは、辺りを見回しながら慎重に隠れていた。
遠くの方でライトが動いているのが見える。ジョセフがいなくなったことに気づき、
捜索が始まったのだろう。今度捕まれば何をされるのか分からないという不安が胸を締め付けた。
彼は猫目につかない茂みに身を潜めながら歩いた。
どれくらい歩いただろうか、足元が湿ってきた。沼地のような場所に出てしまったのだ。
その時、「グルルルル」と不気味な唸り声が聞こえた。ジョセフは一瞬立ち止まり、
音の方向を見つめた。これは仲間の野良鬼に違いない。彼は最後の力を振り絞り、
マイキーからもらった睾丸の袋を取り出した。
「俺はマイキーの仲間だ、助けてくれ!」ジョセフは叫びながら、睾丸袋を上に掲げた。
月明かりがその瞬間、辺りを照らし出した。ジョセフの視線の先には、
なんと大きなワニの群れがいたのだ。彼らはジョセフを狙ってじりじりと迫ってくる。
「ワニぃぃ!!」ジョセフは驚きのあまり声を上げた。ワニの群れは口を大きく開け、
ジョセフに襲いかかろうとしたその瞬間、ドドドド!!という大きな音が響き渡った。そして、静寂が訪れた。
ジョセフは恐る恐る目を開けた。そこには、傭兵のような格好をした猫が立っていた。
彼の目は鋭く、そして何よりもジョセフを救ってくれた存在に違いなかった。
「大丈夫か?」猫の低い声がジョセフに問いかけた。
ジョセフは震える声で、「あ、ありがとう…君は?」
「俺の名前はパルだ、お前はマイキーの仲間か?」と、傭兵の猫がジョセフに問いかけた。
ジョセフは頷きながら、もらった睾丸袋を差し出した。「ああ、これを……」
パルは袋を受け取り、眉をひそめた。
「なんだこれ、気持ち悪いな!そんなの物持ってるからワニに狙われるんだ!」
ジョセフは一瞬戸惑いながら、「え?ああ、なんでもないんだ。」
パルは不思議そうに見つめたが、深くは追及せずに頷いた。「よし、仲間のところまで案内する。」
パルはジョセフの肩を抱え、歩き出した。しばらく歩くと、洞窟のようなものが見えてきた。
「ここがアジトだ、中に入れ。」
中は意外と広く、傭兵の猫や、野良鬼と呼ばれる鬼たちが何人か集まっていた。
1匹の猫が話しかけてきた。「あなた、どこから来たの?」
「俺はキャットタウンからだ。」
そのメス猫は驚いたように目を見開き、「キャットタウン!あなた、フェリックスを知っている?」
ジョセフは頷きながら、「知っているも何も、フェリックスは俺の仲間だ。」
メス猫は安心した表情を浮かべ、「そう、これは心強いわ。」
「あなたはいったい誰?」
「私の名前はアイリよ。新聞記者なの。鬼ヶ島の実態を暴きに潜入しているの。」
「ここの実態については聞いているかしら?」
「ああ、マイキーから聞いている。」
「明日の調印式は政界の奴らや警察が集まるのよ。真実をスクープして、全世界に放送してやるわ」
「なぜこの島にそんなお偉い方々が来るんだ?」
アイリは深いため息をつき、「ここにはカジノとゴルフ場ができる予定なの。
そのための財源が、この土地に眠ってる貴重なエネルギー資源なのよ。でもね、
それは地中の固い金属で覆われてて簡単に取り出せない。だから、
その作業を鬼たちにやらせてるの。そして、得た大金の行き先は、
権力者たちの私腹を肥やすために使われるってわけ。」
「それで鬼たちを働かせていたんだな。」
アイリは頷き、「そう、それを暴露することで鬼たちを救うことができるかもしれない。
だから、協力してほしいの。」
ジョセフは心の中で葛藤していた。鬼たちの悲惨な実態を知りつつも、
自分は警察官であり、その権力は絶対的なものだ。それを裏切ることができるのか?
この問いに答えを見つけられないまま、彼は曖昧な返事をして、その場からそっと抜け出すことにした。
「突然のことで混乱してるから、一回頭を冷やしてくる」とジョセフは言った。
アイリは優しく微笑みながら、「わかった、少し休んで。」
ジョセフはその場を離れ、出口を探して歩き始めた。しかし、
洞窟の中で迷ってしまい、途方に暮れていると、
「ジョセフ」とパルが呼び止めた
「パル、えーっと……」
パルはお酒のボトルを手にし、「こっちに来いよ」と言って、
ジョセフを奥へと連れて行った。
そこでは鬼と傭兵が楽しそうに酒を酌み交わしていた。
ジョセフは不思議そうにその光景を見つめた。
「なあパル、どうしてここへ?」ジョセフは尋ねた。
パルは一口酒を飲み、「俺たちは雇われてここに来たんだ。だが、
ここの事情を知った今、この島を取り戻すために協力してる
これはもう単なる仕事じゃない、俺たちの使命だ」
「雇われた?アイリに?」
パルは首を振った。
「いや、アイリは勝手にこの島に潜入してきたんだ。雇い主は別にいる。」
そう言うと、パルはジョセフをさらに奥に案内した。そこは地下水が流れ込み、
洞窟の隙間から月明かりが差し込む神秘的な場所だった。カーテンの奥には、美しい女性の鬼が座っていた。
ジョセフはその姿に息を呑んだ。女性の鬼は静かに彼を見つめ、その目には深い知恵と悲しみが宿っていた。
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