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ジョセフは洞窟の奥に導かれ、神秘的な光が差し込む場所に入った。
そこには美しい女性の鬼、椿(つばき)が静かに座っていた。椿はジョセフを見つめ、静かに口を開いた。
「あなたが調印式を行う親善大使ね」と椿は言った。
その言葉にパルは驚き、目を見開いた。「何?ジョセフが?」と叫び、
瞬時に銃をジョセフに向けた。「お前、あいつらの手先か?」
ジョセフは慌てて手を挙げた。「ち、違う、俺は騙されて連れてこられたんだ」
パルは疑念を拭いきれない様子で問い詰めた。「本当か?」
ジョセフは必死に訴えかけるように答えた。「ああ、本当だ、これを見てくれ、
これは仲間の証だろう」と言って、睾丸袋を椿に差し出した。
椿が袋を受け取り中を覗くと、突然「きゃぁああ!!」と叫び声を上げた。
ジョセフは驚いて一歩後退し、「え?」と不安そうに呟いた。
パルは再び銃を構え、「やはり手先だな!」と声を荒げた。
しかし、椿はすぐに冷静さを取り戻し、パルを静止した。
「お待ちなさい、そのお方を殺してはいけません。」と言い、ジョセフに向き直った。
「ごめんなさい、少し驚いただけ。マイキーから大切な物を預かったのね。」
ジョセフはほっと胸を撫で下ろした。椿は優しく微笑み、
「ジョセフ、どうか無礼をお許しください」と頼んだ。
ジョセフは戸惑いながら「いいんだ、そんなことより
椿、あなたには首輪がないが、いったいどういうことなんだ?」
椿は深い悲しみを湛えた目で答えた。
「はい、私はこの島で神とあがめられ、閉じ込められていました。桃次郎様と婚約しているのです。」
ジョセフは驚愕した。「なに!!」
椿は続けた。「桃次郎様と結婚する代わりに、
ここの鬼たちの自由を約束してくれましたが、いつしかその約束は破られ、
鬼たちは奴隷になってしまったのです。」
ジョセフはその話に心を痛めた。「そんなことがあったのか…」
ジョセフが立ち尽くす中、パルが静かに言葉を紡いだ。
「明日の調印式のあと、桃次郎と椿の結婚式が行われる予定だったが、我々が彼女をかくまった。
このままではこの島はあいつらの物になってしまう。ジョセフ、作戦を立てるから付き合ってくれ。」
ジョセフは無言で頷き、パルの後を追った。振り返ると、椿が月を見上げながら、
何かを手にして「桃次郎さま...」とつぶやいているのが見えた。
作戦会議は、アイリも加わり、野良鬼や傭兵たちと共に行われた。
野良鬼には首輪がついているため、うかつに敵には近づけない。そこで、
傭兵たちが代わりに調印式を阻止する計画が立てられた。
ジョセフは不安を隠せずに質問した。「しかし、武力で阻止するのか?相手は警察だぞ。
それなりの警備をしているんじゃないか?」
パルは冷静に答えた。「ああ、しかしこちらには人質ならぬ鬼質がいる。」
ジョセフは驚きの表情を浮かべた。「椿か?」
パルは頷いた。「鬼ヶ島の象徴、神の一族ともいわれる椿なくして
この島を占拠することはできない。それと引き換えに鬼の開放を訴える。」
アイリも口を開いた。「それにこちらには裏金や天下りのスクープもあるわ。
これを世界中に発信したらどうなるかしら。」
パルはジョセフに向き直り、決意を込めて言った。
「ジョセフ、明日の調印式に出てくれ。」
ジョセフは驚きの声を上げた。「え?!」
パルは続けた。「相手を油断させるんだ。調印式にはたくさんの権力者が来る。
そこで桃次郎の悪事を暴くのさ。」
ジョセフは嫌な予感が胸に広がるのを感じながらも、頷かざるを得なかった。
彼の心には不安と決意が交錯し、降り注ぐ月光の中でその影を揺らしていた。