テラーノベル
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「乗るなぁぁぁ!!」
俺の声が住宅街に響いた。
31番――佐藤は驚いた顔で固まる。
「え……?」
黒いスーツの男たちも足を止めた。
さっきまでの笑顔が消えている。
空気が変わった。
「佐藤さん。」
男の一人が穏やかな声で言う。
「その方たちをご存じですか?」
31番は首を横に振った。
「い、いえ……。」
男は安心させるように笑う。
「最近、同業他社を装って邪魔をする人が増えていましてね。」
「お気になさらず。」
その口調は営業マンそのものだった。
もし俺が何も知らなければ、きっと信じていた。
「違う!」
俺は31番に駆け寄る。
「そいつらの車に乗ったら終わりなんだ!」
「俺を見ろ!」
「俺も最初は『荷物を運ぶだけ』って言われた!」
31番の表情が揺れる。
男たちが一歩前へ出た。
「神谷さん。」
俺の名前を呼ばれ、背中が凍る。
「あなたは組織の業務を妨害しています。」
「最後に警告します。」
その声は静かだった。
怒鳴りもしない。
だからこそ怖い。
美咲が俺の腕をつかむ。
「悠真。」
小さな声だった。
「挑発に乗らないで。」
俺は歯を食いしばる。
31番は不安そうに俺たちと男たちを見比べている。
その時だった。
美咲がポケットから一枚の写真を取り出した。
「これ、見て。」
31番へ差し出す。
そこに写っていたのは、一人の若い男性だった。
笑顔でピースサインをしている。
どこにでもいる大学生。
写真の裏には、手書きでこう書かれていた。
**『兄へ 誕生日おめでとう』**
31番は首をかしげる。
「誰ですか?」
美咲は静かに答えた。
「参加者番号12。」
「半年前に応募した人。」
沈黙が流れる。
「今も家族は帰りを待ってる。」
31番の顔から笑みが消えた。
黒いスーツの男が口を開く。
「偽造写真です。」
「信用しないでください。」
美咲は男を見た。
「じゃあ、この人は今どこにいるの?」
男は答えない。
その沈黙が、何より雄弁だった。
31番は一歩後ろへ下がる。
「……本当なんですか?」
誰に向けた質問なのか分からない。
俺たちにも。
男たちにも。
男は静かに微笑んだ。
「佐藤さん。」
「人生を変えたいと思いませんか?」
その言葉に、俺はハッとした。
あの日。
俺が応募した広告にも、ほとんど同じ言葉が書かれていた。
違う。
これは勧誘じゃない。
罠だ。
俺は31番の肩をつかんだ。
「人生は変わる。」
「でも、いい方向じゃない。」
「俺みたいになる。」
31番は唇を噛み締めた。
その時…
遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
黒いスーツの男たちは一瞬だけ顔を見合わせる。
そして何も言わず、ワゴン車へ戻っていった。
車は静かに走り去る。
住宅街に静けさが戻る。
31番はその場に座り込んだ。
震える手でスマホを見つめながら、小さくつぶやく。
「……危なかった。」
俺は少しだけ息をついた。
助けられた。
そう思った、その瞬間。
31番のスマホが震えた。
画面に表示されたのは、たった一文。
**【応募ありがとうございます。参加者番号31を登録しました。】**
31番は青ざめた。
そして俺たちも気づく。
もう遅かったんだ。
応募ボタンを押した、その瞬間から。
(第二十六話へ続く)
#サスペンス
るしゅ
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#闇堕ち
コメント
5件
最新話読みました。悠真が自分の経験を糧にして31番を止めようとする姿、すごく胸に響きました。「人生を変えたい」という言葉が過去の自分にもかけられていたって気づくところ、ぞっとしましたね。美咲が提示した写真で一瞬希望が見えたと思ったのに、ラストの登録メッセージで全部ひっくり返される絶望感…もう次の展開が気になって仕方ないです。設定の設計が緻密で、毎回引き込まれています。