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数日後
健一の実家がある地元で葬儀が執り行われた。
厳格な家柄ゆえに
会場には親戚や地元の有力者が顔を揃えていたが、その空気は異様な緊張感に包まれていた。
本来、喪主を務めるべき健一は、親族席に座ることさえ許されなかった。
彼は会場の隅で、裏方スタッフのような黒いエプロンを着せられ
弔問客に茶を出す「下働き」をさせられていた。
「…おい、健一じゃないか。どうしてあんな格好を……」
親戚たちの嘲笑と困惑の視線が、針のように健一を刺す。
そして、喪主の席に座っていたのは、未亡人のように黒いベールを纏った私、奈緒。
……ではなく、私の隣で堂々と不敵な笑みを浮かべる里奈だった。
「本日はお忙しい中、亡き母……いえ、健一さんの『元・母親』のために集まっていただき、感謝しますわ」
里奈が立ち上がり、焼香台の前で信じられない弔辞を読み始めた。
親戚たちがざわつく中、私は最前列で優雅に扇子を動かし、その光景を眺めていた。
「健一さんは、今や私の……そしてこちらの奈緒さんの『管理下』にあります。見てください、あの無様な姿を」
「親の死に目にも、こうして這いつくばって尽くすことしかできない。それが、彼が選んだ『新しい家族の形』なんです」
里奈の挑発的な言葉に、親族の一人が激昂して立ち上がった。
「失礼だろう!健一、お前も何とか言ったらどうなんだ!父親は何をしている!」
隅で震えていた父・正造は、私の視線を感じると、ビクッと肩を揺らし、力なく首を振った。
「……奈緒さんの言う通りだ。我々親子は…彼女たちに一生をかけて、罪を償わなければならないんだ……」
地元の名士だった正造の屈辱的な敗北宣言に、会場は静まり返った。
私はゆっくりと立ち上がり、茶器を運ぼうとしていた健一の足を、わざと引っ掛けた。
ガシャン! と派手な音を立てて、湯呑みが床に砕け散る。
「……あら、不手際ね。健一さん。お母様の前で、また恥を晒すの?」
「……も、申し訳ございません……っ!」
健一は親戚たちの見守る中、割れた陶器の破片を素手で拾い集め始めた。
指から血が流れても、彼は止まらない。
もはや、彼の中に「怒り」という感情は残っていなかった。
あるのは、粗相をすれば「ナオミ《私》」に見捨てられるという、根源的な恐怖だけだ。
「さあ、皆さん。焼香を続けてください。この男は、床の血を舐めとってから、お見送りしますので」
私は健一の頭を、弔電の山で軽く叩いた。
親戚たちは、この異常な空間に耐えきれず
一人、また一人と逃げ出すように会場を去っていった。
葬儀が終わる頃、祭壇の前には、血と涙で汚れた健一と、高笑いする里奈
そして冷徹に微笑む私だけが残された。
「……奈緒。もう、これで満足だろ…っ、!実家の名誉も、母さんの誇りも、全部壊したんだから……」
「満足? まさか。……健一さん、あなたの『家』はもう無くなったのよ。ここにあるのは、ただの抜け殻」
私は祭壇に飾られた遺影を裏返し、彼に言い放った。
「これからは、この世にあなたを愛する人間は一人もいない。……私と里奈さん、二人の飼い主だけが、あなたの世界のすべてになるのよ」
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#復讐