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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第55話:除雪作業と、神獣のラッセル車〜モーゼも驚く白銀の奇跡〜
一月中旬。北海道十勝地方は、数年に一度と言われる猛烈な『白魔(大雪)』に完全に飲み込まれていた。
一晩中吹き荒れた吹雪が去った翌朝。俺が古民家の雨戸を開けると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
「……完全に埋まってるな」
窓の外は、見渡す限りの銀世界。というより、物理的に雪が窓の高さ(約2メートル)まで積み上がり、完全に視界を塞いでいた。玄関のドアを開けようとしても、重たい雪の壁に阻まれて数センチしか動かない。
昨日から猛吹雪の警報が出ていたため、急遽この古民家に避難(お泊まり)させていた小春ちゃんが、隣で青ざめた顔をして震えている。
「お、お兄さん……! これ、私たち閉じ込められちゃったんじゃないですか!? 家から一歩も出られませんよ!」
「落ち着け、小春ちゃん。北海道の冬において、雪で道が塞がれるのは日常茶飯事だ」
俺は、押入れから極寒冷地用の防寒着(ワークマンの最強装備)を引っ張り出し、無表情のまま手早く着込み始めた。
「以前も言ったが、俺は元・陸上自衛隊の需品科上がりだ。兵站(備蓄)は完璧だが、それを維持するためには『輸送路の確保』が絶対条件になる。郵便局への道、そして道路に出るまでの数十メートル。ここを今から、人力で切り拓く」
俺は手に持った鉄製のスノーダンプ(大型の除雪用スコップ)を、ドンッと畳に突き立てた。
「作戦名『冬季輸送路確保(除雪)作戦』。これより開始する。小春ちゃんは窓の隙間からスマホで記録(配信)を頼む」
「お兄さん……! 頼もしいですけど、その雪の量、一人でやったら絶対に腰が砕け散りますよ!」
心配する小春ちゃんの声と、すでに開始されている配信のチャット欄のコメントを背に受けながら、俺は玄関のドアを力一杯押し開け、わずかな隙間から雪の壁へと身を乗り出そうとした。
まさに、その時だった。
『……ミャウ』
俺の足元をすり抜けるようにして、純白の毛玉がポンッと雪の上に飛び乗った。
「おい、シロ! ダメだ、そんな新雪に飛び込んだら、お前埋まって息ができなく……!」
俺が手を伸ばしかけた瞬間。
――カァァァァァァァッ!!
シロの全身から、いつもの『適温25度の絶対防壁』のオーラが、数十倍に凝縮されたような強烈な輝きを放ったのだ。
ズゴゴゴゴォォォォォ……ッ!!
「……は?」
地響きのような音と共に、信じられない現象が起きた。
シロが、雪の壁に向かってトコトコと歩き出した瞬間。
行く手を阻んでいた高さ2メートルの雪の壁が、まるで意志を持っているかのように、左右に『パッカーン!』と割れていったのだ。
いや、割れただけではない。
シロの半径2メートル以内に触れた雪は、一瞬にして蒸発し、水たまり一つ残さずに乾いたアスファルトの地面を露出させていく。
シロが一歩前に進むごとに、右と左に巨大な雪の壁が押し退けられ、その中央には「春のようにポカポカで、完全に乾燥した完璧な獣道」が一直線に形成されていくのである。
「えっ……? えっ……?」
窓からスマホを向けていた小春ちゃんが、完全に理解を拒絶した顔でフリーズしている。
シロは振り返り、「ほら、ついてきなさいよ」とでも言いたげに『ミャウ』と鳴いて、さらにズンズンと雪原のど真ん中を突き進んでいく。
その後ろを、コン吉とコン次郎のキツネ兄弟が「わーい! あったかい道だー!」と楽しそうにピョンピョンと跳ねながらついていった。
残された俺の手から、ガシャン、とスノーダンプが滑り落ちた。
配信のチャット欄は、もはやお決まりとなった『完全なる狂乱状態』へと突入していた。
『はあああああああああああ!?!?』
『雪が!! 避けたぞ!?!?』
『十戒wwww完全にモーゼの十戒wwww』
『海じゃなくて雪を割る神様wwww』
『シロ様、ついに旧約聖書の領域に足を踏み入れる』
『最強の除雪車(ラッセル車)じゃねえか!!』
『雪国民歓喜! 灯油も重機もいらねえ!!』
『うちの村にもシロ様を派遣してください!!(切実)』
『(ロシアの富豪からの$500MeTubeギフト)=”Comrade! Send that holy cat to Siberia! We need to clear the snow!“(同志よ! その聖なる猫をシベリアに送れ! 我々は除雪が必要だ!)』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Moses! The new Moses has descended!“(モーゼだ! 新たなるモーゼが降臨した!)』
世界中が奇跡の目撃者となり、雪国の住人からは羨望の眼差しとMeTubeギフトの雨が降り注ぐ。
俺は、防寒着のフードを深く被り直し、深呼吸をしてから、カメラに向かって振り返った。
「……皆さま、落ち着いてください」
『落ち着けるかバカァァァァ!!!』
『出た! 主の限界言い訳タイム!!』
『さあ、今回はどんな物理法則を歪める気だww』
『モーゼの奇跡をどうやって言い訳するんだww』
俺は、元コールセンターのクレーム処理で培った、一切の感情を排したフラットボイスで静かに言い放った。
「北海道の『パウダースノー』は、非常に水分量が少なく軽いのが特徴です。そこに、猫特有の歩行による微小な空気の振動(共鳴現象)が加わることで、局地的な雪崩が左右に起きているだけです。さらに、シロの体温による輻射熱が一時的な昇華現象を引き起こしている。ええ、ただの流体力学の応用ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、窓枠をバンバンと叩きながら絶叫した。
「流体力学で、高さ2メートルの雪が一直線に綺麗に割れていくわけないでしょ!! どう見たって神様が奇跡の力で道を切り拓いたんでしょうが!! 地面のアスファルトまで乾いてるのおかしいでしょ!!」
『小春ちゃんのキレキレのツッコミ最高ww』
『流体力学(物理法則の破壊)』
『昇華現象で雪を消し飛ばす猫ww』
『適応力バグおじさん、ついに旧約聖書の奇跡すら論破しようとする』
俺の苦し紛れすぎる現実逃避と、小春ちゃんの完璧な正論パンチに、200万人の視聴者たちは腹を抱えて笑い転げている。
「……ふぅ。まあ、理由はどうあれ、道が開けたのは事実だ」
俺はあっさりとスノーダンプを放り投げ、分厚い防寒着のチャックを下ろした。
シロが歩いた後にできた「モーゼの道」は、雪の壁に囲まれているにも関わらず、ポカポカと春のような暖気に満ちていた。防寒着など着ていたら、逆に汗だくになってしまうほどだ。
「よし、小春ちゃん。俺たちの輸送路は確保された。郵便局まで、この快適な散歩道を通って荷物を取りに行こう」
「あははっ……もう、お兄さんがそれでいいなら、私も何も言いません……」
小春ちゃんも諦めたように笑い、スマホを片手に「モーゼの道」へと足を踏み入れた。
大雪による陸の孤島化という、北海道の冬の最大の絶望。
それすらも、俺たちの神獣にかかれば「ちょっとした散歩道の開拓イベント」に過ぎなかった。
雪原を一直線に割って進む小さな白猫と、それに付き従う二匹のキツネ。その後ろを、半袖の元社畜がのんびりと歩いていく。
果てしなく続く白銀の世界に刻まれた、あまりにも理不尽で温かい奇跡の軌跡は、どこまでも真っ直ぐに、俺たちのスローライフを切り拓いていくのだった。
コメント
1件
ちょうど読み終わったよ〜!!⋆♡ もうね、シロたんが雪の壁をパッカーンって割っていくシーン、まじ鳥肌立った😭💕✨ 「モーゼの奇跡」って配信で言われてたけど、まさにそれ!! そんで主人公の必死の言い訳(流体力学とか言っちゃうとこ)がまたツボすぎてwww 小春ちゃんのツッコミも冴え渡ってたね! 神獣のラッセル車かぁ…めっちゃスローライフに必要じゃん! 北海道の冬の絶望が一転、ほっこり散歩道になっちゃうの最高すぎる🌈✨ 次話も楽しみにしてるよ🌸