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その日から、ミィは俺の家に顔を出すことはなくなった……。
12月31日、国際展示場――どこからこれほどの人々が集まって来るのか不思議になるほどの人混みの中、俺は入場券代わりのリストバンドを掲げながら、訓練をされた兵士の様に前の人の動きに合わせ歩く。俺は特徴的な、4つの大きな逆三角形の会議棟の下を通り、ようやくビッグサイトの内へと入ることができた。
傾向的に午後入場は比較的すいている……はずなのだが……。
東京ビッグサイトの西口――冬だというのに桜が開花しそうなほど温かい……というよりも暑い……。防寒対策のためのコートを脱いでも十分過ごせるほどの暑さだ。
今日は冬のコミックマーケット。コミックマーケットとは年に2回、お盆時期と年末に開催される世界最大規模の同人誌即売会だ。通称コミケ。同人誌即売会という位置づけだが、自費出版の本やグッズだけではなく様々な企業も出店しており、今ではアニメやゲームを中心とした総合エンタメイベントに近いものとなっている。
俺の目的地は企業ブースとコスプレ会場だ。企業ブースでは俺や博巳がお世話になっている出版社が出店している。
博巳のラノベのキャラグッズも売られているので、幾つか購入しようと思っている。またコスプレブースでは、博巳が紅羽というコスプレネームで俺の小説のキャラクターの女装コスを行っている。
博巳は屋上のコスプレ会場にいるとのこと。いくら室内が暖かくても、野外は気温が低いはずだ。それに俺の生み出したヒロインの中では露出が少ないキャラのコスをしているとはいえ、防寒がバッチリと言えるようなキャラではない。そのため、温かいものでも差し入れてやろうと考えている。
俺は人混みの中を進み、企業ブースで挨拶と買い物を終えた。
コミケの都市伝説の一つとしてコミケ雲というものがある。コミケ会場を包む熱気によって、ビッグサイトの中に雲ができたというものだ。コミケに参加するまではよくできた嘘だと決めつけていたが、この熱気を目の当たりにするとあながち嘘とは言い切れないように思えてしまう。
しかし室外へと出ると、一気に今が冬だと思い出させられる。室内が暑かった分、室外は余計に寒く感じ、俺は脱いでいたコートをしっかりと着て紅羽のことを探した。
長蛇の列が形成されている先――カメコにポーズを求められ、一生懸命その要望に答える紅羽の姿が見える。俺もその列に並んだ。
しばらく並び俺の番になると、それまで厳格な表情を浮かべていた紅羽の顔が柔らかく崩れる。
「優斗。来てくれたんだ~。どう、僕のコスプレ。」
紅羽はくるりと一回転すると、顎に手を当てて顔を傾け厳格な表情でポーズを決める。紅羽のコスプレ衣装は先日、家で見せてもらった時よりも細部まで作り込まれており、紅羽の表情や所作も俺の想像通りだ。何より、男友達に対して抱く感情としてはどうかと思うのだが、男とは思えないほど可愛い。
俺はスマホを構えて何枚か写真を撮った。
「完璧だよ。さすが、紅羽ちゃん。」
「勘弁してくれよ。『実は女性なんですよね。』とか『男でも良い――むしろ男の方がお得だから付き合ってください!』とか言われて大変なんだから。」
俺は紅羽に差し入れのコーンスープとカイロを渡しながら後ろを見る。紅羽の前には常に列ができており途切れることはない。
「まあ、これだけ人がいれば”だる絡み”をしてくる人もいるさ。頑張れよ。」
俺が帰ろうとすると紅羽に腕を掴まれる。
「もうそろそろ列切りをして、一旦休憩を取ろうと思うからちょっと待っていてよ。」
列切りとは列の一番後ろの人やコミケスタッフに頼んで、これ以上列が伸びないようにお願いする行為だ。俺はその場を離れてコスプレブースの端に腰を掛け、他のコスプレイヤーさん達を見ながら紅羽を待った。
30分くらい経つと紅羽は大きな袋を持ちながらこちらにやって来た。そして袋の中から缶コーヒーを取り出して俺に渡す。もしかしてこの袋の中……全部差し入れで貰ったものなのか……!?
紅羽は缶のコーンスープを取り出してプルタブを開ける。
「優斗、来てくれてありがとう。休憩のタイミングが無くて困っていたんだよ~。」
「今回は、他のコスプレイヤーさんから合わせを頼まれなかったのか?」
合わせとは、同じ作品のコスプレや世界観が似ている作品のコスをしている人達と一緒に撮影をすることを示す。紅羽ほどの人気になると、毎回、紅羽のコスプレ仲間から合わせの申し込みがある。また、会場内で突発の合わせを頼まれることすらあるのだが……。
「うん、午前中にメイド服合わせをやったんだけれど、その後もすぐに列ができちゃって、大変だったんだ。」
自分の作品に対して言うのも悲しいことだが俺の作品の知名度は決して高くない。しかし、そんな作品のコスで列が途切れないとは……紅羽の人気の高さを改めて感じる。
「お前って……改めてすごいやつなんだな……。」
紅羽はコスプレも小説も共に人気で……普段の紅羽――博巳を見ていると全然そんな気がしないが、本当にすごいやつだ。
「やめてくれよ。僕は色々な人がいたから、今の活動を続けていられるんだ。例えば今回のコスだって、アイさんの女性らしい動きを真似しているし……そもそも優斗がいなければ、とっくに女装コスなんてやめているんだから……。」
懐かしいことを思い出させてくれる……。
「でも、アイさん大変だったみたいだね。この前メルラブに行ったときに、アイさんに『ユウト君に助けられた。』って言われたよ。」
「まあね――と言いたいところだけれど、あれはミィちゃんのおかげなんだ。ミィちゃんが俺に『アイさんの様子を見に行ってくれ。』って連絡をしてこなければ、大変なことになっていた。」
紅羽は目を細め、流し目で微笑んだ。
コメント
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尾津さん、第27話読みましたよ〜!😭💕 コミケ会場の熱気すごい…!紅羽のコスプレ大人気すぎて、列が途切れないってマジで神レベルの人気じゃないですか!? ユウトが差し入れ持って駆けつけるシーン、めっちゃ優しいし温かい気持ちになったよ…☕💕 しかも紅羽が「優斗のおかげ」って言ってくれてるのが、二人の絆感じられてエモすぎる…!! ミィちゃんの話題も出てきて、これからの展開がすごく気になる展開…!次話も楽しみにしてます🌸✨