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翌日。受付にカレンちゃんがいるか遠目で確認しようとしたら、黒いスーツの男がミレイちゃんと話しているのが見えた。なんだろう。何かトラブルでもあったんだろうか。
横目でチラリと確認したけれど、やっぱりカレンちゃんの姿はなかった。
本当に試験勉強なんだろうか。実はこっそり体調を崩してたりしてないだろうか。
「だいき、おはよ~」
「おはよう、いつきくん。……ねえ、カレンちゃんいた?」
後ろから来たいつきくんに、縋るように確認してみる。俺の見落としかもしれないし。
「いや見てない。けど、ミレイちゃんの隣にすっごいイケメンが座ってたよ」
「あ、いたよね、黒スーツの。……カレンちゃん、何かあったのかな」
「……え!? そこ、カレンちゃんなの?」
「え? なにが?」
いつきくんが黙ってニヤニヤしているけれど、なんなんだ。友達のことを心配して何が悪い。
「おはよっす~」
「おはようございまーす! 今日も頑張りましょう!」
「ねえ、二人とも。カレンちゃんが来てたかわかる? 俺が来た時はまだいなかったんだけど」
「……あー、来てましたね。すっげぇイメチェンしてましたけど」
「あ、この間カットしに行くって言ってたから、それかな?」
「うん。すっごい似合ってたから、だいきくん早く見に行った方がいいよ!」
「そうなの? わかった、挨拶してくる!」
よかった。本当に体調を崩していたわけじゃないんだ。
俺はそのまま受付へダッシュした。けれど、やっぱりそこに彼女はいない。
黒スーツの男が座っているだけだ。そこはカレンちゃんの席なのに。……おい、なんでお前がそこに座っているんだ。
「あの、そこにいつも座っていた女の子……何かあったんですか?」
「え?」
「……え?」
「おはようございます、だいきさん。朝、僕のこと無視していきましたよね? ひどいなぁ。結構、傷つきましたよ?」
ニコニコと軽やかな関西弁を操るその人物は、紛れもなく――男の姿になったカレンちゃんだった。
「……どういうこと?」
「ふふっ。こっちの僕は、お嫌いですか?」
いつもと声色だって違う。え、俺、からかわれてる? 実は双子の兄妹だったとか?
「いや……ごめん、また今度話す」
思考回路が追いつかない。俺は逃げるようにその場を去った。
え、いっちゃんとりゅうせいは気づいていたのか? いつきくんは……いつきくんだけは、絶対に知らなかったはずだ。
「え、俺、知ってましたよぉ。初めて近くで見た時、可愛い男の子だなぁって思って。すぐ本人に聞いちゃったし」
「まあ、俺は今朝まで知らなかったっすけど、多様性の時代っすからね。可愛けりゃオッケーなんで」
「嘘だ……。俺、全然気づかなかった。だいきと一緒。完璧に女の子だと思ってたよ」
「流石、おっさんっすね」
「おい! 今『おっさん』とか関係ないだろ!」
「怒り方、超おじさんじゃん」
「お父さん寄りのね」
ふざけて冗談で流していい話なのか、これ。俺はもう、これからどうやってカレンちゃん……いや、彼に接していいのか全くわからなくなっているのに。
「あー、名前も変わってたから確認したほうがいいっすよ」
「確かに。あの姿で『カレンちゃん』はびっくりするよね」
名前。本当の名前……? いや、何が「本当」なんだ。俺はずっと騙されていたのか? どこからどこまでが?
俺のことを好きだと言っていた、あのメモも全部嘘? なぜ俺の前で女の子の姿だったんだ?
は? 謎だらけなんだけど……!
「ちなみに、男バージョンは何だと思います?」
「本名ってことだよね」
いつきくんが腕を組み、上を向いて目を瞑る。仕事中に考え事をしている時に、彼がよくやる癖だ。
急にりゅうせいがソワソワしだしたけれど、……わかる。わかるよ、りゅうせい。俺だっていつもそれを見て「ちゅうしたい」って思ってた。
「……ぽんた」
「犬じゃん!」
「ふわふわの栗毛に、あの可愛い顔でしょ? それ以外にぴったりなのないよ」
「いつきくん! 簡単に『可愛い』とか言わないでって言ったでしょぉ!」
「ごめん、男の子だからいいかなって」
「俺も男の子だからぁ!」
「だいきくんは、どう思うっすか?」
じゃれ合ういつきくんたちを横目に考える。なんだろう、もう「カレンちゃん」の顔しか出てこない。
「……さとし」
「ポケモンじゃん」
「でも、ぽい気もする! イケメンだけど名前はシンプル、みたいな」
「だろ?」
あー、もう無理だ。名前がどうとかより、今すぐちゃんと話したい。なんなんだよ、本当になんなんだよ!
それに明日、水族館なんだぞ。
結局誰も来ないから二人きりだし……。でも、明日来るのは「カレンちゃん」じゃないんだよな。
「そうだ。今日、一日会議じゃん。いつきくん」
「うわっ、そうだ」
「え~いいなぁ。俺ら、こんなに寒いのに営業っすよ」
「俺らもそれを経て、ここまで来たの」
「まあ、それもいいっすけど。たまに『俺、何してんだろ』って思う時ありますよねぇ……」
「とりあえず、今を生きようよ、いっちゃん」
りゅうせいに励まされ、いっちゃんが重い腰を上げる。色々言いながらも、ちゃんと頑張るのがいっちゃんだからな。
……そして会議中。
突然、スマホの通知音が「ポンっ」と鳴り、思わず手に取った。
「すみません、音、消し忘れましたぁ……」
「しっかりしてくださいよ、先輩」
部下たちに茶化されながら、なんとなく画面を確認する。
お昼のお誘いが来ている。誰だ? いっちゃん? りゅうせい?
隣にいるいつきくん……ってことは、ないよな。
表示された名前は、見たこともないものだった。
#学園生活パロ