テラーノベル
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一糸乱れぬフォーメーションチェンジ。完璧なシンクロ率。近々始まるツアーに向け、スタジオ内の熱気は限界を超えつつあった。その激しい動きの最中、事故は一瞬の油断から起きた。
ダンサーが一斉にジャンプし次のフォーメーションに移動するその瞬間、
12(っ――!?)
マサヒロの右足首に鋭い痛みが走った。一瞬、視界が真っ白に染まった。
叫び出しそうになる悲鳴を喉の奥で力ずくで押し殺し、なんとか次のフォーメーションに移る。コンマ数秒のラグ。だが、ダンサー時代の身体感覚で誤魔化し、何事もなかったように踊りきった。
ダンスが終わると、すぐに休憩に入った。周囲のメンバーが一斉に緊張を解き、床にへたり込んだり水分補給に向かったりし始めた。
マサヒロは平静を装いながら、ゆっくりと壁際へ向かって歩いた。
一歩、踏み出すごとに右足首に激痛が走る。だが、顔には一切出さない。口元にはいつもの笑みを浮かべ、腕を組んで壁にもたれかかった。
14「マー君!さっきのダンス、キレが凄かった!やっぱかっこいい!」
12「ありがとう、ハルも上手だったよ」
(やっちまった……完全に捻ったな……)
メンバーから貰う褒めの言葉はやはり嬉しい。だが心の中で深く息を吐く。
今、抜けるわけにはいかない。自分が我慢すれば済む話だ。この程度の痛み、気合いでどうにかしてみせる――そう自分に言い聞かせた。
13「マー君、おつかれ!はい水!」
差し出されたペットボトル。受け取ろうと視線を上げると、そこにはアロハが立っていた。
アロハは普段、明るくグループのムードメーカーとして振る舞っている。その反面、意外と周りを見れる男だ。全体の動きやメンバーの表情をよく見て異変に気付く。
12「ありがと」
マサヒロは短く答え、ペットボトルのキャップを開けて口をつける。アロハのような観察眼の鋭いタイプには、少しでもボロを出せば勘づかれる。極力自然に、いつも通りの態度を保つ必要があった。
アロハは自分の水を取り出しながら、気さくなトーンで話しかけてくる。
13「今日の後半の展開、かなりキレてたよね!ツアー本番、めっちゃ盛り上がりそう」
12「そうだね。完成度上げていかないと意味ないし」
13「さすがマー君!…あ、そういえばさっきのサビ前のジャンプ、すごく低く抑えてたけど、なんか新しい見せ方?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
12「……ううん。着地からの次の動きに早く入るための調整だよ」
13「ふーん…そっか!色々考えてるんだね、さっすがマー君!」
アロハは笑ってそれ以上は追及せず、他のメンバーのところへ歩いて行った。
マサヒロは静かに息を吐き出す。誤魔化せた、と安堵した。
しかし、アロハの背中が去った後も、右足首の熱感と痛みは増すばかりだった。靴の中が圧迫されている感覚がある。おそらく、急速に腫れ上がってきているのだろう。
12(あと一時間……今日の練習さえ乗り切れば、夜にアイシングして誤魔化せる)
マサヒロは歯を食いしばり、痛む足に重心をかけないよう、密かに立ち位置の調整を始めた。
休憩が明け、後半のリハーサルが始まった。
5「じゃあ、ラスト通しで行くよ! 本番のつもりで!」
曲が鳴り響く。
マサヒロはアドレナリンを全身に巡らせ、激痛を思考から締め出した。右足を庇う分、左足と腰に過度な負担がかかるのがわかる。ステップの軸がブレそうになるのを、圧倒的な筋力と執念で強引にねじ伏せる。
12(大丈夫だ、俺ならできる……)
だが、体は限界を迎えていた。
曲の終盤、全員で交差しながら激しく位置を入れ替える大サビ。
右足で力強く床を蹴り、センターへと躍り出るはずの局面。
蹴り出した瞬間、右足首が耐え切れずに悲鳴を上げた。カクンと関節が崩れ、体重を支えきれなくなる。
12「あ――」
声にならない漏れ声とともに、マサヒロの体が大きく体勢を崩した。
倒れそうになる体を庇おうと強引に踏ん張ったが、激痛で膝から崩れ落ち、そのまま床に倒れ込んだ。
スタジオの音がピタリと止まる。
「マサヒロ…!?」
「大丈夫か!?」
メンバーたちが慌てて駆け寄ってくる。
マサヒロは床に手をつき、必死で立ち上がろうとする。
12「……ごめん、滑っただけ。大丈夫、」
虚勢を張って立ち上がろうとした瞬間、右足に激しい激痛が走り、マサヒロは顔を歪めて再び膝をついた。冷や汗が額から一気に吹き出す。
3「…おい無理すんな、自分の足見てみろよ」
声のした方に視線をやると、アロハがすでにマサヒロの右足首の前にしゃがみ込んでいた。
アロハの顔に、いつもの元気で明るい表情はない。逃げ場のないアロハの強い視線が、マサヒロを射抜いている。
アロハは迷いなく手を伸ばすと、マサヒロの右足の裾を慎重にめくり上げた。ダンスシューズの足首周りが、明らかに異常な形に膨らんでいた。
13「…ねぇマー君。普通はさ、滑っただけでこうはならないよね?」
アロハの声は低く、淡々としていた。だが、その裏に隠された怒りと心配の感情が、痛いほど伝わってきた。
13「…練習、続けててください。僕が医務室に連れて行きます」
12「アロハ、俺一人で歩けるから……」
13「いいから」
アロハはマサヒロの言葉を短く遮ると、マサヒロの左腕を自分の首に回させ、肩を貸して無理やり立ち上がらせた。
右足を浮かかせた状態のマサヒロを支えながら、アロハはゆっくりとスタジオの外へ歩き出す。
廊下に出ると、静まり返った空間に二人の重い足音だけが響いた。
医務室へ到着し、ベッドにマサヒロを腰掛けさせると、アロハはすぐに氷嚢とトレーナー用のテーピングセットを用意した。
慣れた手つきでマサヒロの靴紐を解き、靴下を脱がせる。
露出したマサヒロの右足首は、赤黒く腫れ上がり、痛々しい状態だ。
13「……ねぇ、いつから?」
アロハが氷嚢を優しく当てながら尋ねる。アイシングの冷たさと痛みが混ざり合い、マサヒロは小さく息を飲んだ。
12「……最初の、休憩の前」
13「サビ前のジャンプ着地ね…言われてみればたしかに、あの時から動きがおかしかったもん」
12「…気づいてたんだ」
13「当たり前でしょ。着地の軸がズレてたし、その後の移動も全部左足主導になってた」
アロハは静かにため息をつき、氷嚢をタオルで固定した。
13「なんで言わなかったの。途中でやめれば、ここまで酷くならなかったのに」
アロハの問いに、マサヒロは顔をそむけ、苦々しくつぶやいた。
12「…言えるわけない、ツアーまであと少しで皆集中してるのに、怪我とか格好つかないでしょ。それに、俺なら行けると思って…」
しりすぼみに話すマサヒロの言葉を、アロハは静かに聞いていた。
そして、アイシングの固定を終えると、まっすぐにマサヒロの目を見た。
13「あのさ、マー君。格好つかないとか、俺なら行けるとか、本気で言ってる?」
アロハのトーンはどこまでも静かだったが、だからこそ重みがあった。
12「…っ!でも、」
13「でもじゃない。…怪我は誰だってする。ダサいことなんかじゃない。それに我慢して悪化して、傷つくのはマー君だけじゃない、メンバーもファンも、皆悲しむことになる。」
12「…そっか、そうだね、ごめん」
マサヒロが素直に謝ると、アロハの表情がふっと和らいだ。いつもの穏やかな雰囲気が戻ってくる。
13「ん、わかってくれればおっけい!ほら、とりあえず病院行く手配したから。車回してもらうね」
12「…アロハ、ありがとう」
13「どーいたしまして!早く元気になって一緒に踊ろう。皆待ってるから」
痛む足首を抱えながらも、マサヒロの心からは重苦しい焦燥感が消えていた。
アロハの優しさとメンバーという頼れる仲間がいるという実感が、じんわりと胸を温めていた。
くつしたのあな
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コメント
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**うりさん、第2話読了したよ〜!📖💕** もうね、マサヒロくんの「俺なら行ける」って意地張るところが痛いくらい伝わってきて胸がギュッてなった😭💦 アロハくんの観察力と優しさ、マジで推せる…!「格好つかないとか本気で言ってる?」って言葉、めっちゃ刺さったよ…。 怪我ってダサいことじゃない、って言える関係性、尊すぎる🥺✨ 次、どうなっちゃうの?ツアー大丈夫なの?続きが気になりすぎる〜!!