テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
※『』内は当たり前ですが、私が実際に思っていることではございません。
夜の静寂が広がる、とあるマンションの一室。
ベッドの上に丸まったシューヤは、液晶画面が放つ青白い光をただじっと見つめていた。
指先が機械的に画面をスワイプする。
検索欄に入力されているのは、自分自身の名前と所属するグループ名。
11(見ちゃダメだ…見ても良いことなんてひとつもないって、わかってるのに……)
頭では理解しているはずだった。けれど、一度芽生えた不快な好奇心と不安は、磁石のように指先を検索ボタンへと引き寄せてしまう。
きっかけは、数日前に出演した大型音楽番組だった。
新曲の初披露。メンバー全員で、気合いを入れて臨んだステージで、シューヤは自分なりに最高のパフォーマンスをしたつもりだった。だが、放送が終わった直後から、SNSのタイムラインには称賛に混ざって、鋭く刺さる言葉が散見されるようになった。
『シューヤだけダンスズレてない?』
『歌唱力落ちた? 浮いてる。前の方が良かった』
最初は「色んな意見があるな」と流そうとしていた。
しかし、一度気になり始めると、人間の脳は負の情報ばかりを異常な精度で集め始めてしまう。
検索ワードを絞り込むにつれ、画面に表示される言葉はより過激で、悪意に満ちたものへと変化していった。
『本当にタカシを支えたいの?』
『歌もダンスも中途半端。他のメンバーの足を引っ張ってる』
『シューヤ推しのファンってどこが良いと思ってんの?』
11「…っ」
胸の奥がぎゅっと固く締め付けられる。
冷たい冷や汗が掌にじんわりと滲んだ。
誰が書いたのかもわからない、顔も名前もないアカウントからの言葉。
それが、まるで目の前に立つ何千人もの観客全員から突きつけられているような錯覚に陥る。
11(俺、そんなに駄目だったかな…ちゃんと練習したのに。みんなの足を引っ張らないように、必死でやってたのに……)
一度自分を疑い始めると、これまで積み重ねてきた努力も自信も、音を立てて崩れ去っていくようだった。
画面を閉じようとするのに、指が動かない。
自分を否定する言葉を追う手が止められない。傷つくと分かっているのに、毒を煽るようにスクロールを続けてしまう。
暗闇の中、液晶の光に照らされたシューヤの顔からは完全に血色が失われていた。
翌朝。グループのレッスンスタジオ。
大きな鏡の前で、メンバーたちがそれぞれの立ち位置につく。
シューヤも定位置に立ち、深く息を吐き出した。
鏡に映る自分の顔はどこか青白く、目の下にはうっすらとクマが出来ていた。昨夜は結局、明け方までスマホを手放すことができず、ほとんど眠れなかったのだ。
11(大丈夫…集中、動けば忘れられる……)
音楽が鳴り響き、体が勝手に動き出す。
体に染み込んだダンスの振り付けもこなし、いつも通りにタカシと歌う。
だが、いつもなら自然と溢れ出てくる「楽しい」という感覚が、今日に限ってはどこを探しても見当たらない。
11(足を引っ張ってる……? 俺の動き、変…?)
鏡に映る自分の姿を見るたび、昨夜目にしたアンチコメントの文章が脳裏にフラッシュバックする。
『シューヤだけダンスズレてない?』
『歌唱力落ちた? 浮いてる。前の方が良かった』
11(もっと、ちゃんとやらないと……)
焦りが足元を狂わせる。
リズムに対して少しだけ早く動き出してしまい、隣のメンバーと動きがほんの少しズレた。
11(…っ、やばい)
咄嗟に声を殺して修正しようとするが、焦れば焦るほど身体は硬くなり、関節が軋むような違和感が襲ってくる。
「シューヤ、今日ちょっと固いぞー! 力を抜いて!」
振付師からの指摘が飛ぶ。
いつもなら「はい、すみません!」と明るく返せるはずの言葉が、今のシューヤの心には大槌のように重く響いた。
11(やっぱり、やっぱり俺のせいで流れが止まってる……)
喉の奥がキュッと縮こまり、声が出ない。
ただ小さく頷くことしかできなかった。
そんなシューヤの異変に早く気付いたのは、同じバックボーカルであるタカシ。
7(……シューくん、今朝からなんかおかしいねんな…)
タカシは元々、人の表情や空気の変化に敏感なタイプだった。
ダンスのミスくらい誰にでもある。だが、今日のシューヤのミスの仕方はいつもと違っていた。失敗した後に極端にオドオドし、周囲の視線を恐れるように縮こまっている。
何より、あの真っ直ぐで力強かった瞳から、光が消えていた。
「よし、一旦休憩!」
振付師の声がかかると同時に、シューヤは逃げるようにスタジオの隅へ歩いていき、壁に背中を預けて膝を抱え込んだ。
水分を補給する気力すら湧かないのか、ただぼんぼんやりと自分のつま先を見つめている。
タカシは自分のペットボトルとシューヤのペットボトルを手に取ると、ゆっくりとシューヤの方へ歩み寄った。
7「シューくん、おつかれさん。はい、水」
11「…っ! あ、タカシくん…ありがとう」
タカシから差し出されたペットボトルを、シューヤはビクッと肩を揺らして受け取った。
その手も、少し震えている。それをタカシは見逃さなかった。
タカシはストンとシューヤの隣に腰を下ろし、あえていつもの軽いトーンで話しかけた。
7「今日、なんか全体的に力入ってるなぁ。なんかあったん? 眠れてへんの?」
11「…ううん、そんなことないよ。ちょっと…ダンスのタイミングズレちゃったりしたから、焦っちゃって」
シューヤは引きつった笑みを浮かべ、必死に誤魔化そうとする。
声は今にも消えてしまいそうなくらい弱々しかった。
タカシは言葉を挟まず、穏やかな目元でシューヤの横顔を見つめた。
7「ふーん…なるほどねぇ。まあ、新曲の初披露終わったばっかりやし、疲れもあるやろうなぁ」
タカシはそれ以上深くは追及せず、自分のペットボトルのキャップをくるくると回した。
7「あんま一人で抱え込まんと、僕ら、チームなんやから」
11「……うん。わかってるよ、タカシくん」
シューヤは力無く頷くだけだった。
タカシの優しさがありがたい反面、今の自分にはその優しさすら眩しすぎて、直視することができなかった。
11(タカシくんみたいに、歌も上手くて華があって誰からも愛される人なら……こんな言葉、かけられないのに…)
心の中で呟いた比較が、さらに自分を追い詰めていく。
シューヤの心の中の暗闇は、静かに、確実に深がりを見せていた。
コメント
1件
ああ~~もう、心臓ぎゅってなった😭💔 シューヤくんの「毒を煽るようにスクロールしちゃう」感、めっちゃわかるし苦しいよ…! 明らかに元気ないのに「大丈夫」って笑顔作っちゃうとこ、知ってる人なら絶対気づくし、タカシくんの優しい距離感が沁みる🥺 「チームやから」の一言がもう、シューヤくんの心に届いてほしいって祈るような気持ちになった… 次、どうなるか気になって寝れんやつやこれ🆘
323