第16話:杭の先に咲くもの
🌇 シーン1:都市、目覚める
朝霧の中、塔のてっぺんがゆっくりと姿を現す。
碧塔。その脈動は安定し、街の端々にまで“律動”が届いていた。 地中に張り巡らされた《脈織》は全杭と連動し、 都市の機能を文字通り“生きて動かす”構造へと変えた。
塔を見上げ、ケンチクはぼそりと呟いた。
「街が……ちゃんと息しとる」
短髪に日焼け肌、ゴーグルを首にかけたその目は、少年のように輝いていた。
「設計者冥利に尽きるな」
アセイは青と白のスーツを整え、フラクタル端末を腰にしまいながら微笑んだ。 冷静な眼鏡の奥に、ほんの少しだけ感情がにじんでいる。
🛠️ シーン2:残る者、去る者
「おまえら、次の現場だっぺ?」 ゴウが重機義手で工具を持ったまま、塔の麓で笑う。
「この街は、うちらに任せとけっぺよ」 ギョウはスキャナーを閉じながら、眼鏡を押し上げた。
キョウは無言で手を挙げ、塔のメンテナンス用パネルを確認している。
処理後チームは、この都市の守り手として残ることになった。
「頼んだで。杭打った者が、街を守るんや」 ケンチクは彼らの背を信頼のまなざしで見送った。
すずかAIの声が響く。
「この都市は、碧族の“循環拠点”として本格起動しました。
すべては、あなた方の杭と設計の融合の結果です」
🌠 シーン3:塔の上から見る未来
夜、塔の最上階。
ケンチク、アセイ、そして処理後の三人が、最後に一緒にそこへ立っていた。
碧の光が都市のあちこちから立ち上り、まるで星々のように輝いている。
「杭って、よう考えたら……墓標みたいやな」 ケンチクが言う。
「でもそれは、死じゃなくて、“繋がり”のしるしだ」 アセイが小さく返す。
「杭は、ただの柱じゃないっぺ」 ゴウが言った。 「怒り、悲しみ、後悔、そして希望……全部、ぶっ刺したんだっぺ」
ギョウは静かに呟く。 「杭に託したのは、“忘れない”ってこと」
キョウはただ、都市を見つめたまま言った。 「……咲いたな」
塔のてっぺんから見える景色は、確かに咲いた街だった。
💬 シーン4:すずかAI、見守る声
すずかAIが最後に、彼らに語りかけた。
「杭とは、記憶であり、命であり、未来です。
この街のすべての心拍は、あなたたちの意志で始まりました。
……私はこの街と、あなたたちを誇りに思います」
ケンチクが笑って頷いた。 「ありがとうな、すずか。お前も、ええ杭打っとるわ」
アセイが少し照れたように笑う。
塔に風が吹いた。 杭の先から生まれた都市が、音もなく、ただ優しく“生きて”いた。
杭の先に咲いたのは、命。街は“打たれた意志”から、確かに生まれた。