テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第一章 王命
春が過ぎ、王立魔法学院にも新緑の季節が訪れていた。
エルミナの森での実習から、およそ二週間。
学院は再び穏やかな日常を取り戻している。
「ルミアーナ嬢、おはよう!」
教室へ入ると、アイリスが大きく手を振った。
「おはよう、アイリス。」
ツララも笑顔で手を振り返す。
「今日も一緒に授業を受けようね!」
「うん!」
そんな二人を見て、カインが肩をすくめる。
「朝から元気だな。」
「カイン君も元気そうだね。」
「まあな。」
一年A組には、以前のような緊張感はなかった。
誰もが自然とツララを受け入れ始めていた。
一方、生徒会室。
「会長。」
ノアが一通の封書を机へ置く。
赤い封蝋には、王家の紋章が刻まれていた。
「王宮からです。」
ルークは封を切る。
静かに読み進めると、その表情が少しだけ引き締まった。
「どうしました?」
レオンハルトが尋ねる。
ルークは封書を閉じる。
「……王命だ。」
その一言で、生徒会室の空気が変わる。
「魔族の活動が各地で活発になっているらしい。」
「王立魔法学院にも警戒を強めるよう命令が出た。」
ノアが眉をひそめる。
「やはり、エルミナの森の件が……。」
「その可能性が高いね。」
ルークは窓の外を見る。
校庭では、新入生たちが楽しそうに魔法の訓練をしている。
その中には、銀髪を揺らしながら笑うルミアーナ嬢の姿もあった。
(ゼファーが言っていたことが気になる。)
(『また会おう』……か。)
ルークは小さく息をついた。
「何も起きなければいいんだけどね。」
その日の放課後。
「ルミアーナ嬢。」
教室を出ようとしたツララへ、一人の男子生徒が近付いてきた。
ノアだった。
「会長がお呼びです。」
「私ですか?」
「はい。」
「お時間をいただけますか。」
「もちろんです。」
ねねも静かに立ち上がる。
「お嬢様、お供いたします。」
「ありがとう、ねね。」
生徒会室。
「失礼します。」
ツララが扉を開ける。
「来てくれてありがとう、ルミアーナ嬢。」
ルークはいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「今日は一つ、お願いがあるんだ。」
「お願い……ですか?」
「王都の見回りに同行してほしい。」
「見回り?」
「最近、小さな魔物の目撃情報が増えていてね。」
「学院生も実践経験を積む必要がある。」
「もちろん危険な場所には行かない。」
「どうだい?」
ツララは少し考えたあと、真っ直ぐルークを見る。
「私にできることがあるなら、お手伝いしたいです。」
ルークは優しく微笑んだ。
「ありがとう。」
「ルミアーナ嬢なら、そう言ってくれると思っていたよ。」
ツララは少し照れたように笑う。
「期待に応えられるよう、頑張ります。」
そのやり取りを、少し離れた場所で見ていたレオンハルトが小さく笑う。
「会長。」
「最近、ルミアーナ嬢を呼び出すことが増えたな。」
ルークはきょとんとした表情を浮かべる。
「そうだったかい?」
「自覚ないのか……。」
レオンハルトは呆れたように肩をすくめる。
ノアは静かに眼鏡を押し上げた。
(会長はまだ気付いていないようですね。)
(ですが……。)
(その日は、そう遠くないでしょう。)
同じ頃。
王都の地下深く。
誰も立ち入ることのない古い地下神殿。
黒い霧が渦を巻き、一人、また一人と魔族が姿を現す。
玉座の前に集まるのは――
魔族十二将。
その中心で、魔王ゼノスが静かに口を開いた。
「始めよう。」
「人間たちが気付く前に。」
「第二の封印を探せ。」
十二将たちは静かに頭を下げる。
その中でゼファーだけが、小さく笑った。
「……ルミアーナ嬢。」
「君は、この世界をどう変えてくれるのかな。」
その赤い瞳は、不気味な期待に満ちていた。
第二巻 第一章 終
✨次の第二章では、ルーク・ルミアーナ嬢・ねね・生徒会メンバーで王都の見回り任務へ向かう
そこで初めて、魔族が裏で人間を操っている事件の兆候が見つかり…?
#探偵
橘靖竜
5,596
上野文
7,043
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,272
フレミング
611
コメント
1件
「王命」というタイトルからして、物語が大きく動き出す予感がしますね。エルミナの森の実習を経て静かな日常が戻ったかと思えば、すぐに魔族の影——ゼファーの「また会おう」がここで効いてくるのが憎い伏線です。ルークがルミアーナ嬢を見回りに誘う場面、レオンハルトとノアの小さな観察がまた心に残ります。会長の無自覚な距離感、いいですね。魔族十二将の登場で後半の空気が一気に引き締まり、次章への期待が高まりました。この世界観、やっぱり好きです。