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苦しさを逃がすだけの息が、甘いものに変わったのはいつだろう。
レイに身を委ねているうちに、感じたことのない感覚が、波のように行ったり来たりし始めた。
いつの間にか痛みが萎え、頭の中がからっぽになっていく。
そんな私の変化にレイもきっと気付いていて、私も彼がだんだん切羽詰っていくのがわかった。
ゆらゆらする感覚がどんどん強くなり、心ごとどこかに攫われそうになる。
私は怖くてレイにしがみついた。
「澪」
レイは私を抱きしめて、耳元で聞いたことのない切ない息を零した。
体の内側が震える。
それがなにを意味していたのか、わかったのは数秒の空白のあとだった。
終わったとはいえ、動悸は治まらないし、荒い息も止まらない。
焦点が合わず視界がぼやける私を、レイの瞳が覗いた。
ぼやけていても、レイの表情はわかる。
弱々しく笑うと、レイは私の頬を包んで、触れるだけのキスをした。
優しく抱きしめられ、まどろんでいるうちに瞼が下りてくる。
いつしか意識が途絶え、次に目が覚めた時は、光が部屋中に溢れていた。
(あれ、私……)
視界がはっきりせず、ぼうっとする頭に鳥のさえずりが響く。
それが止むと、真後ろから寝息が聞こえた。
ここは自分のベッドじゃなく、うしろにいるのはレイだと認識した瞬間、はっと我に返った。
タオルケットをかぶっているとはいえ、レイの腕の中の私はなにも身に着けていない。
慌てて視線を移すと、畳の上に衣服が散乱していた。
レイはいつの間にか服を着ているのに、私だけ裸なんて恥ずかしすぎる。
起こさないように抜け出した私は、急いで下着と服を身に着けた。
はぁと小さな息を零した時、麦茶の入ったグラスが視界に入った。
昨晩はなかったのに、いつ持ってきたんだろう。
喉がカラカラだった私は、それを一口飲んだ。
このまま部屋を出ていこうか。
だけど黙って出ていくのも気が引けるし、なによりもう少しここにいたいと、私は布団の傍に座った。
レイの髪に触れ、そっと梳いた時、彼の瞼が開いた。
「おはよう、澪」
「おっ……おはよう、レイ」
まさか起きるなんて思わず、慌てて手を引っ込める。
「今何時?」
「えっと……7時過ぎだよ」
「なら、まだ時間は大丈夫かな。おいで」
レイは引っ込めた私の手を掴み、布団の中に引き込んだ。
向かい合う形で抱きしめられ、急にドキドキしてくる。
部屋は朝の空気に満ちていて、そんな中で温もりに包まれていると、このまま目を閉じたい衝動にかられた。
「体は平気?」
ふいに聞かれ、私は「え?」と間の抜けた声をだした。
だけどすぐなんの問いかわかり、顔が一気に火照る。
「へ、平気だよ」
「そう、ならよかった。
挙動不審だと、すぐけい子に勘ぐられそうだしね」
恥ずかしくて、顔を見られないようにレイの胸にくっつける。
そんな私の髪を、レイは笑って梳いた。
(ほ、ほんとだ。どうしよう)
体が重たいのはまだ隠せるけど、けい子さんと目を合わせる自信はない。
「今日は心が無になるまで、図書館にでも逃げてるよ……」
「ふーん。
ならせっかくだし、俺もついていこうかな」
「えっ! 待って、それは……」
ばっと顔をあげると、意地悪な視線とぶつかった。
「なに、嫌?」
「嫌、じゃないけど、けど、でも……!」
そりゃ一緒にいたいけど、そんなことをしたら、いつまで経っても無になれそうにない。
レイは意地悪な目のまま、私の額に額を当てた。
「冗談だよ。
さて、そろそろ起きようか。
シーツを交換してもらわなきゃいけないし」
さらっと言われたけど、間近にある瞳は笑っていて、一段と体が熱くなった。
「もう、レイ!
そうだよ、もう起きなきゃ……!シャワーも浴びたいし」
「あぁ、ならこのまま一緒に入ろうか」
「はっ、えっ?
な、なに言ってるの……!」
堪らず体をレイの体を押すと、彼は声をたてて笑った。
「嘘だよ。
本当、澪は見てて飽きない」
そう言って瞼にキスをされ、私は心臓が飛び出しそうだった。
部屋の中に柔らかい風が入ってくる。
レイと過ごした初めての朝は、光に満ちた優しい朝だった。