テラーノベル
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――「ねぇ、ふみやくんも一緒に写真撮ろ?」
そう笑って話しかけてくれる君の隣には、いつも、兄がいた。
「…うん、いいよ」
カメラ越しに笑う君の表情が、眩しすぎて。
最近、写真撮るとき、目がまっすぐ見れないんだ。
だって俺――君のこと、見すぎちゃうから。
最初はただ、兄の彼女として接してた。
でもね、いつからだろう、君の話し方とか、笑い方とか、些細な仕草とか、
全部、俺の中に入り込んできて。
「…はやちんと、うまくいってる?」
何気ないふりして聞いたその言葉に、自分でも驚いた。
「うん、優しいし、すごく大事にしてくれる」
そう答える君を見て、俺はふっと笑った。
ううん、本当はちょっとだけ泣きそうだった。
(“だよね、俺の兄ちゃんだし”)
こんな気持ち、持っちゃいけないってわかってる。
兄が大事にしてる君を、好きになっちゃいけない。
でも、心ってさ――そんな簡単に抑えられないんだよ。
MV撮影のとき、ステージの上から君が手を振ってくれた。
それだけで、今日1日幸せになれるくらい嬉しかった。
「ふみやくん、かっこよかったよ」
そう言ってくれたその声が、優しすぎて、胸が詰まった。
(こんな好きなのに、言えない)
(こんな近くにいるのに、届かない)
「俺、もっと頑張るよ」
何に対しての“頑張る”か、君は知らない。
知ってほしくもない。
だって、これが“恋”だって気づかれたら――君、困っちゃうから。
ただの“はやちんの弟”として、君の前にいる。
ずっと、それでいい。
それしか、できない。
…本当にそれでいいのかな。
⸻
人を好きになるって、
こんなに、どうしようもなく苦しくて、
こんなに、見返りを求めちゃいけないものなんだね。
ふみやは〇〇の笑顔を見るたびに、胸が痛くなる。
それは、自分じゃない誰か――“はやちん”に向けられてるものだから。
なのに、君がふとこっちを見て、
「ふみやくんって、ほんと優しいよね」
なんて微笑むから、余計にしんどい。
「やば、…俺、また好きになってる」
言葉には出さない。出せるわけない。
言ったところで何にもならないし、
むしろこの関係を壊してしまうかもしれないから。
…でも、どうしても視線が追いかけてしまう。
どんな瞬間も、誰よりも君を目で追って、
“好き”の気持ちを心の奥に押し込めてる。
ふみやは、〇〇に会ったあの日からずっと、
「こんな好きなのに」って心で繰り返してる。
だけど。
彼女の隣にいるのは、自分じゃない。
「俺じゃ、ダメだよなぁ…」
夜、ベッドの上。ひとりで呟くその声は、
誰に届くこともなく、ただ部屋の暗がりに溶けていった。
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