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黒のステーションワゴンは、恵菜と純の存在に気付いていないのか、二人のすぐ横を、エンジン音を轟かせながら、スピードを緩めずに走り抜けようとしている。
「危ない!」
「キャッ……!」
二人のすぐそばを車が走り去る瞬間。
恵菜の肩が、純の腕に素早く抱き寄せられ、すぐ側のブロック塀に沿うように、彼が退避させた。
「ったく……。こんな暗くて狭い道を、あんなスピードで走りやがって……。危ねぇっつうの! 相沢さん…………大丈夫?」
「はっ…………はいっ……大丈夫……で……す……」
彼に見下ろされ、尻窄みに返事をする恵菜。
気付くと、純に肩を抱かれたまま、塀に無骨な手を突かれ、まるで壁ドンされているような状態。
恵菜の瞳に映し出されているのは、服の上からでも分かる、男性らしい胸筋。
彼の胸板に頬が触れ、彼女は羞恥に包まれながら、顔を俯かせた。
純に抱きしめられているような状況に、恵菜の心は、芯から砕けそうにドギマギしている。
「あっ……ああ……ご…………ゴメン……」
ようやく気付いた純が、ハッとして、慌てて腕を解いた。
あとちょっとで、恵菜の自宅に到着してしまう。
(もう家に着いちゃうよ……)
彼女は、純に気付かれないように、そっとため息をついた。
「…………この角を曲がれば、うちなので、ここで大丈夫です」
「俺としては、やっぱり心配だから、相沢さんが家の中に入るところまで、ちゃんと見届けたい。ダメ…………かな……?」
(そこまで考えてくれているんだ……)
恵菜は、純の気遣いに、泣きなくなってしまう。
「ダメじゃ…………ない……です……」
「じゃあ、家の前まで、送らせてもらうよ」
「…………ありがとう……ございます」
恵菜が先にゆっくりと歩みを進めていき、純も彼女の後についていく。
角を曲がり、恵菜の実家が見えた矢先。
「…………え?」
「どうしたの?」
彼女の足がピタリと止まり、純に顔を覗き込まれているのも気付かず、恵菜は怪訝な表情を見せながら、一点を凝視していた。