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恵菜の眼差しの先には、自宅の前に、先ほど二人のそばを疾走した、黒のステーションワゴン。
ハザードランプを点滅させて、運転席から長身の男が出てきた。
上着のポケットに両手を突っ込み、男は何もせずに、恵菜の家を注視しているように見える。
仄かに浮かび上がるシルエットを確認した瞬間、恵菜の表情がみるみる変化していき、恐怖の色に染まっていた。
「…………早瀬……勇人……」
「早瀬勇人って…………ファクトリーパーク近くの公園で、言い争いしていた……元ダンナ?」
恵菜の呟きに、純が眉根に皺を寄せる。
「…………はい。どうしよう……家に入れない……」
顔面蒼白の恵菜に、純はハアッと短く息を吐き切った。
「何だか、元ダンナのやってる事…………ストーカーだな……」
純はスマートフォンを取り出し、録画ボタンをタップすると、ズームさせて車のナンバー、車種を撮影。
そのままズームアウトさせて、恵菜の自宅を見上げている勇人の様子を撮影している。
「相沢さん。俺が動画を撮っているうちに、家族に連絡した方がいい。そうだな。お父さんが家にいるんだったら、メールなどで元夫が家の前にいる事を知らせた方がいいな」
「はい……。そう………します」
「それから、アイツが車で、この周辺をウロウロする可能性も、なきにしもあらず、だ。アイツが帰った頃を見計らって、俺がまた相沢さんを自宅まで送るから」
純の提案に、恵菜の視界が少しずつ滲んでいく。
「すっ…………すみません……。私……谷岡さんに…………迷惑掛けてばっかりで……」
「迷惑だなんて、全く思ってない。まずは、お父さんにメッセージを送ろうか」
「は……はい…………」
恵菜は、微かに震えている指先で、スマートフォンを操作し始めた。