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「叔父さん、紹介して下さいます?」
鼻を摘んだままで鼻声のラマスに促されたレイブが、土間に座り込んで右足の指先を嗅ぎながら紹介する。
「ああ、セスカの孫弟子だってさ、名前はラマス! 俺と同郷のシパイ、ハタンガのゴライアスの子供、彼の弟子だったんだってさ、今日からここに住むことになったんだよ…… 足の先、少し臭いかな? なあ、ギレスラ、臭い? どーうぅ?」
『ああ、少し臭いかもな……』
「ええ! どうしよう! 沢に行って洗ってこなくっちゃぁっ! い、急げぇっ!」
鼻を摘んだままでレイブの腕を取ったラマスが冷静な声で言う、鼻声だが。
「待ってください叔父様、叔父様の臭、さ、は、まあそれなりだとは思っていましたけれどぉ…… うん、何とか辛抱出来ると思うのでご安心くださいませ! それよりも、臭いけど美味しいご飯、ですか? それって竜や獣奴(じゅうど)も頂く事はできるのでしょうか? もしそうでしたら、シパイ師匠から受け継いだアタシのスリーマンセル、白竜のカタボラとトナカイの獣奴、エバンガも連れて来てからご相伴(しょうばん)に預かりたいのですけれどぉ? それで良いですかねぇ?」
レイブは左足の臭いを確認しながら答える。
「あ? ああ、そうだね君のスリーマンセルも連れておいでよ! 俺の仲間、竜のギレスラも獣奴のペトラも大好きなメニューなんだよぉ! 今日の夕ご飯当番はペトラなんだけどね、いつも数日分は余計に捕ってくるから皆で食べても足りると思う、だから心配しないで良いよ♪ 絶対に美味しいからね、楽しみにしておいでよラマス♪」
「判りました、では、カタボラとエバンガを呼んできますね! ご飯楽しみでっすぅ!」
そう言って足早に去っていくラマスの背中を見ながら、取り敢えず土間の土を擦り付けて足の指先を擦り捲るレイブが見送るのであった。
暫(しばら)くすると、帰ってきたラマスと後ろを歩く小ぶりで純白な竜種、一転大きなトナカイのスリーマンセルを、小屋の前で向かえる明るい声が響いたのである。
『おお、アナタ達がラマスとカタボラ、それにエバンガね! うーん、エバンガは小屋の中に入れるのはちょっと難しいわねぇ~、どう? エバンガ、アナタ表でも寝る事が出来るのかしら?』
他種の鹿の雌には無い、大きく特徴的で立派な角を揺らしながらエバンガがカタボラと同じ位の大きさの猪に答える。
『え、ええ、いつも外で寝ているので大丈夫ですわ、えっと、アナタは?』
『良かったわ! アタシはペトラ、元魔術師のレイブと小屋の中で寝てるギレスラの相方でスリーマンセルの|豚猪《とんちょ》、獣奴八歳よ、これからよろしくね♪』
『あ、はいよろしく、です…… ふ、フルダークネス、なのですね……』
『ん? ああ、体ね、アタシ色黒なのよー』
そう答えた漆黒の猪は、自分を見上げているオレンジ髪の少女に視線を移して笑顔を浮かべて言う。
『ラマスとカタボラは小屋の中に入ってなさいよ、レイブとギレスラが待ってるから! エバンガはそこらで休んでいなさいな♪ すぐご飯にするからさ!』
猪型の野獣や獣奴には珍しく、即頭部から前方に向けて大きくせり出した巻角に面食らいながらも、ラマスは彼女、ペトラの事を、美しい、そう感じていた。
今後ラマスの人生に於(お)いて、目指し続ける事になる女性らしさ、美しさの基準がこの瞬間に定まったのである。