TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する


「上野様に、逢い引きと、徳子《なりこ》様が仰ったのは、初めて嗅ぐ、男物の香《こう》を、捕まえられたから……」


「……晴康《はるやす》、どういうことだ?それで、母上が、なぜ、あのような……」


徳子は、依然、遠くを望んでいる。


「……琵琶法師は、おそらく、唐下《からさ》がりの、香、を扱っていたのではないでしょうか」


「唐下《からさ》がりの!!!」


守満《もりみつ》、常春《つねはる》は、揃って息を飲む。


──唐下がりの香、と、密かに呼ばれ、都では、あるものが、蔓延していた。


始まりは、万病に効くとの触れ込みだった。


唐から特別に仕入れた、香を焚き、その煙りを吸い込むと、ありとあらゆる病が治る──。


その様な、迷い事を、皆が信じ、その、香、は、都の隅々まで広まった。


むろん、病が治る、のではない。


治った気持ちになるだけで、香、の、効き目が切れると、すぐさま、皆、新たな香を求めはじめる……。


効き目があると、信じきる民《たみ》達は、こぞって求め、その噂は、広がる一方だった。


そうして、群がる人々から、怪しげな輩が暴利を貪った。


「きっと、琵琶法師は、その一味。扱っているために、香りが、染み付いてしまったか、はたまた、自身も、適度に嗜んでいるか。どちらにしても、何らか、関係しているのは、間違いないでしょう」


「そういえば、晴康、お師匠様、いや、あの者に、会うたび、私は、どこか、気分が、高揚してね。奏でる琵琶の音の美しさからだと、思いこんでいたのだが……」


悔しげに、守満が言った。


「守満様、その気分が高揚するというのは、香の、せいとは言えないかも知れませんよ。抱き合うように、転がった、上野様は、なんともなかったのですから。ただ、上野様は、なぜか、術も、効きにくい。香りにも、鈍感なのかもしれませんが……」


「え?!ちょっと、抱き合うって!!」


上野が、すかさず、晴康に噛みついた。


逢い引きしていた、そして、男と抱き合った、ついでに、香りに鈍感と、有らぬ事ばかり言われては、いくら、徳子の大事と言えども、さすがに、腹に据えかねるものがある。


「きやっ!やめて!抱き合っただなんて、玉里《たまさと》!私、恥ずかしい!」


徳子が、叫んだ。それも、淑女ぜんとではなく、まるで、守恵子の様に、初々しい声を出して。


「玉里?」


晴康が、首を傾げる。


「……もしかして、徳子様がお輿入れする前の、あちらの御屋敷の女房では?確か、その様な名のお方が、ご挨拶に、来られた記憶があるのですけど……」


上野は、兄を見る。


「確か、そうだ。お方様付きの女房だった方で……お里の御屋敷から身を引かれると、ご挨拶に来られたはず」


「ですよね?兄様」


「晴康!母上は、どうなされたんだ!」


動揺しきる守満に、守恵子が言った。


「兄上、母上に、事情をお聞きしてみましょう。私どもでは、昔の事は、わかりませんもの」


「守恵子、事情をお聞きすると、言っても!」


守満の視線の先には、北の方としての徳子ではなく、乙女の様な仕草で、顔を隠す、姫君がいた。


「なる程、やはり、姫君のことは、姫君にしか、わからない……と、言うことですか。守満様?守恵子様の言うように、ご本人から、お聞き致しましょう」


言って、晴康は、徳子の側へ寄り添った。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚