💛side
「岩本くん、もっとちゃんと見せて」
やさしく落ち着いた声で子供を諭すように男はそう言った。状況が違えば言われるがままに従っただろうけど、今はその言葉を受け入れることが出来ずにいる。せめて酒にでも思考が呑まれていれば場に流されて頷けたかもしれないけれど、生憎今は完全に素面だ。
男の真っ直ぐな視線が俺を穿つように差し込んでくる。見ないでほしいのに、こんなことおかしいのに、身体は熱を持ったまま抵抗することもなく状況を甘受して、俺は欲に塗れた手をひたすらに動かしていた。
岩「んっ、ぁぅ゛っく、ぁっ、ふ、んぁっ、っは、ぅ゛」
目「声、抑えないで」
岩「っふ、ん、ぃっ、っ、め、っぐろ」
目「まだ駄目ですよ、……ほら頑張って」
なんで俺は目の前に恋人がいる状況で、ひとりで自慰をしているのか。 熱に侵された夢のような現実味のない現状に目眩がする。
見られていることへの羞恥を、それによる危険な快楽がないまぜになって、欲はじりじりと高まっていく。
男に飼いならされてしまった俺の身体は前の刺激だけじゃどうにも物足りなくて、不完全な快楽が脳裏を占めるだけだった。蝋燭の火がゆらゆらと消えかけては灯るような快感に襲われる。
きゅうきゅうと疼いて男を求める後孔は空っぽで、指を入れたくとも男はそれを許可してくれない。
俺に触れることなくただただ眺めているだけの男に目をやると、どこか愉しそうな表情を浮かべて微笑んでいた。
はやく、はやく来いよ。こんな身体になったのも、全部お前のせいなのに。
岩「ん、っんぁ、っは、ぅ゛ぁ、っふ、っま、だ、?」
目「かわいい……イっていいですよ」
岩「く、っぁ、んぅ゛、まえ、だけじゃっ、いけ、っない」
目「ははっ、岩本くんそんなえろい身体なのにあんなこと言ってたんですか?」
男の目の奥に燻った黒い熱を、身体の奥が必死になって求めているのを肌で感じた。
はやく滅茶苦茶にして、何も分からなくなるくらいに突き落としてほしい。
求めすぎたせいで、男に触れられただけで果ててしまいそうなほど俺の身体は我慢の限界に達している。濡れた唇から吐き出る吐息が熱い。ここだけじゃイけないと分かっているのに、手が止まらない。
ぐらぐらと涙によって歪んだ視界が男の姿を再び捉えた途端、理性の糸が完全に切れてしまった。
もう何を言われようと、どう思われようと、どうだっていい。はやく、俺の深くまで、目黒が欲しい。
岩「んっ、ぁっ、っは、め、ぐぅ、っろ」
目「なんですか岩本くん」
岩「イきたっ、い、ぁ、っふ、んぁ、っうぁ゛」
目「で、どうしてほしいんですか。ちゃんと言ってくれないと分かりません」
岩「ふっ、っはぅ゛っん、め、ぅろの、ほしっ、ぃ、はっ」
目「そんな素直なの珍しいですね、かわいいです」
そういって男はこちらへ手を伸ばし、びくびくと震える腹筋を指先で撫で上げた。異なる体温が触れたことに反応した身体が痙攣する。焦らすように肌をさする指先が胸元にきて、俺はその先に期待して唾を飲み込んだ。
核心を避けるように指先で円を描く男に耐えかねた身体が、勝手に快楽を求めて動いてしまう。それに気付いた男はさっとその手を引いて、困ったように微笑んだ。
目「駄目じゃないですか、勝手に動いて」
岩「ごめ、なさっ、」
目「今日どうしてそんなかわいいんですか」
岩「わかんなっ、ぃ、っねぇ、はや、くっ」
目「まぁ、俺もそろそろ限界なんで、いいですよ」
そう言って俺をやさしく押し倒した瞬間に、噛み付くような勢いのキスが降り掛かってきた。突然やってきた新たな刺激に甘ったるく腰が揺れる。舌先で器用に口内を犯されながら、先程焦らしに焦らした胸を指先で遊ばれて、口を塞がれたままに喘いだ。
やばい、これ、トびそう。
何度も角度を変えて貪り尽くした末に離れた唇の端から互いのものが混ざった唾液が伝っていった。
荒々しく乱れた呼吸を鎮めるように繰り返していると、胸の肥大しきったそこを口に含まれて一瞬息が止まった。
岩「あ゛っ、ま゛っ、ってぇ゛、あっ、ん゛ぁっ、う゛ぁ」
目「ここ、敏感ですよね。鍛えてるからかな」
岩「め、ぅろ゛っ、やら゛っ、ま、っで、いっちゃ゛、っあ゛」
目「前だけじゃいけないのに胸だったらイけるんですか。ほんと、もう戻れませんね」
岩「い゛く、っんあ、いっ、ぢゃっ゛あ゛あ゛〜〜っっ゛」
白濁を撒いて果てたと同時に、強烈な快楽が襲いかかった。生半可な刺激で溜まっていたであろう精子が、俺の腹の上に淫猥な水溜りを作った。
普段なら途端に冷めていくはずの思考が、なぜか今日はぼんやりとしたまま熱を燻らせている。
え、なんで。今イった、よね?
汗と涙で濡れた顔のまま男を見つめると、満足げな表情をして自身のソレに膜を被せているところだった。 身体は火照り、興奮が高まっていく。
どろどろに蕩けた思考のまま弱々しい声で男の名前を呼ぶと、やさしい手つきで頭を撫でられた。
不健全な行為には不釣り合いな表情で、体温を確かめるようにキスをする。
目「まだ早い? もう少し後のがいいですか?」
岩「はやく。きて」
男の姿に手を伸ばすように状態を軽く起こして俺からキスをすると、優しげに揺れていた男の瞳に影がかかった。
そうだよ目黒。もっと俺のことだけ見てて、俺を求めて、全部奪って、喰い尽くして。
🖤side
岩「う゛うぁ゛っ、っは、や゛あっ、っぐ、あっあっ、ん゛う゛〜〜っ゛」
目「っは、まだ堕ちないでっ」
岩「あ゛っ、やら゛っや゛ら、とま゛っで、ぇあっう゛っん、んう゛」
今日は少しいじめてしまったから優しくしようと思っていたのに、彼に煽られてしまい、結局本能のままに腰を打ち付けている。マットレスが悲鳴をあげている音でさえ興奮材料となって寝室に溶け込んでいる今、俺の下で泣きながら悦がっているのは、他の誰のものでもない俺の恋人。
俺の身長が高いが故に、実際彼のほうが小さいけどそんなに差はなく、世間的には高身長に部類されるであろう人だ。
それにメンバーの中でも一番身体を鍛えているから、冗談でも小さくは見えない。綺麗に割れた腹筋を優しく撫でると、それに反応した彼の身体が過剰なほどに震えた。
一見取っ付き辛そうに見えるのに、実際は甘党で寂しがり屋で、嫉妬深くて独占欲が強くて。
名前を呼ぶと心地よさそうな顔するし、キスで蕩けちゃうし、気持ちいいとすぐ泣いちゃうし、自覚があるかはわからないけどMっ気があって、ほんとギャップの塊でしかない。
あー、マジでかわいい。
今の髪型わんちゃんみたいで余計に可愛いんだよな。言ったら軽く怒られそうだけど。
キスをしながら掴んだ腰を引き寄せて奥を穿つと、メスイキばがり繰り返してた彼のソレから透明な液体が流れ出てきた。
綺麗な彼が俺の手によって汚れていく様を見て、何とも言い難い感情が胸の奥にふつふつと沸き立った。
岩「あ゛〜〜っっ゛、っだぁ、っくぅ、っあっあ、ん、ふぅ゛ん、っは」
目「あぁ、潮吹いちゃいました?」
岩「むり゛っ、もう゛むい゛、あっぁっ゛い゛っく゛、っあ、っはぅ゛う゛〜〜っ゛」
目「何回イくんですか笑。……こんな女の子みたいなのにあんなこと言って。ねぇ、ほら、ちゃんと謝って」
数時間前に拗ねながら言われた冗談のような一言に、未だ怒りのような真っ黒な感情を抱えている。
感情に乗せられて次第に腰の動きが速まり、互いの呼吸は更に乱れていった。
岩「んあ゛っぐ、ぁっ゛、ごめ゛、なさ゛っい、んっ、んっぁ゛」
目「何がいけなかったか、分かってます?」
岩「っあ、お、れが、んっ、おんなのこ、だくっ、てぇ、いっ゛たから、ぁっ」
目「そう、正解」
俺の恋人は超がつくほど嫉妬深い男で、ドラマや映画での演出上のそういう行為は受け入れてくれているものの、作品に関係のないところで長い時間話をしていたりするとすぐに拗ねてしまう。 とはいえ、他人に迷惑をかけることは絶対にしない人だから、そんなところも可愛くて仕方がなく感じる。
今日は映画の打ち上げがあって、そこには女性キャストも沢山いた。何かが起こる心配しているというより、独占欲が漏れ出てるような態度ではあったが、彼はちゃんと俺を送り出してくれた。
事の発端はその後のこと。俺が『そろそろ解散する』と連絡した数十分後に彼は車で迎えに来てくれていた。
彼に盛大な勘違いをされる前に撤収しようとしていた俺のもとにやってきたのは、共演した歳の近い女優さんで、酔っていたからなのか、それ以外の理由があってかは分からないものの、突然抱きつかれたのだ。
そして、ちょうど車を駐めて俺を迎えに来ていた彼は、ばっちりその場面を見ていた。
変装のためにかけたであろう眼鏡のレンズ越しに僅かに見える彼の瞳がだんだんと暗くなっていく様を見て、もう手遅れだと思考は勘付いた。
一旦落ちると中々機嫌を戻してくれないのだ。こういうジャンルの事となると特に。
以前にもスキンシップが多めな俳優さんと一緒にいたときに似たような事があり、そのときは一週間ほど独占欲が剥き出しで、毛が逆だった猫のような状態だった。
そのときの感情が運転に現れるわけではないものの、車内に漂う沈黙は重苦しかった。
助手席からそっと隣に目をやると、今にも泣き出しそうなほどの不安定な表情のまま、前の車のブレーキランプに照らされている恋人がいた。
そんな顔させて、ごめんね。本当にごめん、でも、かわいくて仕方がない。
同棲しているわけではないからどちらかの家で一緒に過ごすことが多く、今日は彼の家に朝からお邪魔していて、到着したのも彼の家だった。
素早く車を降りた彼を横目にシートベルトを外していると、突然助手席のドアが開いて、呆気にとられているうちに手首を強く握りしめられた。
そのまま部屋へと足を進める彼に連れられていき、玄関へ足を踏み入れたとほぼ同時、気がついた頃には壁に押し付けられていた。両手首は彼の片手で上に纏められていて、両足の間に膝を入れ込まれているせいで身動きが取れない。最初から抵抗する気なんてないけど。
俺を責めるような彼の瞳がぐらぐらと揺れて見えた。体制的には優位なはずなのに、彼は表情の奥で捨てられた子犬のような顔をしている。
手首に込められた力が強すぎて痛みだしてしまい、痣のようになると面倒だと思い、俺は彼の名前を呼んだ。
目「岩本くん、手、痛い」
岩「……なんで」
目「俺はあの人のこと、なんとも思ってないです」
岩「じゃあ、なんで抱きしめてたの」
目「抱きしめては、なかったけど……あの人、結構酔ってたんですよ」
岩「そんなのどうでもいいだろ」
彼の声色が次第に低くなっていっても、恐怖なんて微塵も感じることが出来なかった。昔はあんなに怖かったのにね。
俺のことが好きすぎて、ちょっと距離が近かっただけなのに怒っちゃって、自分で苦しくなって。あー、可愛いすぎんだろ。
岩「まぁ、目黒は女の人にも男にもモテるし、別に俺じゃなくたっていいもんね」
目「……岩本くん?」
岩「目黒がその気なら、俺も女の子抱くわ」
彼がそう言ったと同時に俺の身体は自由になった。腹の奥底で渦巻いた感情が熱くて仕方がない。
自棄になって本当にそうするつもりなのか、今にも彼は家を出ようとしていた。
は?え、何言ってんの?岩本くんは俺のものでしょ??俺で苦しんで、悦んで、泣くんでしょ???どこ行こうとしてんだよ、ふざけんなよ。
玄関が開きかけた瞬間に彼の手を無理やり掴み、強引にキスをした。
口内を遠慮の欠片もなしに貪ると、彼の甘ったるい吐息が溢れてくる。
ほら、キスだけでそんなんじゃないですか。
再び閉まった扉を施錠して、乱雑に靴を脱いで寝室へと彼を連れて行く。黙りこくった恋人が何を考えているのか、今の俺にはいまいち分からなかった。
言葉で説明するよりも身体で思い出させたほうが早いと思い、俺は彼をマットレスに座らせて「脱いで」と命令した。
そして、今ここでするように命じると彼は抵抗の色を仄かに香らせながらも、自身のソコへと手を伸ばした。
一人で懸命に欲を吐き出そうとする様は酷く扇情的で、先程あんな言葉を吐いていたはずなのに「前だけではイけない」なんていうものだから、俺は表情を崩さないように懸命にこらえた。
やっぱり。女性どころかそんなんじゃ男も抱けませんよ。俺だけに愛されて、俺だけに抱かれてれば良いんです。
何度も叩きつけるように揺らしていた腰に、ふと彼の足が纏わりついてきて思い耽っていた意識は現実へと戻っていった。
一体どれだけの時間ぼんやりしていたのか。こんなに可愛い恋人が目の前にいるというのに。もったいないことをした。
岩「ごめっ、あ、っさ、っだあっ、あっぐ、い、っく゛、っあ、っあ」
目「岩本くんは俺のものだって、ちゃんと分かったならいいですよ」
岩「あっ、っは、ん、おれ、めぅろっ、の、ものっ゛??」
目「そう。ちゃんと理解できて、えらいです」
よかった。分かってくれたみたいだ。
黒くふわふわとした彼の頭を頭を撫でてあげると、柔らかな甘ったるい声を上げて彼は悦んだ。
「わんちゃんみたい」という言葉を吐いてしまわないように抑え込んで、俺が与えた快感を忘れてしまわないように優しく中を刺激した。
彼にはリードも首輪も付けられないから、度々こうして教え込まないといけないかもしれない。
まぁ、噛みつかれたときに躾けるのは一緒だけど。
「俺はずっと、岩本くんしか見てませんよ」
コメント
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うはぁ。優しいのに意地悪な🖤と、自分で自分の首を締めてる💛って印象です。ゆっくり、進んで戻って噛み締めて読みました。