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ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
コメント
1件
わあ、特別編だったんだ!コン吉との出会い、こんなに感動的だったんだね…😢💕 ヒグマの恐怖で記憶が飛んでたって言う主人公、わかる気がする(笑) シロが鼻先ツンって合わせて浄化するシーン、神々しくて鳥肌立ったよ…✨ 「静電気です」って現実逃避する主人公と、キレッキレにツッコむ小春ちゃんの掛け合いも大好き。 今ではすっかり丸くなったコン吉、幸せそうでこっちまでほっこりした🦊🤍
第30.5話(特別編):ヒグマの影に隠れていたアイツ。コン吉との本当の出会い
秋の気配が深まり、吐く息が白くなり始めた限界集落の昼下がり。
古民家の縁側は、今日も『適温25度の絶対防壁』を放つ神獣シロのおかげで、春の陽だまりのようなポカポカ空間となっていた。
俺と小春ちゃんは半袖姿でほうじ茶を啜り、目の前の圧倒的にもふもふな光景を眺めていた。
俺の膝の上では、純白のシロがゴロゴロと幸せそうなモーター音を鳴らしている。
そしてその隣には、黄金色のフサフサな毛並みを持つキタキツネのコン吉が、シロの放つマイナスイオンを全身で浴びながら完全に液状化して眠っていた。
「……そういえば、小春ちゃん」
「はい、なんでしょう、お兄さん」
みかんを剥きながら、俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「最近、当たり前のようにこいつ(コン吉)が居座ってるから麻痺してたけど。そもそも最初のキツネ……コン吉って、いつからうちに居着いたんだっけ?」
俺の問いに、小春ちゃんは呆れたように目を丸くした。
「何を言ってるんですか、お兄さん。すっかり記憶から抜け落ちちゃってるんですか?」
「いや、だって毎日毎日、世界中からMeTubeギフトは飛んでくるわ、オーロラは出るわで、情報量が多すぎてな……」
「コン吉くんと出会ったのは、あの『ヒグマが土下座した日』ですよ!」
小春ちゃんの言葉に、俺の脳裏に雷が落ちた。
そうだ。思い出した。
あまりにもシロの放った『覇王色の覇気(神聖な威圧感)』のインパクトが強すぎて、すっかり脳の防衛本能が記憶を改ざんしていたのだ。
あれは、俺たちがまだこの古民家に引っ越してきて間もない頃。
新緑の裏山で、体重300キロを超える巨大ヒグマに遭遇し、シロが一睨みでその山の主を平伏(土下座)させた、あの伝説の配信直後のことだった――。
「よ、よがっだぁぁ……死ぬかど思いまじだぁぁ……!」
「俺もだよ……。心臓が口から飛び出るかと思った」
ヒグマが涙目で森の奥へと逃げ去っていき、俺と小春ちゃんが腰を抜かしてへたり込んでいた時のこと。
足元に転がったスマートフォンは、ヒグマ襲来の衝撃で通信が途絶え、配信アプリがエラー落ちしてしまっていた。
俺は震える手でシロを抱き上げ、無事を噛み締めていた。
だが、その時。
ガサッ……ガサガサッ……。
「……ひっ!?」
小春ちゃんが短く悲鳴を上げた。
ヒグマが土下座していた笹藪の奥から、再び何かが葉を揺らす音が聞こえたのだ。
まさか、ヒグマが仲間を連れて戻ってきたのか!?
俺が再び血の気を引かせ、シロを庇うように身構えた瞬間。
笹藪からひょっこりと顔を出したのは、巨大な熊ではなく――一匹の小さなキタキツネだった。
「キツネ……?」
だが、その姿はあまりにも痛々しかった。
ガリガリに痩せ細り、全身は泥だらけ。本来なら美しいはずの茶色の毛並みは汚れで固まり、小刻みにガタガタと震えている。
どうやら、運悪くヒグマの縄張りに迷い込み、狩られる寸前で逃げ場を失い、笹藪の中で恐怖にすくみ上がっていたらしい。
そこに偶然俺たちが通りかかり、シロがヒグマを追い払ったことで、九死に一生を得たようだった。
「お、お兄さん……あの子、すごく弱ってます。泥だらけだし、立てないみたい……」
「小春ちゃん、ストップだ! 野生の動物には不用意に触るな!」
俺はとっさに制止した。北海道のキタキツネには恐ろしい寄生虫などの危険があるからだ。
非情な現実だが、どうすることもできないと胸を痛めていた、その時だった。
『……ミャウ』
俺の腕の中からスルリと抜け出したシロが、泥だらけのキツネに向かって、トコトコと優雅な足取りで近づいていったのだ。
「あっ、おいバカ、シロ!」
俺の制止など、神獣の耳には届かない。
シロは、怯えて丸くなるキツネの目の前で立ち止まると、その純白の顔を近づけ――。
ツンッ。
自分の小さなピンク色の鼻先を、泥だらけのキツネの鼻先に、優しく合わせたのだ。
――ピカァァァァァァァァァッ!!!!
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
シロの鼻先が触れた瞬間、キツネの全身を『真珠色の光』が包み込んだ。
それは、枯れた温泉をエメラルドグリーンに変えた時と同じ、絶対的な『浄化の光』。
光が弾け、フワッと消え去った後。
そこには、先ほどの泥だらけの姿からは想像もつかない、奇跡のような光景が広がっていた。
固まっていた泥はすべて消え去り、最高級のシルクのように輝く、フワフワの黄金色の毛並み。
ノミやダニはおろか、体内に潜んでいたであろう寄生虫(エキノコックス)の危険性すら、細胞レベルで完全に滅菌された『世界一清潔なキタキツネ』が誕生していたのだ。
風に乗って、高級なベビーパウダーのような甘い匂いすら漂ってくる。
「えっ……? えっ……!?」
小春ちゃんが、信じられないものを見る目で目を瞬かせた。
「キツネさんが、光りましたよ!? しかも一瞬で泥が消えて、シャンプーしたみたいにフワフワに……! お兄さん、やっぱりシロちゃんは魔法が使えます!!」
小春ちゃんが興奮気味に俺の袖を引く。
だが、俺は元・陸上自衛隊 需品科《じゅひんか》(軍隊では兵站、補給をになう部隊)であり、ブラック企業を生き抜いた鋼のポーカーフェイスの持ち主だ。
「……落ち着きなさい、小春ちゃん」
俺は真顔のまま、淀みない口調で言い放った。
「あれは魔法でもなんでもない。ただの『静電気』だ。ヒグマが逃げる時に強烈な摩擦が起き、笹藪に局地的な電磁場が発生していたんだ。そこにシロが触れたことで静電気が放電され、乾いた泥が衝撃で吹き飛んだだけだ。ええ、北海道の乾燥した空気が生んだ、ただのプラズマ洗浄現象ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、山中に響き渡る声で渾身のツッコミを入れた。
「静電気で泥が吹き飛んで、ベビーパウダーの匂いになるわけないでしょ!! どう見たってシロちゃんの神聖な力で浄化されたんでしょうが!!」
俺の極限の現実逃避と、小春ちゃんのキレキレのツッコミ。
そんな俺たちのやり取りの足元で。
自分が完全に清潔になったことを理解したキツネは、金色の瞳を見開き、目の前の純白の猫を見つめた。
ヒグマを視線だけで追い払い、自分に新たな命をくれた、絶対的な強者。
キツネは、両方の前足をピタリと揃え、その間に自分の鼻先を深く擦り付けるようにして平伏した。
つい先ほどヒグマがやっていたのと全く同じ、完全なる『土下座(舎弟入り)』のポーズだった。
『ミャウ(ついてきなさい)』
シロが女王のように鼻を鳴らして歩き出すと、黄金色のキツネは弾かれたように立ち上がり、嬉しそうに尻尾を振りながら、俺たちの後ろをちゃっかりとついてきたのだった。
「……というわけで。ヒグマの威圧感とシロのオーラに記憶が上書きされてたけど、気づいたらうちの暖房(シロ)の横を占拠する『ニート狐・第一号』が爆誕していたわけだ」
俺はほうじ茶をぐいっと飲み干し、縁側の思い出語りを締めくくった。
「ふふっ。コン吉くん、あんなにガリガリだったのに、今じゃすっかり丸くなっちゃって」
小春ちゃんが優しく撫でると、眠っていたコン吉が目を覚まし、「キュゥ?」と首を傾げた。
自分がかつて泥だらけで死にかけていたことなど微塵も覚えていないような、無防備で幸せそうな顔だ。
「まぁ、いいさ。エサ代は世界中のVIPたちが喜んで払ってくれるしな」
俺は苦笑いしながら、コン吉の黄金色の頭を撫でてやった。
大自然の脅威と、神獣の気まぐれな慈悲。
限界集落の古民家には、そんなバグのような奇跡の連続で集まった、愛すべき『もふもふの眷属』たちが、今日も平和に寝息を立てている。
俺たちの、最高に怠惰で温かいスローライフは、まだまだ賑やかに続いていくのだった。