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第16話: 【ゲーム実況】ボスと遊んでみた。【攻略】
村の朝は、妙に落ち着いていた。
モルモット達は巣箱で眠り。
川辺には巨大魚注意の札が立ち。
魔物達は猫撫こよりの足元で丸くなっていた。
こよりが来てから、村の雰囲気は少し変わった。
怖いだけだった魔物に、名前がついた。
近づいてはいけない相手と、少し距離を置けば大丈夫な相手が分かれた。
ひなたの布人形の横で、小さな魔物が眠るようになった。
ロッカはまだ警戒していた。
「なついても魔物は魔物だ」
こよりはうなずいた。
「うん。だから距離も大事」
ロッカは少し黙った。
ナギはそのやり取りを見ながら、スマホを開いた。
転生タイムライン。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
ゲーム実況
ボス攻略
初見反応
指示厨耐性あり
ナギは目を細めた。
「指示厨耐性あり……」
マヒロが横からのぞく。
「何それ」
ナギは少し考えた。
「横からあれこれ言われても、折れにくい能力かな」
リクが笑った。
「それ、強いっすね」
ロッカが腕を組む。
「ボス攻略とは何だ」
レンが説明しようとして止まった。
「大きな敵の倒し方、みたいな感じです」
ハクトが静かに言う。
「倒すだけとは限りません。止める、逃がす、弱点を探す。攻略とは手順です」
ミレナがすぐ書いた。
「攻略とは手順」
ナギはスマホを見た。
次の文字が出る。
能力予測
攻略視界
ナギは小さくつぶやいた。
「全部見える系か」
ロッカが眉を寄せた。
「便利すぎる力は危ない」
その直後。
村の広場に、誰かが落ちてきた。
どさっ。
「いてててて……落下ダメージありかあ……」
灰色の上着。
首から小さなゲーム機のような道具。
短い茶色の髪。
目元に疲れた影。
けれど目だけは妙に鋭い。
その人は、地面に座ったまま周りを見た。
「初期地点、村。味方NPC多め。設備かなり発展済み。イベント進行度、たぶん中盤」
ナギは言った。
「最初から実況してる」
その人はナギを見る。
「画面ヨミトです。ゲーム実況やってました。初見プレイ、縛りプレイ、ボス攻略、考察、たまに耐久配信」
ロッカが短剣に手を置く。
「ここはゲームではない」
ヨミトはすぐうなずいた。
「分かってます。だから、余計に慎重に見ます」
その返事に、ロッカの手が少しだけ止まった。
ヨミトは立ち上がり、広場を見渡した。
「えっと……見えてる。全員の役割が、なんとなく」
ナギのスマホが震えた。
能力名
攻略視界
効果
強敵の行動パターン、弱点、攻略手順が視界に表示される。
補正
観察時間。
過去の実況経験。
仲間への説明力。
失敗から学ぶ速度。
注意
見える情報が多すぎると、言葉が追いつかない。
ミレナがぴくっと反応した。
「情報量が多い系?」
ハクトが静かに言った。
「仲間ですね」
ヨミトは苦笑した。
「たぶん、そうです」
その時だった。
村の北側で、鐘が鳴った。
一回。
二回。
三回。
見張り台のロッカが走った。
「森だ!」
ソウマが耳を澄ませる。
「重い足音。規則的」
ダイチが川辺のほうを見た。
「水の音も揺れてる」
ハクトが地面を見る。
「かなり大きい。単独」
ナギは顔をしかめた。
「ボスってやつか」
ヨミトは森の方を見た。
その瞬間、ヨミトの目が大きく開いた。
「見えた」
「何が」
「名前、行動、危険範囲、弱点、たぶん全部」
ロッカが言う。
「言え」
ヨミトは息を吸った。
「森殻の巨獣。第一段階は突進と尻尾払い。足元が弱いけど、直接攻撃は危険。背中の殻は硬い。音に反応する。歌で足止め可能。玩具誘導は効く。ダンボール壁は一回なら受けるけど二回目で破れる。水場へ行かせると危険。火は効くけど森へ燃え移るから使わない。説得は難しいけど、こよりさんのなつき補正で怒りが少し落ちる。ナギさんの大喜利は第二段階の切り替え時がいい」
一息だった。
ミレナが固まった。
「待って」
ヨミトも固まった。
「すみません、早口になりました」
ハクトがうなずく。
「分かります」
ミレナが叫んだ。
「分かり合わないで!」
桶が言った。
「早口でもえらい!」
ロッカは森を見た。
「来るぞ。説明は動きながらだ」
ヨミトはうなずいた。
「まず村人を広場の奥へ。子ども達はひなたさん。モルモット達はユウマさん。川方面はダイチさん。ロッカさんは正面に立たず左から。カイさんは壁を斜めに。リクさん、低音は短く。マヒロさん、歌は長く伸ばさない。レンさん、教官車で誘導。ミチルさん、滑り止めと目印。ツクルさん、紙芝居より注意札優先」
ツクルはもう札を書いていた。
正面に立つな。
二回目の突進注意。
川へ行かせるな。
ナギはヨミトを見る。
「俺は?」
ヨミトは森を見たまま言った。
「第二段階まで温存で」
「ゲームみたいな言い方するなあ」
「癖です」
森が割れた。
巨獣が現れた。
四本足。
硬い殻。
太い尻尾。
顔は獣に近いが、目はぎらついている。
背中には苔のようなものが張りつき、木の根のような筋が体を覆っていた。
大きい。
リョウが銛を担いで笑った。
「でかいな!」
ロッカが即座に言う。
「ふざけるな」
リョウは口を閉じた。
巨獣が吠えた。
地面が震える。
こよりの足元にいた小さな魔物達が、びくっと縮こまった。
ひなたが子ども達を避難所へ誘導する。
ヨミトが叫んだ。
「突進、三秒後! 右へ避ける準備!」
ロッカが走る。
カイが斜め壁を出す。
こん。
巨獣が突進した。
ヨミトの言った通り、三秒後。
斜め壁に当たり、進路が少しずれる。
ロッカが足元を狙うが、深くは入らない。
ハクトが叫ぶ。
「切りすぎない!」
ロッカは短剣の柄で足の関節を打つ。
巨獣が体勢を崩す。
リクが短い低音を入れる。
どん。
巨獣の足が半歩ずれた。
マヒロが歌を伸ばそうとする。
ヨミトが叫ぶ。
「長く伸ばすと尻尾が来る!」
マヒロは音を短く切った。
その直後、巨獣の尻尾が横を払った。
何もない場所を通る。
マヒロは息をのんだ。
「本当に来た……」
ヨミトは目を細める。
「第二行動まで見えます。三回目の突進後、背中の殻が開く」
レンが教官車を出す。
ぴ。
この先、危険。
進路変更。
巨獣は教官車を見た。
一瞬だけ動きが止まる。
ヨミトが叫ぶ。
「今、誘導!」
レンのミニカー達が走る。
巨獣の視線がそちらへ向く。
カイが壁をもう一枚作る。
ツクルがダンボールの目印を置く。
ミチルが滑り止め布を敷く。
村人達が安全な場所へ移動する。
ナギはまだ動かない。
ヨミトに温存と言われた。
それが少し変な感じだった。
今まで、危険な場面ではすぐ大喜利を出していた。
でも、今回は違う。
攻略手順がある。
出番が来るまで待つ必要がある。
待つのは、思ったより怖かった。
巨獣が二度目の突進をする。
ヨミトが叫ぶ。
「壁は受けずに流して!」
カイは壁を斜めに倒す。
巨獣は足を取られ、森側へずれる。
ダイチが川方面を塞ぐように位置を変える。
「こっちへ来させるな!」
ソウマが音源を鳴らす。
じじじ。
ぶうん。
巨獣が音に反応する。
だが、怒りも増す。
ヨミトが叫ぶ。
「ノイズ短く! 長いと怒りゲージ上がる!」
ソウマはすぐ切った。
「見えるのか」
「見えます。怒り値が」
ミレナが書きながら叫ぶ。
「怒り値とは?」
ヨミトが叫び返す。
「今は説明後で!」
ミレナは悔しそうに帳面を握った。
三度目の突進。
巨獣が村の門へ向かう。
こよりが前へ出ようとした。
ヨミトが叫ぶ。
「こよりさん、まだ!」
こよりは足を止める。
巨獣が門の手前で大きく吠えた。
背中の殻が、ゆっくり開く。
中に、赤く光るような核が見えた。
熱ではない。
怒りの中心みたいなものだった。
ヨミトが叫ぶ。
「第二段階! ナギさん、今!」
ナギは息を吸った。
お題。
怒りで殻を開いたボスが、一番困ることとは。
怖い。
大きい。
でも、怒っている。
怒りの核。
ナギは叫んだ。
「お題! 怒りで本気になったボスが、急に冷静になった理由とは!」
巨獣の目がナギを向く。
ナギは答えた。
「自分の怒りに、字幕で『落ち着け』と表示された!」
巨獣の目の前に、大きな札が現れた。
落ち着け。
巨獣が止まった。
殻の中の光が揺れる。
ロッカが目を見開く。
「止まった」
ヨミトがすぐ叫ぶ。
「今は攻撃じゃなく、弱体化! こよりさん!」
こよりがゆっくり前へ出る。
「大丈夫。怒ってるだけなら、戻れるよ」
巨獣が唸る。
でも、さっきより低い。
ヨミトは早口で言う。
「なつき判定は低いけど、敵意低下中。ハクトさん、怪我確認。ダイチさん、水場から遠ざける。マヒロさん、優しい歌。リクさん、心拍に近い低音。ソウマさん、ノイズなし。レンさん、玩具は止めて見守り。ロッカさん、構えを下げて」
ロッカは一瞬迷い、短剣を下げた。
マヒロが静かに歌う。
リクが低く、ゆっくり叩く。
どん。
どん。
こよりはさらに近づく。
「こわいね。怒ってるね。でも、ここで暴れなくていいよ」
巨獣の殻が少し閉じる。
ヨミトが小声で言った。
「第三段階に行かないで済むかも」
ナギは聞いた。
「第三段階って?」
「暴走。村半壊コース」
「聞きたくなかった」
「でも見えてます」
「実況者、怖いな」
その時。
森の奥から、別の魔物の鳴き声が聞こえた。
巨獣の目が変わる。
ヨミトの顔がこわばった。
「まずい。隠しギミック」
ロッカが叫ぶ。
「何だ!」
「この巨獣、森を守ってた側です。奥にいる小型魔物の群れを追って、ここまで来た」
ハクトがすぐ言う。
「では、敵ではなく追跡中」
ヨミトがうなずく。
「でも怒りで村を敵認識してる」
ナギは歯を食いしばった。
「お題、もう一回いける」
ヨミトは首を振る。
「連発すると耐性がつくかも」
「耐性まであるのか」
「見えてます」
ミレナが叫ぶ。
「見えすぎ!」
桶が遠くで言った。
「見えすぎてえらい!」
誰も返事をする余裕はなかった。
ヨミトは巨獣の周囲を見る。
「攻略変更。倒さない。森へ戻す。奥の小型群れを村から離す」
レンが教官車を動かす。
「誘導ならできます」
カイが森側へ道を作る。
「通路を作る」
ツクルが注意札を立てる。
森へ戻る道。
村へ入らない。
ゆっくり。
ミチルが目印テープを出す。
「ぱんぱかぱーん!」
ダイチが川側を塞ぐ。
ハクトが足跡を見る。
こよりが巨獣の前で、低い声で話し続ける。
マヒロが歌を細く続ける。
リクが心拍みたいな音を刻む。
ヨミトがナギを見る。
「最後に一回だけ、森へ戻る理由を作ってください」
ナギはうなずいた。
お題。
村を襲いかけた巨獣が、森へ戻った理由とは。
ナギは巨獣を見た。
ただのボスではない。
攻略対象でもない。
生き物。
森を守っていた相手。
ナギは答えた。
「本当の目的地が、ようやく地図に表示された!」
地面に光の線が走った。
村ではなく、森の奥へ。
巨獣の前に、大きな地図のような表示が浮かぶ。
目的地
森の奥
迷子の小型群れ
巨獣の目が動いた。
怒りの光が弱まる。
こよりがそっと言う。
「行っておいで。村はこっち。あなたの用事は、あっち」
ヨミトが叫ぶ。
「全員、道を開けて!」
ロッカが合図する。
カイの壁が横へ動く。
レンの玩具が脇へ下がる。
ダイチが川側を守る。
ツクルの札が揺れる。
マヒロの歌が出口へ向かうように流れる。
リクの低音が歩幅に合う。
巨獣は、一歩ずつ進んだ。
村の門を通らず。
川へも行かず。
森へ向かって。
途中、一度だけ振り返った。
ヨミトが小さく言った。
「攻撃判定、消えた」
ナギは大きく息を吐いた。
巨獣は森へ戻っていった。
しばらくして、遠くで小型魔物達の鳴き声がした。
それも、やがて静かになった。
村に残ったのは、踏み荒らされた地面と、全員の息切れだけだった。
ロッカがヨミトを見る。
「お前の情報がなければ、かなり危なかった」
ヨミトは肩の力を抜いた。
「よかった……初見突破できた……」
ナギは笑った。
「ゲーム実況者っぽい感想」
ヨミトは真剣に言う。
「でも、リセットはできないので」
その言葉に、皆が少し黙った。
ゲームではない。
失敗したら戻らない。
攻略法が見えても、怖さは消えない。
ヨミトの手は震えていた。
ひなたが近づき、布人形を差し出した。
「休む?」
ヨミトは少し笑った。
「はい。休みたいです」
ミレナが帳面を開いた。
「攻略視界。情報量は多いが、行動の順番を整理できる。ボス戦を倒す戦いから、戻す戦いへ変えた」
ハクトがうなずいた。
「いい記録です」
ミレナは少し誇らしげだった。
夕方。
村の広場には、ボス対策会議が開かれた。
ツクルの紙芝居。
カイの地形図。
ミレナの記録。
ヨミトの攻略メモ。
ハクトの生き物観察。
ロッカの戦闘判断。
ミチルの道具一覧。
レンの誘導ルート。
ダイチの水場注意。
マヒロの合図歌。
リクの低音パターン。
ソウマの音量管理。
こよりの魔物対応。
ひなたの避難手順。
ナギの大喜利発動タイミング。
全部が並んだ。
ヨミトはそれを見て、少しだけ目を丸くした。
「すごい。ちゃんとパーティーだ」
ナギは首をかしげた。
「パーティー?」
「役割がある仲間って意味です」
ロッカが言う。
「遊びではない」
ヨミトはうなずいた。
「はい。だから、余計に大事です」
桶が言った。
「仲間でえらい!」
リクが笑った。
「桶もパーティーっすね」
桶は元気に言った。
「参加してえらい!」
ロッカは反論しなかった。
夜。
ナギはスマホを開いた。
転生タイムライン。
ゲーム実況者
映像には、ヨミトが落ちてくる場面。
巨獣の攻略法を読み取る場面。
全員へ指示を出す場面。
ナギの大喜利で怒りを止める場面。
最後に、巨獣を森へ戻す場面が映っていた。
コメント欄が流れる。
「ヨミトだ!」
「攻略見えてるの強い」
「でも本人めっちゃ怖そう」
「リセットできない実況きつい」
「倒さない攻略よかった」
「ナギの字幕大喜利便利」
「ロッカがちゃんと指示聞いてる」
「桶もパーティー入り」
ヨミトは画面を見た。
コメントが続く。
「無理するな」
「初見突破おめ」
「でも休め」
「次も見てる」
ヨミトは小さく笑った。
「見てるなら、ちゃんとやります」
ナギは聞いた。
「実況します?」
ヨミトは首を振った。
「今日は休憩回で」
ナギは笑った。
「それがいい」
ヨミトは少し黙ってから言った。
「ナギさん」
「何?」
「攻略法が見えても、最後に動くのは人なんですね」
ナギは村を見た。
ロッカが見張る。
ミレナが記録する。
リクが音を整える。
マヒロが歌詞を直す。
カイが壁を補修する。
ひなたが子ども達を寝かせる。
ダイチが川の音を聞く。
レンが玩具を片付ける。
ソウマが音量を下げる。
ハクトが森の足跡を見ている。
ミチルが道具をしまう。
ツクルが札を直す。
ユウマがモルモット達の水を替える。
リョウが銛を安全な場所に置く。
こよりが魔物達にやわらかく話している。
「そうだな」
ナギは言った。
「見えても、やるのはみんなだ」
ヨミトはうなずいた。
スマホがまた震えた。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
料理動画
能力強化
本気の仕込み
ナギは画面を見て、少しだけ安心した。
「次は料理か」
ハクトが遠くから反応した。
「食材の扱いは大事です」
ダイチも言う。
「火も大事だ」
マヒロが笑う。
「食事回なら平和?」
ロッカは即答した。
「油断するな」
ヨミトが画面を見て言った。
「料理回のボス、だいたい強いです」
ナギは頭を抱えた。
「そういう見方やめて」
桶が言った。
「油断しなくてえらい!」
村に、少しだけ笑い声が戻った。
転生タイムラインは、また次の投稿を準備している。
好きなことで、生きていく。
ゲームを見続けた目も。
失敗を覚えた手も。
攻略を言葉にする声も。
この世界では、誰かを守る道になる。
ナギはスマホをしまい、夜の村を見た。
次のお題は、きっと腹が減る。
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
コメント
1件
うわっ、この話すごかった……!「攻略視界」って能力、めっちゃチートっぽいのに、ちゃんとリスクや制限があるところがリアルで好き。ヨミトの早口で全部見えちゃう感じ、本人が一番ビビってるのが伝わってきて、そこが刺さりました。「リセットできないので」って台詞、めっちゃ重い。そして村のみんながそれぞれの役割で動いてるのが本当にパーティって感じで、あったかくなった。桶の「えらい!」連発も癒し。次は料理回?また読ませてもらいます🌙