私は結局、リボンを返すことができなかった。その事を気にしながら下校する。
「さて、どうやって返したら良いのかな・・・」そう考えていると、公園が目についた。私は、ブランコで考える事にした。
キーコ、キーコ・・・と、錆びたブランコの音が寂しく響く。私の前には、2つ並んだブランコの片方に自分が座っている影が映し出されていた。ふと、公園の外を見ると、1人の少女がいる事に気がついた。少女は、こちらを見ていた。何も言わず、ただこちらを見ていた。私はブランコをこぐのをやめた。見られているのが恥ずかしくなり、下を向いた。すると少女が近づいてきて、口を開けた。「ねぇ おねえさん。なにを しているの?」少し驚いたが、「ブランコをこいでるんだよ。」とだけ返した。すると少女は「ほんとうに それだけ?」と言った。私は少し動揺した。そして、少女もそれを見逃さなかった。「おねえさん、なにか なやんでるんでしょ。わたしでよければ、そうだんにのるよ。」と言われ、少し恥ずかしくなった。が、同時に少女の観察力に驚いた。私は少し、相談してみる事にした。2人でブランコをこぎながら。リボンを返せなかったことだけを伝えた。それくらいしか悩みは無いと。すると少女は、「ちょっとかわった おともだちに リボンをかえせなくて こまってるの?かえせないと やなことがあるの?」私は、返す言葉が見つからなくなった。放課後に返す時間はあった。それでも返せなかった。返さなかった。・・・私は、全て話さざるを得なくなってしまった。「実は彼の家は・・・性別についての差別が酷いみたいでね。可愛い物を集める事すら許してくれないみたいなんだ。だから返さなかった。彼が怒られてる所を見たくなくて。最初は返そうと思った。けど、返したら親に散々文句を言われるのだから、彼が傷つく姿を見るくらいなら、諦めてもらいたくて・・・」私は少し泣いていた。そんな私を見ながら少女はこう言った。「じゃあ、リボンをかえさなければ そのひとは きずつかないの? たいせつなものを うしなっても きずつかないの?」「え?」私は一瞬、意味が理解できなかった。「そのひとにとって そのリボンが たいせつなもの だったのなら、まわりのいけんなんて どうでもいいとおもうなぁ。ひとから うばったのなら それはダメなことだけど、じぶんのものなのに、もんくをつけられて きずつけるほうが おかしいんだよ。だから、かえしてあげて。」ハッとした。私は彼を傷つけないようにする為、彼の周りにだけ注意を向けていた。彼自身に注意を向けていなかった。彼が傷つくからとかじゃない。彼自身がどう生きたいかを優先すればよかったんだ。「・・・ありがとう。私、今から返しに行ってくる。」そう言うと少女は、笑顔でこちらを見た。私はすぐ、レイ君の家に向かって歩き出した。公園を出る時、「あとは あなたしだい だよ。」という声が聞こえた。振り向くと、そこにはもう少女はいなかった。
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