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何分か経ち、お母様と私は落ち着きを取り戻したころ、お母様が何かを決心したような、覚悟を決めたような様子で
『……それに、スミレのこの写真が見れたってことは、私の伝えたいと思ったこと、お願いできそうだわ……』
そう言って、お母様は私にひとつお願いを託した。
本当は私がやりたいけれど、いざとなると、きっと何も出来なくなってしまうだろうから、と。
まあ、自画自賛かもしれないが、私以外ないだろう。あの2年前のスミレと話すことができるような人間は。それに、託される前から家に帰って真っ先にやろうと思っていたことだ。もちろん快諾した。いや、こちらからも、任せて欲しいという感じでもあった。……私はダッシュで家へと向かった。
ガチャッ……
玄関扉がいつもよりも重々しい音で開く。少し緊張はしているが、スミレと今すぐ話したいという気持ちの方が勝っている。
靴を慌てて脱ぐ。整えている暇なんてない。すぐさまスミレの荷物が入ったダンボールをがしゃりと探る。
……あった。この、古びたガラケーだ。上の方に置いてあったから、すぐに見つかった。
ガラケーを手に取る。このガラケーを使って、スミレは私に電話をかけていた。こんな事実、どこか奇妙だ。
今の私は、いつものアホ面はどこへ行ったのやら、といった顔付きだ。ガラケーの黒い画面に反射する私の顔は無駄に神妙で、冷や汗をたくさんかいていて……。うーん、アホ面とも言えるか。この顔も。
まったく、そんなどうでもないことを考えてしまうのも、緊張しているからなのだろう。
さっさとかけてしまえばいいものを、と思うかもしれないが、やはり、電話は緊張するのだ…
んー……。まあ、どうにでもなるさっ!
プルルルルルル……プルルルルルル……
プ……プ……プ………
かかるなぁ……
ガチャ
『やあやあ!もしもし?凪さんですか?』
『久しぶりですね!』
「あー。うん久しぶり!」
『なんかありました?あ、もうお酒飲んでるとか……?
昼ですよ?』
「いやいやぁ、さすがにお酒は飲まないって~」
「てかね、話したいことあるんだ」
『……。ほー……。なんですかね』
「あなた……。スミレでしょ?」
『……!!!』
『…………え~と…?』
「……いや、誤魔化さなくってもわかるの。あなた……いや、スミレも分かってやってたでしょ?いつか、嘘ついてるのがバレるんだって」
『……凪……』
長い沈黙が流れていく。ただ、気まずいとは不思議と思わなかった。
心を決めたのか、ゆっくりと口を開いた。
『……うん、そうだよ。私は、スミレ。』
「……っスミレ……。」
泣きそうになる。死んでいるけど、生きている親友が、この電話の先にいるのだ。
……いやっ泣いてなんていられないじゃないか!
伝えなきゃいけないことがあるのに!
「っとね、いいたいこと、沢山ある。けど、」
「あのねスミレ。」
「スミレは、あなたが生きてるその時から2年後くらいに、不慮の事故で死んじゃうの。」
『……。うん、1回聞いたわ、私が死ぬってこと。』
動揺はしていないようだが、少しだけ声が震えている。そりゃあそうだ。自分が近い将来に死なされるだなんて聞いたら怖いに決まっている。
……怖くってたまらないはずなのに、私の話を逃げることなく、真っ向に向き合って聞いている。そんな姿が、相変わらずかっこいいと思ってしまった。
「……それがね、事故なんだけど、高いところからものが落ちてきて、たまたま…当たって。別にそれは大した怪我じゃあなかったんだけど、その時に小さい出血が、頭の中で起きててさ……。それに気づかずに、働いたり遊んだり、ほっといちゃってさ、ある日いきなり、冷たくなって、起きてこなくなって、それで……。」
『死んじゃったのね。私は。』
「…………うん。」
「……たださ、……ただ、怪我をしたらさ、すぐに診てもらってよ……!お金なんてどうでもいいの、私と遊ぶ約束なんかよりも、頭が痛いって、体調悪いって、そういうことを優先して欲しいの!……あなたに1回だけ相談された。確かに覚えてるよ……!最近体調悪いって、頭が痛い、気分が悪いって!言ってた!でもすぐにケロッとして、後で病院行くし、また今度遊ぼうなんてとびきりの、いつもの笑顔で言うから……それを信じて……。信じちゃったの……でも、それから二度と、遊びに行くなんて出来なくなって……。……ずっとずっと後悔してた……いまも、後悔、してる……。」
「だから、」『情けない。』
『……情けないよ。未来の自分が』
「へ、」
『大切な、親友を泣かせて、後悔させるようなマネするなんて!まあ、私なんだけれど!!』
「…………ふは、なにそれ」
『いや、情けないのよ!とにかくもう、絶対に変えてやる!体調第一にね…!分かったわよ…!未来なんて、変えてやる!絶対によ!私は、何があっても、凪とずっと笑いあっていたい!ずっとずっと、笑っていたい……!』
『……2年後も……!ずっとずっと先だって一緒にいたい!』
「……スミレ……!」
『……私はこれから、未来を変えるために努力をするよ。凪と突然別れるなんて嫌だし。』
「私は…、待ってるよ……。きっと、きっと、帰ってくるって。」
『必ずよ……!』
そうして、さっきのような震えているような声色とは打って変わり、さっぱりと覚悟を決めた声色に変わったスミレは、必ず未来で会う。と一言残し、電話を切った。