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駅からさほど遠くないところにあるデパート。衣服に食品なんでもござれで一人暮らしにはとても助かる施設である。「にしても人が多いな…雨月と雫月には会えないか…?」
駅から近ければ人も多い。映画館もあるため子連れやカップルも少なくはない。
そういえば起きてから何も口にしていない。ここらで昼食を取るか。俺はふと目に付いたカフェへと入っていった。
席についてメニューのおすすめに書かれた珈琲を頼みカフェに置かれた観賞用植物を見る。
こういうのって枯れないように世話しなきゃいけないの大変そうだな。そんなことを考えながらまた別の場所に視線を移せば見覚えのある黒髪が目に入る。
「桃華さん…?」
いつもの笑顔で席に座る桃華さん。向かい側には…
「…すんません」
桃華さんにひたすら謝る長身の男。白から毛先にかけて黄色、オレンジとグラデーションのかかった髪は少し桃華さんの髪型と似ている。
「すんませんで済んだらこの損害、どうにかできる訳?」
聞いてた俺ですら背筋が凍る。なんだあの声、桃華さんもしかしてキレてる?
「…」
男の人黙り込んじゃったよ。
あそこの席にはみんな近づきたくないようだ。ウェイターですら遠回りをして各席へ商品提供をしている。
すると二人の元へまっすぐ歩いてくる女性が一人。
長い三つ編みに左目を覆い隠すような前髪。先程から桃華さんに叱られている男と同じ髪色だ。
「雨月、こっちに座りな」
桃華さんは自身が座っている方の椅子を指さすと雨月と呼ばれた女性は素直に桃華さんの横へと座る。
「で、話戻すけどお前ドイツで何してきたわけ」
「それはもちろん外交を…」
「外交のためにドイツ行ったらメルセデスが爆破すんのか〜へぇ〜面白〜い」
桃華さんはコーヒーに口をつけたあと、そのカップを強くテーブルに置いた。大きな音がこちらまで聞こえてきた。
もうダメだ男の方が可哀想で仕方ない。雨月と呼ばれた女性の方に関しては気にせず店員に注文をする。
「…っな」
目が合った。まるで最初からこちらに気がついてたかのように雨月は俺に向かって微笑んだ。
「どうしたの雨月、何か見えて…あぁ〜道國だ」
雨月の行動が気になったらしい桃華さんは雨月の目線を辿って俺の方を見た。
「こっちおいでよ。ほら」
俺が断りを入れるより先に桃華さんは店員に席の移動を要求した。早い。
「ど、どうも…」
「二人の紹介は…要らなそうだね。さっきから聞いていたみたいだし。」
バレていた。
「会話の断片だけ聞いて分かるわけないじゃないですか。…初めまして道國兄さん、僕は天樹雨月と申します。こちらが兄の天樹雫月。桃華さんの担当する真神隊に二人で所属しています。兄様、挨拶を」
今までの誰よりも丁寧な挨拶だ。雨月は移動してきた俺の横に座る男、雫月に言う。
「あ…どーも…」
血色がすこぶる悪い。桃華さんに圧をかけられたからだろう目が死んでいる。
「それで…なんの話をしていたんですか?」
桃華さんに向き直って俺は言った。
「実は葬儀屋の外部干渉を抑えるために他国の政府と話をつけて貰うようにこの数ヶ月日本を離れて貰ってたんだけどさ」
桃華さんは雫月を見てため息をつく。
「こいつが他国の総理と揉めて喧嘩勃発…」
「えぇ!?」
「…と思ったらその総理を狙って民間テロが近くで起きて、イライラしてた雫月はそのまま総理の愛車を破壊」
えぇ…?
「ほんとどうかしてるよね、おかげで桃華さんぶち切れそう。」
笑顔で首を傾げながら言うがその額には血管がやや浮いている。ガチだ。
「葬儀屋が政府からの指示で行動してる時は全部損害こっちの掛け持ちなんだから。知ってるよね?」
雫月が俯く。もう許してやれよ。
「その件なんですけど、語弊があると思います。」
雨月が手を挙げた。
「語弊?雨月、雫月じゃないのか?車を投げたのは」
「投げ…っ!?」
もういい、突っ込むのはやめよう。どれだけ葬儀屋の異常さを見たと思っているんだ。少しは冷静になるべきだ芦屋道國よ。
「いえ、車を投げたのは確実に兄様です。ですが、テロは総理を狙っていた訳ではありません。色は、総理に向けられていなかった。」
色…?
「道國に説明しないとかな。雨月の言う色っていうのは感情が具現化したもので…そうだな…色の着いた霧のように雨月の瞳には見えるらしい。」
「そういう、能力ってことですか」
俺の言葉に首を振ったのは雨月だ。
「僕の能力は別にあります。視える力は…少し違う…」
「その通り、まぁ後天性の何かだと思って欲しい。それで話は戻すけど雨月。その色は…なんだったんだ。」
雨月は表情を濁らせる。
「それは…僕と兄様に対する、悪意の感情」
雨月のその言葉を待っていたかのように、店内に大きな物音が鳴り響く。
それが今日起こる、『全ての』戦争の合図だと俺たちは考えもしなかった。
七月十七日。○○喫茶店より、殺傷事件発生。
同時刻、雨雷は『後の世』で大きくため息をついた。
「なんっでこんなとこで探索なんてしなきゃ行けないのさ!」
雨雷の咥えていたタバコに海織は火をつける。
「仕方、無い話。氷芽さん、言う なら、何か、ある」
絶対。と言う海織の表情は険しい。
「…そうだとしても、泰弥くんも居ない、風南も居ない今の空狐隊じゃなんも手がかりなんて掴めないって。」
雨雷の話もよそに海織は進む。
いつもの商店街、違うとすれば活気がない事だ。この世界では存在しない太陽の代わりにどこから来たかも分からない光がアスファルトを照らす。『後の世』には夜など存在しない。
「氷芽さん、言った。来る、今日」
「はいはい、それはさっきも」
雨雷の言葉の続きを遮ったのは氷柱のような壁だった。
「海織!」
青い炎が氷を包みすぐさま氷は水へと変わった。
氷が熔けてもなお、海織は炎を出し続ける。炎は瞬く間に氷柱を作り出した犯人へと向かう。がしかし、炎はさらに大きな氷とぶつかり合い、『後の世』の地面を濡らして消えた。
「賊心…じゃないね、賊心が海織の炎と相打ちになるほどの力を出せるわけない。」
消えたタバコを灰皿ポケットにしまい新しく咥え直す。
商店街の名を示す看板の上に立つ男。無造作に伸ばされた空色の髪の隙間から見える鋭い眼光は雨雷と海織を見下ろしていた。
「やっと攻撃してきた…降りてきなよ、見下ろされんの嫌いなんだよね私」
煙を吐いて言う。海織は背負っていた大太刀を構えた。
男は何も言わずに不敵に笑う。
拝啓、お母様お元気でしょうか。俺は今死の局面に立たされています。
だっておかしいだろこんなことある?今まで客だと思っていた人達が、店員だと思っていた人達が、みんな俺たちに向かって銃口向けてんだぜ?全く笑えないわ。
「先程からおかしいと思っていたんです。皆さんずっとこちらに色が向いていたので」
雨月は俺を庇うように立つと大きく手を振り上げた。
客だと思っていた奴らの手から拳銃が落とされる。代わりにその手にはカッターのような形をしたナイフが突き刺さっていた。
「まずここから出るのが第一だろうね、行くよ。」
桃華さんがそう言うと雨月は頷き、俺の手を引いて喫茶店の出口へと走り出した。後ろに続く桃華さんと雫月が出口である通りに足を踏み入れた瞬間。喫茶店が残された客諸共爆発した。
「なんだ!?」
俺は思わず喫茶店の方を振り向こうとしたが桃華さんによって止められた。
「見ない方がいい、ほら走って!」
背中を押され、また雨月に手を引かれ走る。先程までたくさん人がいたであろう通路には誰も居ない。焼け焦げた臭いが遠ざかるにつれ雨月の顔色が悪くなる。
「どうした、雨月」
それに気がつき声をかけたのは雫月だった。
「いえ…ただ少し引っかかることがあって…」
雨月は歩みを止めた。
「あの店が爆破する前、そう僕たちが走り出した瞬間。あの瞬間あの方達に見えた感情です。」
「殺意、じゃないのか」
雫月が言う。
「確かにそれもありました。でも、その感情に勝る感情が、」
「絶望です。」
絶望?
「どういうことだ?」
「彼らの絶望の意味を考えたんです。僕達を仕留められなかったことに関する絶望か、そう考えもしたのですがそれとはまた違う。」
「それ以外の絶望…しかも全員が…」
淡々と呟く雨月の言葉を聞く。
「そう、失敗=死と結び付けられているような…」
桃華さんが何かに気がつく。
「アイツら全員、『教会』側の人間だってことか…?」
「いや、だとしたら雨月がいち早く気がつくはずだぜ桃華さん。アイツらの息がかかった人間はドブのような色をしているらしいからな。」
だとすれば。
嫌な憶測ができてしまった。仮にこれが本当だとしたら胸糞悪いぞ。
「道國兄さんも分かってしまったみたいですね。」
あぁクソ最悪だ。いつもはこんな予想なんて当たらないのに。
「いいですか、今からこの中にいる一般人の方々は僕たちを狙う人物でもあり、人質でもあります。」
ようやく理解したらしい雫月は表情を曇らせる。
「なるほどな、俺たちを殺さなきゃさっきみたいに全員仲良くペナルティ…か」
そう言って舌打ちをする。
「そのペナルティは爆弾による爆破だけなのか?」
俺の問いに桃華さんは指を指し示す。デパートを彩る大きな液晶画面が全てを語っていた。
『任務!葬儀屋を殺せ!出来なければ全員爆破!』
文字の下にはいつ撮られたのだろうか、俺たち四人の顔写真がある。
「ほんと、タチが悪いな」
雫月は顔を顰めた。
「デパート全体が封鎖されてる。氷芽さんには無線送ったからしばらくしたら救援が来るはず…でも」
桃華さんの言う通りだ、救援が来たとしても恐らく俺達が動かない限り一般人の命は無事では済まないだろう。
「とにかく犯人を見つけましょう。爆弾を仕掛け、それを操作している人物がいるはずです」
「そうだな、現に俺たちは爆弾がどこにしかけられているのかも分からない。それを聞き出さないと。」
俺がそう応え、辺りを見渡した瞬間だった。上から何か黒いものが降ってきた。
「兄さん!」
雨月に手を強く引かれ思いっきり尻もちを着いたところで何が起きていたか、はっきり分かった。
俺と雨月、雫月と桃華さんを分けるかのように大きな看板は配線を散らしながら落ちてきた。
「あっぶな…」
「間一髪でしたね」
するとまた上の階で大きな爆発音がした。
「殺せなかったから、ペナルティか…」
「えげつないねほんと、…とまぁそれを防ぐためにもひとまずこのデパートとの管理室に向かわなければいけないわけだ。」
看板を一枚挟んだ向こう側で桃華さんが言う。看板はデパートの壁を抉り、瓦礫と共に俺たちと桃華さん達の間を完全に塞いでしまった。
「ならちょうどいいですね。二手に別れましょう、この大きなデパートをひとつの管理室のみで管理しているとは思えません。きっといくつか監視カメラを管理している場所があるはずです。犯人は僕らを監視カメラで追っているはず」
「なるほど、そのいくつかある管理室の中に犯人がいるってわけか。」
すると看板の向こうから項垂れる声が聞こえた。
「雨月大丈夫か…?何かあったらすぐ逃げるんだぞ」
「いい加減妹離れしろっての雫月。それじゃあ、犯人が見つかったら容赦なくボコってね」
桃華さんは敵には容赦ないらしい。そんな考えをよそに桃華さんは「あと、」と言葉を続けた。
「命の保証はするよ、雨月は葬儀屋一番の最高戦力だからね」
そう言って足音が遠ざかっていく。
「…皆買いかぶりすぎです。」
雨月はため息をつくと歩き始めた。
「……ダメだここもハズレ」
「では念の為カメラの配線は切っておきましょう」
雨月は配線にナイフをあてる。雨月もそうだが、やはり葬儀屋のメンツは自分から話題を振ったり、会話をしようとしない。雪都や雨雷はまた別の話だが。
「葬儀屋ってなんでみんな互いに兄さんとか、姉さんって呼ぶんだ」
何気ない問いかけを話題として振ってみる。
「…そうですね、きっかけは零が僕のことを初めて姉さんと呼んでくれたところからですかね、最初皆揃った時は緊張の色が漂っていて…でも互いを兄弟、姉妹だと感じた瞬間から意思疎通もしやすくなって…」
雨月は手を止め語り出した。
おぉ、案外聞けば話してくれるもんなんだな。
「杏璃と紗霧は兄さん呼びされないんだな」
「あそこはちょっと…複雑なんです」
「そっか」
暗い話になりそうな場合は深堀するべきでは無い。雨月は頷くと配線を切るために力を入れた 。がしかしその手がまた止まる。
「…これ…」
雨月の視線は一つモニターだ。児童センターだろう、そこにあるのは
子供たちの死体の山。
同時刻
桃華と雫月は一人の男を縛り上げていた。
「案外呆気なかったな」
「いーや、ここからでしょ」
桃華は拘束された男の目線を合わせるようにしゃがむ。
「ねぇ俺たち爆弾の解除方法知りたいんだけど、教えてくれる?」
目を細めながら桃華は男の顔を覗き込んだ。
「…人質一人一人の手首に小型爆弾を埋め込んだ…爆破を防ぐには全員の手首を切り落とすしかない」
「おいおいそりゃ…」
雫月は苦笑の表情を浮かべる。
「…他に方法は」
「無いな…選べ…見殺しにするか、奴ら一人一人の手首を切り落とすか…」
桃華は冷ややかな目で男を見たと同時に携帯電話が鳴り響く。
「はいはい、こちら矢俣ですけど」
面倒だ、とでも言うかのように電話に出る
『桃華さん!』
「雨月か、ちょうど良かった。犯人から今爆弾の情報をだな」
『今すぐ合流してください!子供達が…!』
桃華のそばで携帯電話から聞こえる雨月の声に耳を澄ましていた雫月がいち早く管理室を出ていった。
「雫月…!あ〜も〜!」
桃華は男を配管に固定したあと雫月の後を追った。
「ひっどいなこりゃ」
俺たちは雫月がカベとなっていた看板を破壊し、合流した後、雨月が示す児童センターに向かった。
児童センターに集まっていたのは小学生ぐらいまでだろうか、山積みになり動かないままの子供たちと血の海。
「うっ…おぇ…っ」
「吐くなよ〜吐くな〜」
口を抑える俺の背中を桃華さんが軽く叩く。
「…おそらく喫茶店での出来事よりも前に亡くなっています。」
子供の死体に手を当て、雨月が言う。
「これはあれじゃねぇのか、道國兄さん?」
雫月は俺を見る。
「そうですね…道國兄さん、お願いします。」
…?はい?
「え?何を?」
雨月と雫月は首を傾げた。
「ちょっと二人ともまっ」
「道國兄さんの『再生』のことですよ」
「まさか、まだ使えてないのか?」
桃華さんが静止の声をあげたが二人は続けた。
再生?
「最悪…えぇ…?こんな感じでバレるとかあるの?」
「バレる…?まさか秘密にしてたのか!?」
雫月の反応に桃華さんは苛立ちを含めながら雫月の足を思いっきり踏む。
「待って、本当に分からないんだ。『再生』ってなんだ」
俺の言葉に桃華さんは大きなため息をついて答えた。
「いい?芦屋道國。お前は葬儀屋や俺達と同じく賊心に対抗する力を持つ者であり、『再生』という全ての物の行く末をループさせることのできる能力を持っているんだ」
「…は!?」
いやいやいや何それ
「つまり俺も戦うってこと?アイツらと?」
雨月は頷く。
「もう既に使えると思ってたんだが…そうか〜まだだったか〜」
頭をかきながら雫月は項垂れる。周りの反応に俺は三人をキョロキョロと見るしか無かった。
「しかし、道國兄さんの『再生』の力が無いとなると最悪ですね。この子達を救うことが出来ない…」
雨月の言葉に混乱していた俺の思考はピタリと止まった。
もしここで俺が再生とかいう能力が使えなかったとしたら…助かるはずだった命をこの大勢の命を見捨てたことになるのではないか。
と、思ってしまった。
「や、やる!やってみせる!」
俺の声に三人とも振り向く。
「能力の使い方、覚えればいいんだろ!そうすればこの子達はまた生活を送れるんだろ!?」
「兄さん…!」
雨月は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よく言った!」
桃華さんは俺の首襟を掴むと歩き出した。
「桃華さん?道國兄さんをどこへ…」
雨月は俺と桃華さんの向かう先を見て察した。
目の前には恐怖が入り交じった目で俺たちを見る一般人。
「 」
「え?」
桃華さんは俺の背中を押した。数メートル離れていたはずが急激に彼らが持つ銃、刃物、鈍器へと近づいていた。
死ぬ。これは確実に死ぬ。
そう思った瞬間、頭には桃華さんのさっきの言葉を思い出す。
『過去を思い出して…彼らの首に触れて』
俺はすかさず目の前に居た男性の後頭部に手を伸ばす。こちらからは見えないが何か硬い何かに触れたのが分かる。
「これが…!」
俺は次に桃華さんの言った通り過去を思い出そうとした。過去、いつからだ?
俺の最後の記憶、確か小学生の頃ひめちゃんと遊んだ時の記憶。
『はるあき』
なんだ、違う。もっと深く、もっと昔の記憶。
『お前を超えるぞ。はるあき』
お前は、誰だ?
記憶にない
俺と同じ背丈の長髪の男も、古い寺も。金色の長い髪を持ったあの女性も…違う、あの人は女の声をしてるが体は男で…いや、なんで知っているんだ。
記憶にない、のに知っている。
『はるあき』
だからはるあきって誰なんだ。俺は
…俺は誰なんだ。
「道國兄さん!」
雨月の言葉でハッとする。手のひらにはバラバラになったおもちゃのような何か。
「成功してる…!それが爆弾です!」
まじかよ。てか俺鼻血出てんだけど
桃華さんを見れば遠くでピースをしながら立っている。…なんかあの人に似てるな…っじゃないだからあの人って誰なんだよ!
「爆弾の解除が可能なのは僕と道國兄さんだけです!」
お願いします!と雨月は言うと徐々に増えていく人の群れの上へ飛んだ。
美しく、まるで高飛びのように飛び上がった雨月の周りには赤い球体が散っている。ビーズのようなそれは靡く三つ編みに見とれる人間達の首元へ真っ直ぐ飛んで行った。着地と同時にバラバラと爆弾の部品が地面に散らばる。
数分後、俺が解除した爆弾を含め全ての爆弾が解除された。
「道國の『再生』によって爆弾を組み立て前まで再生し、雨月は血液を操る能力で爆弾の内部に血液を送り、解除作業を行う…うん完璧〜」
桃華さんは拍手をしながら俺に近寄る。
「再生の使い方。上手く出来るようになったみたいだな」
「これなら出来ると思います」
雨月は緊張から脱力した人達の間を縫うように通りながら言う。
「道國兄さん、デパートの領域全てを再生しましょう。」
へ?
この後再生の能力を使いデパートの修復、被害者の回復に体力をフル活用した。夕方頃にはひめちゃんたちが現れ犯人に手錠をかけた。
「どうして…」
パトカーに詰められる前に犯人は桃華に向かって言った。
「俺、嘘が真実に『視える』能力持ってんだよね。だからあんたの嘘も秒で見抜けた訳。自信満々に嘘をつくやつを上げて落とすのって死ぬほど楽しいんだよね。ごしゅーしょーさま〜」
そう言って手を振る桃華さんはいつになく恍惚とした笑みを浮かべ、さすがに周囲も引いている。
「けど、なんで手首になんて嘘を」
「そりゃこっちのミスを公にするためだろ。警察が一般人に向かって突然意味もなく手首を切り落とす。なんて事態世間様に出てみろ。」
ひめちゃんが言う。確かに考えたくもない事だ。
「とはいえ、無事解決でほんとによかっ…た…」
「みち…!」
「道國兄さん!」
疲れが確実にきている。瞼が重い。
俺はそのまま目を閉じた。
また夢の中で、昔話が始まる。
道國が倒れてから数十分後
「結都さーん!向こうの犯人、捕まったみたいです!」
後の世にて、紗霧がスマホを持ちながら結都の元へ行く。
「そんなの後の世に揺蕩う恐怖の数見りゃ分かる」
騰蛇隊は氷芽からの指示を受け、後の世の警備を任されていた。
「話には続きがある…」
そう言って紗霧の後ろに居た杏璃は結都に向かって言う。
「犯人は尋問をかけられる前に死んだ…清蓮の見解…?だと呪い」
「呪い…?」
雪白が呟く。結都は握っていた刀を鞘に収めるとある事を考え始める。
「そういえば、雨雷姉さんが後の世でよく分からん謎の男に襲撃されたと言っていたな…」
「アレですか、結局逃げられたって言う」
「あぁ、確かデパートでの襲撃とほぼ同じ時間…偶然と言えるのか…?」
結都の眉間にしわがよる。
「どちらも、誰かに命令されてってこと…?」
雪白が首を傾げる
「そう、そしてそれが『教会』の連中だとしたら」
結都の言葉を杏璃の咳き込む声が遮る。
「あ…」
全員の視線が杏璃の元へ向く。そこには杏璃の胸を貫く、太刀ほどの大きさの刀身
「兄ちゃん!!」
紗霧が声を荒らげる頃には刀身はある人物によって引き抜かれ、杏璃は血を垂れ流しながらその場で電池切れのおもちゃのように倒れた。
「答えに行き着くまで思った以上に早かったな、だがそれも今となっては無意味」
杏璃の血で染まった刀を持つ男は言った。褐色の肌に赤い、地面に着くほどの長さの髪。
男はまた刀を構えると、次は杏璃を抱える紗霧目がけてその刃を突き立てようとした。
がしかし、その刃は光よりも素早い彼女により弾かれた。
「…いい速さだ。拙の次に良い」
舌打ちが聞こえた、結都だ。
「戯言抜かしてんじゃねぇ」
結都の横で雪白が鉈を構える。
「結都、杏璃の傷。再生してる」
「…そうか…どうやら道國兄さんが力を戻したみたいだな」
二人の会話に割り込むように刃が向かってくる。
結都はそれを素早く弾き、後ろへ引く。そして雪白は結都の前に出ると男の腹部を蹴り上げた。
「…!」
バキリという音が鳴り、男を見ればその腹部には傷ひとつない。代わりに地面には砕け散った白いアスファルトのようなもの。
「おい、外し…た訳じゃねぇなこれは」
「あれ、多分骨…」
「じゃああいつも能力持ちってことか」
男から生えている骨はメキメキと音を鳴らしながら肋骨のような形を作り自身の腹部を守っている。
「死ね、葬儀屋。拙を前に跪き首を差し出せ」
男は刀を結都に向ける。
「上等だ調子乗んじゃねぇぞクソロン毛」
結都は刀を強く握った。