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人魚姫

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人魚姫

34 - 呪

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27

2025年10月16日

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小瑪の手に握られた短剣はエミールの胸を貫き、深々と命を捕らえている。

「小瑪…」

唇を触れ合わせたまま、エミールが小瑪を呼んだ。

小瑪の瞳にも、泪が浮いている。

「…俺も、すぐに逝く…」

とめどもなく流れる泪。

「最期まで、見届けて下さいね」

エミールはそれに苦笑を返し、小瑪の顔を両手で包んだ。

エミールにとって思いもしない事態であったろうに、エミールはすべてを受け入れていた。

「泣かないで下さい。私は、ずっと貴男の側にいますから」

微かに頷く小瑪の額に口接け、また唇を合わせる。

「ありがとう、小瑪。私は、幸せでした。初めて、生まれてきて良かったと思えました。貴男の…貴男とデゼロのお蔭です」

エミールはくすくす笑った。息は途切れるようになってきているのに、決して苦痛を表に出さない。

「小瑪、これは私の願いです」

小瑪は短剣を握り締めたまま、泪を流し続けた。そんな小瑪を、エミールが抱き締める。

身動いだ小瑪は、短剣がこれ以上進でしまうことを怖れた。

「貴男は、何も悪くありません」

何がきっかけで小瑪が動いたのか…人魚の、しかも懐かしい、薫りのする短剣をどこで手に入れたのか…知らない。知らないけれど、これでいいのだと思う。

見ず知らずの者に殺されるより、愛する者の腕の中で果てたい。小瑪が今こうしていなければ、自分で命を絶っていただろうから。

独りで逝くよりも、誰かに…小瑪に、側にいてほしかった。

勝手かもしれない…でも、これでいい。

これで……

「…エミール」

小瑪を抱いだくエミールが、見る見る光となっていく。

「すぐに…すぐに逝くから!」

小瑪は声を震わせ、一時でも離れることに怯えた。

もし、いま離れて、再び会うことが叶わなければ…?

「大丈夫…大丈夫です、小瑪。だから、私の最後のお願いを、聞いて…」

さすがに耐えられなくなってきたのか、エミールが双眸を眇める。息が切れ切れに、短くなった。

「小瑪、愛しています」

泪も儚く消えていく。

「愛しています。私の分も生きて…」

「え…!」

小瑪は愕然と顔を上げた。

「何を! 俺もすぐに逝く!」

しかし、エミールは首を横に振る。

「いいえ。あなたは生きて…私が生きられなかった分も…貴男まで、死なないで…」

「馬鹿なことを言うな! お前なしで、生きていけるはずがない!」

「私は、貴男に呪をかけます。そうすれば、自分で死ぬことは叶いません…」

「───」

小瑪は、あまりに残酷な願いだと思った。そんな願い、聞けるはずがない。

「ごめんなさい。貴男に、選択の余地はありま、せんね…すべて、私の独断です…」

苦笑いを浮かべる顔が痛々しすぎ、小瑪は絶望で視界を揺らした。

「……エミール…どうして…?」

「貴男を、愛しているから…」

何度も何度も口接けを交わし、愛を囁く。

「私は、貴男に、生きてほしい」

「…俺は、お前と一緒に生きたい」

「でも、それだと、いつか、貴男を殺してしまうかもしれません…そんなのは、嫌です」

「俺だって、嫌だ!」

今こうしていることも、自分のためだと覚悟したのに…

次第にエミールの感触が薄れてきた。

「エミール!」

一緒には逝けない。小瑪は独り…エミールも…

「駄目だ、エミール!」

何もするな!

小瑪は必死に叫んだ。しかし、エミールが深く口接けてきて…

(ああ…)

完全に呪がかけられたことを悟る。

泪が溢れて、止まらない。

「愛しています、小瑪」

瞬間、エミールは光となって弾けた。

光の欠片カケラが小瑪の周りで舞い、散り散りに消えていく。

キイィィン…と、小瑪の手から滑った短剣が“椅子”の上で跳ね、海の底へ落ちていった。



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