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「口に合うといいんだが……」
待って、如何してこうなった――――!?
「食べないのか?」
「い、いやぁ……お腹減ってなくて」
そう口では言うが、タイミング悪く腹の音が鳴った。
「毒など入っていない。遠慮せず食べろ」
目の前には、美味しそうな朝食。
テーブルを挟んで向かい側に座っているのは、この国の皇太子であるリースin元彼。
食べたことも見たことも無い豪華な食事が純白の皿に盛り付けられているところを見て、私は喉をごくりと鳴らした。
空腹感が半端なく、ぷるぷると子鹿のように震える手は目の前の純銀のフォークとナイフを手に取ろうとしていた。
リースは行儀よく食べている。分からないけど、食事のマナーが身についている感じだ。
しかし、私はどうだ?こう言った食事の場は初めてであり、マナー作法など知らない。貴族ではなく聖女だが汚い食べ方でもしたら皆ぎょっと目をむくに違いない。
だから、食べようにも食べれないのだ。この空間に私とリース以外いなかったとしても。
「本当に、腹が減ってないのか?」
「お、お腹へってます……分かりました、食べます。食べればいいんでしょ!」
私は意を決してそれを掴んで口に運ぶ。
「んんんッ!?」
――おいしい。
その言葉が頭に浮かび、思わず涙が出た。だって、前世では味気のないコンビニ弁当を食べていたから……
そもそも一人暮らしなのに自炊も出来なければ、スーパーまで歩くのが面倒くさく真下のコンビニで弁当か冷凍食品ですませていたから。
私は、次々と料理を口に運んだ。
リースは、そんな私の様子を無表情で見つめていたが、不意にフワリと笑みを浮かべた。
「何よ、じっと見て」
「綺麗に食べるんだな、と思って」
そう言われ、私はふと手元を見た。
確かに、上手く肉は切り分けられているし、パン屑一つ落ちていない。
私がこんなに上手く食べれるはずないのに!
私は思わずフォークとナイフを落としてしまった。幸い机の上だったので急いで拾ったが、リースはというと目を丸くしていた。
(こ、これは……異世界補正って奴か……!? 一応一般マナーと作法はシステムがやってくれるという仕様なのか!?)
私は内心パニックになりながらも、何事も無かったかのように黙々と食事をする。
部屋に響くのはナイフとフォークが食器にぶつかる音だけ。
今更だが、私はリースと二人きりで食事をしている。
勿論メイドも執事もルーメンさんもいない。本当に二人きりである。
正直、私としては気まずくて仕方がない。会話という会話はなく、あちらから話しかけてこない限り、私は料理を口に運ぶ以外口を開けないし、リースから喋りかけてきても一言二言で会話は途切れる。
かといって、会話をしたいわけでもない。
(だんだん味しなくなってきたよ……そんな見つめないで)
私は視線を感じながら、それでも食事を続けた。そして遂に完食した。
「美味しかったか?」
「うん、すっごく美味しかった!じゃなくて! ちょっと、朝からどういうつもり!? 何でアンタと二人きりで食事しないといけなかったわけ!?」
「俺がお前と食事したかったからだ」
「理由になってないのよ!」
私と食事できたことに満足したのか、リースの頭上の好感度はピコンという音を立てて上昇し73という数字を刻む。
勘弁して欲しい……
私は、リースの好感度を見ながら肩を落とした。これ以上上がり続けるとすぐ100に到達してしまう。まだリース以外の攻略キャラに一人も会っていないというのに。
「今日は神殿に行くと聞いているが、俺も同伴させて貰う」
「はあ!?」
いやいやいや、何言ってんのこの人!?
聖女の付き添いなんて普通しないでしょうが! しかも皇太子! アンタは仕事が一杯あるの!
私は、立ち上がって抗議しようとした。しかし、リースはもう決めたとでもいうような顔で私を見ている。
中身が遥輝なので納得は出来るが、彼の一度決めたことは絶対に曲げない性格は昔から厄介だった。私が欲しいといっていったクレンゲームの人形を取るまでお金をつぎ込むほど。
しかし、これ以上リースといたらまた好感度が上がってしまうに違いない。それは何としても避けなければ。
「別にいいだろ」
「いいわけないでしょう!悪いけど、私は一緒に行く気なんて――――」
「それはなりません、殿下」
その時、私達の会話を遮るように部屋の扉が開き、振返るとそこにはかなり怒った表情のルーメンさんが立っていた。