「何故俺の許可なく、はいってきた?」
リースは、不機嫌そうな声でそう言った。
いや本来二人きりで食事していること自体が可笑しいんだって!
私は内心ツッコミを入れつつ、二人を交互に見ていた。リースは私と自分の間に入ってきたルーメンさんが許せないのか、今にも殺しにかかってきそうな目でルーメンさんを睨んでいた。しかし、ルーメンさんはそんなリースの目にひるむことなく口を開いた。
「聖女様はこれから身支度をしなければならないのです。それに、殿下も公務があるではありませんか。ただでさえ、時間が押しているというのに……殿下が聖女様とどうしても食事をと仰ったので無い時間を縫って来たのですよ。これ以上は時間を作れません。早く執務室へ戻って自分の仕事にお戻りください」
「そうよそうよ……ううん、えっと殿下もお仕事があるなら、そちらを優先にして下さい。私の事はお気になさらず」
ルーメンさんの援護射撃に、私も乗っかる。
いつものように遥輝と接する口調で話してしまったが、此の世界での彼は皇太子。いくらルーメンさんの前とはいえ、帝国を救う聖女として扱われているとはいえ、馴れ馴れしい口調で話すのはいけないと慌てて言い直した。
ルーメンさんは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにリースの方を向いて一礼した。
「殿下。今は殿下にとってとても大切な時期です。聖女様を帝国民の前で発表する準備もあるのですから、どうかご理解を……」
リースは、ルーメンさんの言葉で冷静になったのか、無表情のまま私に向き合った。
「……だそうだ。俺はいけそうにない。悲しいだろ? 俺と一緒に行けなくて」
「いや、全然」
「……そうか。じゃあな」
リースは悲しげな顔をして部屋を出て行った。彼が横切った際、リースの好感度はい1減少した。
(そのまま下がってくれないかなあ……)
私はそんな彼を見送りながら、ふぅと息を吐く。
「とんだ災難でしたね、聖女様」
「あはは……全くです」
リースが出て行き、ほっとした様子のルーメンさんの言葉に苦笑いを浮かべた。
「それにしても凄いですね、ルーメンさんは!」
「何のことですか?」
私の言葉の意味が分からなかったのか、ルーメンさんは首を傾げた。
私はリースが完全にいなくなったのを確認し、ルーメンさんにコソっと耳打ちした。
「だって、皇太子にあれだけ強く出れるのって凄くないですか?いくら補佐官でも彼の気分次第で首が飛ばされる可能性だってあるわけですから」
「ああ、そのことですか……大丈夫ですよ。そう簡単に殿下は私の首を飛ばさないでしょう」
ルーメンさんは何でもないことの様にさらっと言った。
いやいや、それって結構すごい事だから! 確かにこの世界の人にとっては、リースの機嫌を損ねるのは死を意味するだろうし。
しかし、ルーメンさんを見ると本当に何も心配していないような顔をしていた。
それが、さも当たり前であるかのように。まるで、自分が切られないことを確信しているかのように。
それに、頑固なリースもあんなにも簡単に引き下がったし。
「ルーメンさん実は、リースの中の人と友達だったりして」
「ま、まさか。あの方は皇太子ですよ?」
冗談半分で言った言葉だったが、一瞬だけルーメンさんは激しく動揺した。
ど、どうしよう、図星なのかな……
私がルーメンさんの反応を見て、固まっているとルーメンさんは誤魔化すように咳払いをした。
そして、いつも通りの笑顔に戻ると私に話しかけてきた。
うーん、気になるけど……これ以上追及するのはやめておこう。なんか怖いし。
「さて、聖女様。身支度をしましょうか。これから忙しくなっていきますから」
「あ、そういえば神殿に向かうとかなんとか言ってましたもんね」
リースの事で頭がいっぱいだったけど、今日のメインイベントは神殿に行くことだった。
「殿下のせいで時間が押してしまったので」
と、ルーメンさんは少しだけ眉根を寄せた。
中身が遥輝だからいいものの、本物のリースだったら今頃ルーメンさんの首はとんでいただろうなと私は苦笑した。
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