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イイ人やめました。うまく行ってたんだけどな

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イイ人やめました。うまく行ってたんだけどな

2 - 第2話 あの人、最近ちょっと冷たくなりましたよね。

2026年01月31日

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 休憩室でそう言ったら、何人かが曖昧に笑った。否定もしないし、肯定もしない。そういうときの沈黙は、だいたい答えだ。



 前は違った。

 分からないことがあれば聞けばよかったし、困っていれば向こうから声をかけてくれた。ミスをしても、私が上司に呼ばれる前に、さっと間に入ってくれることもあった。


 正直、助かっていたと思う。


 でも最近は、聞かないと何も言わない。

 頼むと、一拍置く。

 「今日は無理」と、普通に言う。


 別に、怒っているわけじゃない。声も表情も穏やかなままだ。ただ、前みたいに“先回り”しなくなっただけだ。


 それが、こんなに居心地悪いとは思わなかった。



 昼休みも、あの人は一人で過ごすことが増えた。スマホを見ているわけでもなく、誰かを避けている様子もない。ただ、そこにいる。以前みたいに、誰かの隣に自然に収まらない。


 私は声をかけようとして、やめた。

 理由はよく分からない。

 話しかけて、何かを頼む流れになるのが、急に怖くなったのだ。


 前は、そんなこと考えなかったのに。



 「最近、忙しいんですか?」

 思い切って聞いたとき、あの人は少し驚いた顔をしてから、首を振った。


 「忙しくはないよ。前と同じ」


 じゃあ、何が変わったんだろう。



 変わったのは、たぶん私たちのほうだ。

 あの人が“やってくれていたこと”を、仕事だと思っていなかった。

 好意とか、性格とか、そういう曖昧なものだと思っていた。


 だから、なくなったときに文句の言いようがない。



 冷たくなったわけじゃない。

 ただ、近くなくなっただけだ。


 それに気づいたとき、私は初めて、自分がどれだけ近づきすぎていたのかを知った。





あの人は、もともとそういう人だと思っていた。


 出しゃばらないけど気が利く。

 誰の味方というわけでもなく、でも結果的に場が丸く収まる。

 私とは少し距離があって、それがちょうどよかった。


 だから、変化に気づくのが遅れた。


 頼まれごとを断るようになったことも、雑談に参加しなくなったことも、「余裕がなくなったのかな」くらいに思っていた。


 ある日、ふと気づいた。

 あの人、私に何も頼まなくなったな、と。


 以前は、ちょっとした確認や愚痴を投げてきたのに。

 今は、仕事の話しかしない。


 たぶん、線を引かれたのだと思う。


 分かっているつもりで、一番、何も見ていなかったのは私だった。





評価はしていた。


 仕事ができる。空気を読める。調整がうまい。若手のフォローも自然だし、感情的になることもない。

 人柄も、穏やかで信頼できると思っていた。


 管理職としては、非常に助かる存在だった。


 だから、最近の変化には少し困っている。


 頼めばやってくれるが、即答ではない。

 理由もきちんと説明される。

 反論も、丁寧だ。


 間違ってはいない。

 むしろ、正しい。


 ただ、前のような“融通”がきかなくなった。


 気づいてしまった。

 私は、彼女の善意を、業務の一部だと勘違いしていた。


 評価はしていた。

 でも、守ってはいなかった。





別に、何も変わってないと思う。


 頼めば引き受けてくれるし、断るときも理由を言う。

 雑談だって、したければしてくれる。


 ただ、無理をしなくなっただけだ。


 ランチに行く日もあれば、行かない日もある。

 それを気にしなくなった。


 前より静かで、前より楽だ。


 たぶん、あの人は「イイ人」をやめただけ。

 同僚でいることを、選び直しただけだ。


 私は、その隣にいられるなら、それでいい。

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