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深夜、フルーユ湖に浮かぶ島。
ボスと対峙していた俺・テオ・ネレディの前にナディが現れ、『魔物使い』というレア称号を取得。
さらにヒュージスライムのスゥと【使い魔契約】を交わす。
スゥがナディや自分達に襲い掛かる心配が無くなり、ホッとしたネレディとテオは臨戦態勢を解除したのだった。
「ところで、スゥに聞きたい事が色々あるんだけど……ナディちゃん、通訳お願いできるかい?」
ナディは元気に「いいよー!」と答え、スゥも勢いよくぽよっぽよっと跳ねる。
「『さっきのおれいに、なんでもこたえる!』って、はりきってるみたい!」
「お礼? そういえば、俺達がスゥを助けたとか言ってたよな……あれ、どういう意味なんだ?」
「スゥはね、この原っぱでうまれてから、ず~~っと『くろくて こわくて いやなもの』につきまとわれてたの。でも、お母さまやテオやタクトが、くろいのをけしてくれたんだって!」
笑顔で答えるナディ。
続けてスゥが体を伸び縮みさせ、その動きを見たナディが通訳。
「『たすけてくれてありがとー』っていってるよ!」
「どういたしまして。じゃ、お言葉に甘えて聞きたいんだけど……」
俺が質問すると、スゥはこちらの言葉をちゃんと理解し相槌を打つかのようにコクコクと揺れ、それからジェスチャーで何かを伝える。
その都度ナディがスゥの意思を通訳するという形で、どうにかやり取りをすることが出来た。
その時には既に『黒くて怖くて嫌な感じがするもの』に憑《と》りつかれていて、生まれて最初に見た光景は、自分を中心に凄い勢いで広がりゆく灰色の霧だったらしい。
霧が広がりきるとすぐに、他の魔物達が生まれてきた。
当初スゥは彼らとコミュニケーションをとろうとしたのだが、魔物達は揃いも揃って凶暴で、寄ってたかってスゥをいじめてきたのだ。
とはいえ遠くへ行こうとすると、自分の周りの黒いものから放たれる“嫌な感じ”が強くなり動けなくなってしまうため、この草原から離れることができず。
逃げまくる過程で、称号『臆病者』――ひたすら戦いを避け、逃げ続ける者に与えられる――と、スキル【隠密】――気配を消す事ができる――を習得。
習得後は【隠密】を常時発動した状態で、木の陰に隠れて他の魔物達をやり過ごした。
「木の陰にって、その大きさでどうやって隠れるんだよー?」
テオがツッコむ。
「そういやそうだ。いくら霧だらけでも、さすがにこの大きさじゃな……」
と改めてヒュージスライムのスゥを見上げる俺。
戦闘開始前までは体長4mはあったし、現在はふた周りほど体は縮んだとはいえ、俺達よりだいぶ大きい。
この草原に生える木の幹はそこまで太くなく、生え方もまばらにぽつぽつである。
どう頑張っても隠れるのは無理なんじゃないかと思えたのだ。
スゥは、ぷるぷるっと震えるように何かを伝える。
「えっと……『からだを、ちぢめたんだよ!』だって」
ナディが通訳すると同時に、ふんっとスゥが気合いを入れる。
するとみるみるうちにスゥの体が縮みはじめ、直径15cm程になって止まった。
「『ここまでなら、ちぢめるんだ!』」
思わずポカンとしてしまう俺・テオ・ネレディ。
俺がたずねると、スライムは先程までよりも身軽そうにぴょこぴょこと跳ね、そしてナディが広げた左手に飛び乗った。
「『うん、かえられる。かえると、はやくうごけるようになるんだよ!』だって」
ナディは通訳しつつスゥを撫でた。
スゥは気持ちよさそうに、ふるふるっと体を震わせる。
「そ、そっか……じゃあ質問の続きなんだけど……」
初めて知る事実に内心びっくりしながらも、俺は質問を続けていく。
他の魔物達から逃げ続けていたスゥなのだが、しばらく経ったある日、武器を持って怖い顔をした人間達が草原を訪れるようになった。
スゥはそれまでと同じように【隠密】で気配を消し、逃げたり隠れたりしようとしたのだが、人間達は執拗に何かを探し回っていて、草原の中に安全地帯が無くなってしまったのだ。
穴を掘ってからは襲われることこそ無くなったものの、暗くて冷たい土の中にいるのは自分だけ。黒い嫌なものは変わらず付きまとってきて、違う意味で長く辛い孤独な日々を過ごし続けていた。
そして今日、いきなり掘り出されたのだ。
何が何だか分からないまま、外の世界が久々に見えたと思ったら、急に黒いものに乗っ取られるように意識を失う。
その後、ぼんやりと気が付いたら俺達と戦っていて、俺に光の球をぶつけられるたびに、だんだん体の自由と意識が戻っていくのが分かった。
そして黒いものの嫌な感じが完全に消えたと思った瞬間、辺りの霧が晴れ、その後は俺達が見た通りらしい。
ひと通り聞きたい事を聞き終え、満足した俺。
俺が労うように言葉をかけると、スゥはふよふよっと横に揺れた。
ナディはスゥを連れて帰りたがり、スゥもそれを望んだ。
最初のうちは「さすがに魔物はちょっと……」と渋っていたネレディだったが、【使い魔契約】によってスゥが人間に危害を加える心配はないことや、「万が一ナディに危険が迫った時は自分が守る」とスゥが言い張ったことなどから、連れて帰ることを何とか認める。
ナディとスゥは飛び上がって喜んだ。
そしてスゥは最小サイズまで縮んだ状態で、ナディのポシェットの中へとすっぽり収まり、常時【隠密】で気配を消しての同行が決まった。
辺りはまだ暗く、朝になるまでにはまだかなり時間がある。
いったんネレディの別荘に帰ろうとしたところ、ナディが何かに気付いたような声を上げた。
「まって! タクトに、つたえたいことがあるっていってるよ!」
俺が「え、スゥが?」と聞くと、ナディは「ううん」と首を振る。
そして、俺の腰のあたりを指さして答えた。
ナディが指したのは、俺が装備している『手作りの片手剣』。
俺とテオは、思わず大きな声を出してしまった。