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ラスティが医務室から、薬や包帯をもらってきた。
お互いシャンディを起こさないようにと無言のまま、シャンディの左の袖をそっと捲り、手当を静かに進める。
やはりラスティも怪我の手当てには慣れているのか、ものすごく手際が良い。
いつのことだったのか、懐かしいことを思い出した。
キールとシャンディの3人で流行を勉強しようと言って、街をウロウロした時のことだ。
キールが履き慣れない女性用ヒールだったので靴擦れになり、シャンディがそれは手際よくハンカチで手当てをしていたことが思い出された。
「やっぱりガフ領の者は手際が良いな」
ポツリと呟く。
隣で手当てしながらもラスティが微笑む。
「そうですね。ガフ領の者は幼い時から訓練などで怪我には慣れていますから」
「シャンディも前に同じことを言っていた」
「そうなんですね。シャンも幼い頃からずいぶんと怪我をしてたけど、いつもケロっとしてましたよ。きっと、この怪我もすぐに治しますよ」
「そうだといいな」
お互い、シャンディを見つめながら会話をする。
しばらくの沈黙の後、意を決して聞いてみる。
「ラスティはなぜ、俺のところにシャンディを連れて来た?ラスティはシャンディのことが好きだよな。そして、シャンディもラスティのことを想っているのではないか?」
ラスティが俺の方を目を見開き、驚いて見ている。
そして、少しの間があってから静かに口を開く。
「ええ、シャンのことが好きですよ。友人以上の好きの気持ちです。でも昨夜、俺は決定的な失恋をしました」
「え?」
「畏れながら、クリス殿下もシャンディのことが好きですよね?」
気づいていたのか。
俺はラスティを見据えて、静かに力強く答えた。
「俺も好きだ」
真っ直ぐにお互いを見る。
「ラスティは昨夜、失恋したというのはシャンディに気持ちを打ち明けたのか?」
ラスティがシャンディを見ながら首を横に振るだけで、その問いに答えない。
「クリス殿下はガフ領で「死体をよろしく」と言われた時の意味を知っていますか?」
昨夜、シャンディが俺に言った言葉だ。
なんのことだか、さっぱりわからなかった。
「いや、全く知らない」
隣にいるラスティが穏やかな顔で微笑む。
「大事な方が亡くなられた時に最後のお見送りをされたことはありますか?」
俺は大きく頷く。
「祖父母や何人か大事な人を見送った」
「そうだったんですね。辛いことを思い出させてしまいますが、その時に最後の最後まで故人に触れていたのはどなたでしたか?」
祖父が亡くなった時、祖母は棺に蓋をする最後の最後まで、愛しそうに何度も何度も「ありがとう」と呟いて、祖父の顔を撫でていた。
「……あっ」
俺は自分で導き出した答えに絶句する。
まさか…
「愛する人が触れていますよね」
ラスティが優しく微笑む。
「ガフ領では戦争で亡くなることがとても多い。遺体となって帰った時に、愛する人の手で葬ってほしいといつも願っている。だから「死体をよろしく」と言われた者は人生の最後までそばにいて欲しいということで「プロポーズ」を意味するのですよ」
あまりにものことに言葉が出てこない。
「昨夜のクリス殿下はシャンディにそれを言われて「なんのことだ?」と返してましたよ」
ラスティがものすごく悪い顔で微笑む。
確かに俺はそう言った。
「あの時、あの瞬間に俺は失恋した訳ですが、この調子だと俺にもチャンスは巡ってくるかもですね」
ラスティは一瞬淋しげな顔をしたかと思えば、可笑しいことを思い出したかのようにクスッと笑い、目を細めた。