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決定的な事が起こったのが、二〇二四年も後半に差し掛かる時期。
この日は久々に演奏依頼があり、侑は大きなホールで地元で有名な管弦楽団と共演した。
日中のプログラムで、演奏会が終了して彼が会場を出たのは、そろそろ夕方になる時間。
レナと同棲しているマンションへ戻り、解錠させて部屋に入ると、寝室から如何わしい声が微かに聞こえてくる。
部屋の様子がおかしいと感じた侑はベッドルームの前に立ち、様子を伺うように、音を立てずに若干ドアを開ける。
ほんの少しの隙間から見えたのは、ベッドの上で、レナがシュナイダーの上に跨がり、腰を前後に振っているところだった。
『ああぁっ…………あんっ……気持ち……いっ……はうぅっ…………んんっ……気持ち……いいのぉっ』
シュナイダーは細く括れた恋人の腰を掴み、膝を浮かせて腰を激しく突き上げている。
髪を振り乱し、腰をくねらせ、豊かな乳房を上下に揺らすレナ。
浮気相手の男と身体を交えている恋人を尻目に、
(オーストリア人とセックスしても、喘いでいる時は日本語なんだな)
と、どこか冷静になりながら毒付く。
その瞬間、侑の中にあった憑き物が落ちたように感じ、次第に乾いた笑みが浮かび上がる。
(俺がいない間に、この女は男とヤリたい放題だったワケだ。俺の両親が亡くなった時の、電話越しに泣いて縋るような声は何だったんだ? 葬儀が終わって、また日本へ戻った時、俺を支えたいと答えたのは嘘で、その間にシュナイダーと関係を持ったって事か?)
色々思う事はあるが、侑はバカバカしくなり、考える事を放棄した。
『フンっ…………アホらしい』
レナの浮気を目の当たりにし、信じていた恋人に決定的に裏切られ、全てがどうでもよくなった侑は、さり気なさを装い寝室のドアを徐に開ける。
『あぁんっ……あんっ…………ああぁっ……イクっイクっ……いくぅっ——』
レナは侑に気付いていないのか、男とのセックスに夢中で喘ぎながら絶頂を迎えた。
シュナイダーの身体に覆い被さるように倒れ込んだレナに、侑は表情を殺して低い声音で冷淡に言葉を放つ。
『…………相当気持ちのいいセックスだったようだな』
唇を微かに歪ませ、侑の言葉に驚愕したレナとシュナイダーは、全裸のまま、慌てて身体を離した。